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11・side アージェン 1
しおりを挟む昔、家を出る際に無表情で無口な父が珍しく話してくれた事があった。
我が家の始まり。始祖は夜の神だと。
夜の神は。
精神を司り、暗闇への不安や恐怖を与えるが故に畏怖されるが、その反面。心中の不安や恐怖を包み込んで消化し、癒しを与えるのだと。
夜の神の片鱗を持つ我が一族は相手の精神に関わるスキルを持つ者も多く、畏怖される事も多い。
だが、己の伴侶の心を癒す事には長けている。
その心の傷や疲弊が深いと癒しに反応し、酩酊状態や依存状態に陥る事もある。
そして、家名の由来。
我が家係の雄は己の片割れ、伴侶の血を強く求める。
片割れ以外を受け入れる事は無く。
見つけた片割れは決して離さない。
見つけられなければ生涯独り。
己の伴侶を見つけよ。
そんな言葉を思い出した。
俺は家族の中では異色だった。
他国から嫁いだ母は深青の髪と深紫の瞳を持っていたが、父も兄も弟も漆黒の髪に紅玉の瞳を持っていた。
同族の者達でもそれに付随した色を持つ者が多く、俺の青銀の髪と紫水の瞳は目立つ物だった。
だからと言って冷遇を受けた訳でも無い。
時折開かれる同族の集まりでは俺の髪色を見て、何故一族外の者が混ざっているのだ。と子供に指を差される事もあったがそういった事は周囲の大人が窘めていた。
俺にとってはどうでもいい些細な事だった。
母は俺達兄弟を平等に扱い。
父は誰に対しても無表情で淡々としていたのである意味平等だったと言える。
しかし兄には避けらていた。
その事で生活に不自由は無かったが、兄を不快にしてまで家に居る事もないか。と魔獣を狩れる騎士が不足している神殿に身を寄せた。
家を出て一族以外の者と関わる様になると、殆どの者が俺を畏怖した。
目を合わせないか遠巻きに見る者。
もしくは…媚びを売る者。
普通に接するのは極僅か。
それもどうでも良かった。
所詮は他人だと、関わりの無い者がどう思おうと関係無いと。
そんな時、護衛の任を受けた。
聞けば。今朝方浄化力を持つ創成神の神子が二人神殿内に降臨したと言う。
ああ、それでかと納得した。
今朝神殿を中心とする空気が一気に変わったからだ。
最近はいくら神殿騎士が巡回しようと空気の澱みは晴れなかった。
そして今も強い浄化を神官棟の方から感じる。
俺が担当するのは十四~十五歳の少年だと言う。
大丈夫なのか? 神子を恐がらせたとして不敬だ何だと面倒な事になるのでは?
隊長にそう問うたが、神子をを守るのに最も適した条件を持っているのはお前とユースだ。と言われた。
挨拶に向かった先では強烈な浄化を放つ少年が二人いた。
混ざりの無い銀がキラキラと輝いていて、護衛対象の少年は俺の瞳をじっと見つめて来た。
俺の事が恐くは無いのだろうか。と思ったが銀の瞳は逸らされる事は無かった。
二人の兄弟の仲は良好に見えた。
兄は無邪気に話す弟を慈しむ様に見つめ。
弟は兄に懐き、兄の作る食事が好きなのだと熱く語った。
食堂で話し掛けられた時は何故か胸の奥がじわっと熱くなった。
初めての感覚だ。
俺の心配をしている? そう思うとふわふわした感情が生まれたが、今は護衛中だと気を引き締めた。
手ずから作ったと言う弁当は美味しかった。
この容姿で料理の腕も良いなら、特別な能力等無くても嫁にと望む者は後を絶たないだろう。
…………。
…料理が上手く、俺を労わってくれる神子が誰かに求婚される事を想像すると、何故か相手を切り刻みたくなる衝動に駆られた。
厨房に入り食事を作りたいと言われた。
いつもは他人事に心が動く事は少なかったが、この時は護衛対象の望みを今直ぐにでも叶えたい。満足させたい。その気持ちが大きく膨れた。
だがここは神殿内であり神子の身柄も恐らくは神殿長の管轄内。
…許可が必要か。と了承を得るべく隊長の元へ足を運んだ。
了承は直ぐに得る事が出来た。
丁度休憩中で隊長の元に神殿長が居たからだ。
神殿長直々に了承と対策を聞き。
隊長からは、「神子様は尊き御身だ。失礼の無い様にな」と軽い調子で言われ。
膝に神殿長を乗せながらの、説得力が無い言葉に、諾の返事をして。あの強烈な浄化を感じる方へと戻った。
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