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第七章 天竜国編
第11話 天竜国のダンジョン4
しおりを挟む史郎達が大部屋を抜けると、昇り階段があった。
比較的緩い勾配を30段ほど上がると、通路が現れる。
恐らく第2層に入ったのだろう。アーチ型の通路が塵一つないのは、第1層と同じだ。ただ、通路の幅がだいぶ広くなっている。およそ6~7mは、ありそうだ。
俺達は、薄ぼんやり光る壁に照らされた通路を進んでいった。
リーヴァスさんが立ちどまり、唇に指を当てる。俺達は足音を殺し、ゆっくり前進した。
右手に部屋の入り口が見えてきた。第1層の部屋より入り口の幅が広い。第2層のモンスターが、第1層のモンスターより大型だからだろう。
情報によると、オーガと角サイと言うことだ。
リーヴァスさんによると、オーガは、ゴブリンと同じく人型だが、大きさは倍近くあり、戦闘力も遥かに高いそうだ。
部屋の入り口から覗くと、奥の方に、大型の人型モンスターが一体いる。
「オーガです」
リーヴァスさんのおし殺した声が聞こえる。
ミミとポルは、すごく緊張した顔をしている。彼らは、アリストでハピィフェローの面々と討伐に出た時、オーガと戦ったことがあるそうだ。
リーヴァスさんの指示で、ポル、ミミは部屋の中、俺、ルル、コルナは外で待機する陣形を取る。
リーヴァスさんが、ゆっくりオーガに近づく。
2mを越えるオーがの巨体が、こちらに振りかえる。
そこには、日本の昔話で出てくる鬼がいた。腰の周りに動物の皮のようなものをまとっているから、知性もありそうだ。
そいつは、床から巨大な棍棒を拾いあげた。
リーヴァスさん目掛けて、殴りかかる。スピードは比較的遅い。
リーヴァスさんは、余裕をもって躱しながら、ミミとポルを呼んだ。
三人でオーガを取りかこむ。
オーガは、のべつまくなく棍棒を振りまわしている。全く当たらない攻撃に焦れたのか、奴は叫び声を上げた。
「ぐわわわわっ」
恐らく、リーヴァスさんは、オーガとの戦いを通し、ミミとポルの戦闘指導をしたいのだろう。
「ミミ、攻撃しようと意識するより、相手をよく見て」
「ポル、人型は足首から下に攻撃の兆候が出るから、それに注目して」
こういう的確なアドバイスを与えている。同じ黒鉄ランクといっても、なりたての俺とは大違いだ。
『(*´ω`) ベテランになっても、ご主人様には教えられないと思うけど』
ぐさっ。点ちゃんの指摘が俺にクリティカルヒットする。まあ、でも、その通りだね。
そうやって、のんびりしていたら、ルルの鋭い声が聞こえた。
「オーガが、一体来ます!」
どうやら、先ほどの叫び声を聞いたお仲間が駆けつけたようだ。
史郎、ルル、コルナは、通路の向こうから近づくオーガに備え、配置を変えた。
-----------------------------------------------------------------------
史郎達の陣形は、ルルが前衛、俺とコルナが後衛の形だ。
近づくオーガは、すでに顔の表情が読み取れる所まで来ている。そこには、殺意だけがあった。
オーガが、5mまで近づいたところで、コルナの火魔術がヤツの胸にぶつかった。オーガはすさまじい悲鳴を上げ、胸の火を叩きけした。
コルナに標的を定めた奴は、更に一歩前に出る。ルルがその膝のあたりに切りかかる。しかし、皮膚が固いせいか、薄手を負わせただけだった。
俺がコルナの前に出る。
コルナに向け、拳を振りあげていたオーガは、俺とコルナ両方を吹きとばす勢いでそれを振るった。
ガキンッ
まるで金属同士がぶつかったような音がする。オーガは俺を殴った右手を抱えて唸っている。倒れないのは凄いが、奴の右手は、指が変な方向へ曲がっていた。
ルルが、さっき攻撃した膝付近に再び切りかかる。その負傷で体重を支えられなくなったオーガの巨体が地響きをたてて倒れた。
コルナが唱えた火の玉が、大きく開いたオーガの口に飛びこんだ。
ボフッ
クッションを殴ったような音がすると、オーガは動かなくなった。両耳と口から煙が出ている。
「うー、怖かったー。
お兄ちゃん、ルル、守ってくれてありがとう」
コルナは、戦闘が終わってホッとした様子だ。
「シロー、あまり無茶をしないで」
ルルは、少し怒ったような顔で俺を見ていた。俺が、古代竜からもらった加護、「物理攻撃無効」に頼った対処をしたことが気になっているのだろう。
「ああ、ルル。
心配してくれてありがとう」
俺がそう言うと、彼女の表情が和らいだ。
後ろの部屋からミミ、ポル、リーヴァスさんが出てきた。中のオーガを倒したのだろう。
「今回は、二体だけでしたからなんとかなりましたが、オーガの叫び声には気をつけねばなりませんな」
確かに、仲間を次々に呼ばれたら、対処が難しくなるだろう。やはり、第1層に比べると、ダンジョンの難度がぐっと上がったようだ。
一行は、リーヴァスを先頭に、通路を奥へと進んで行くのだった。
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