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13・朝からパニック

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 鳥の鳴き声がする。
 ああ、朝の雰囲気だ。

 今日もまた、やる気の削られる職場が待ってる。
 何年経っても先に進ませて貰えず、俺だけ取り残されて行く現場。

 いくら俺が視線を逸らしても物言いたげにねっとりと絡み付いて来るあの視線。

 行きたくないけど行かなきゃ。
 せめて資格を取るまでは我慢しないと。

 ………。
 て、ここどこだ? 白い部屋、病院? 記憶無いけど俺倒れた?
 留愛は? 一人で家に居るのか?
 だめだっ帰らないと!



 コンコンッ

 「ルキ様、起きてらっしゃいますか?
 朝食をお持ちしました」

 病院じゃ、ない?
 あー、そっか俺別世界に来たんだっけ? 夢じゃ無かったんだ。

 「ルキ様? お食事と着替えを部屋に置くので開けますね。」

 アージェンの声ではなく、まだ幼さの残る男の子の声だ。
 態々届けてくれたんだ。早く返事をしないとって体を起こした時に、カチャっと扉が開いた。

 入って来たのは留愛と同じくらいの男の子。
 黒に近い茶色の髪で焦茶色の瞳が驚いたように開かれている。

 「ありがとう。
 今起きたところでさ、直ぐに返事出来なくてごめん」

 「い、いえ!僕の方こそ返事を聞く前に開けてしまってすみませんっ」

 返事をしなかった俺の方が悪いのに、その子は慌てて頭を下げる。

 「君はちゃんと声を掛けてくれただろう?起きれなかった俺が悪いんだ。
 だから気にしないで」

 朝からお使いをしてる子に感謝こそすれ、責めるなんて以ての外だ。
 俺は出来るだけその子を恐がらせないようにと声を掛ける。

 「はい…。ありがとうございます。
 あの、それでこれは朝食と着替えなのですが、昨日の服は洗濯の為、回収しても良いでしょうか」

 「洗濯?」

 「は、はいっ、昨日着てらした服を洗濯してお返しするようにと。
 遅くても明日にはお返し出来ますっ、あのっそれで、こちらの着替えを預かって来ました……」

 怒って無い。怒ってないよ。
 だからそんなに焦らないでほしい…。

 「ありがとう。
 自分の服を人に洗わせるのは申し訳無いから教えて貰えたら自分でするよ?」

 「とんでもありませんっ
 神子様にその様なこと……っそれで、あのっ出来れば今来ている寝夜着も回収したいのですが……」

 なるほど、これも洗ってしまいたいから着替えてほしいと。
 そうだよな家事は出来るだけ効率的にしたいよな。

 「お名前聞いても良いかな」

 「ふぇぇっ、ク、クルト…です…っ」

 怖がらせるつもりは無いのにクルト君は怯えた子犬のようになってる。
 参ったな。

 「クルト君、俺の事は留輝って呼んで?
 隣にもう一人居るからさ。
 紛らわしいだろ?だから…ね」

 「ぁ、は、はい」

 まだ固いけどその内馴れてくれると良いな。

 「ん、じゃあ先に着替え………、」

 るよ。と立ち上がりたかったけど、立ち上がれない。

 別に足腰の問題じゃないぞっ! …朝は、ねぇ。自分の意思とは関係無く元気になる子が居るんだ。
 それを同性とはいえ、こんな子供に披露する訳にはいかない。

 でも着替え待ちのクルト君も、予定があるかもしれないから、あまり待たせるのも悪いし……くっ、どうする俺。
 ほんの1、2秒の逡巡しゅんじゅんだった。

 「あ、あのっ僕は平民で不敬だとは思いますがっ、ご、ご希望であればお手伝いしますっ」

 クルト君が顔を赤らめて必死に言い募る。
 別に平民とか不敬とかそんな物は無いんだけど。

 「えっと、着替えを手伝ってくれるのかな?」

 「お着替えは勿論ですが、その…おしもの方を鎮めるのに……」

 「ん゙ぇっ?!」

 変な声出た。
 お兄さん変な声出たよ。

 「何言ってるの?! ダメだよっ君みたいな子供に…って、いやっ子供じゃ無くても人にそんな事させちゃダメだっ」

 「しかし! 高貴なお方は毎朝お世話係が処理を手伝うと…僕、初めてですけど頑張りますっ」

 「いや頑張らないで? 俺っ高貴な方じゃ無いから! ぜんっぜん、そんなんじゃ無いからっちょっとだけ待っててぇぇ…っ」

 俺はダッシュでシャワールームに駆け込み股間に水を掛けた。

 水を掛けられ、しゅーんとなった俺の息子ちゃんにはびっくりさせてごめんね。と心の中で謝っておいた。

 それにしても朝からそんな事をさせる『高貴な方』とは何ぞや。



 待たせてごめんね。と腰タオルで部屋に戻り、着替えちゃうから服かしてくれる? と受け取った服は……ぉおう。
 何コレ、RPGゲームの聖女のローブかな? 白と銀でヒラヒラしてる。

 「あの、こんな綺麗なの汚しそうで恐いから、もっと動き易い服って無いかな?」

 「申し訳ありません。
 ご用意されてたのがその衣装なので…。
 ですが、お伝えしておきます」

 「そっか、ありがとう」

 子犬の様なクルト君を困らせたくはない。
 出来るだけ汚さないように気を付けよう。



 昨日頼んだレクラムさんとの繋ぎも今日の午後に取れたそうで、もう少ししたら調味料一式が届きます。と言って去って行った。


 届けられた朝食はまるで喫茶店のモーニングセットみたいで。美味しい朝食を堪能している時に、隣の部屋から。

 「僕はそんな事しないよぉぉっ」

 と言う留愛の叫び声で、飲んでたミルクティーを吹きそうになった。









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