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少年篇
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しおりを挟むなんて事だ……。
今日、村から一番近い村民登録可能な街、エピから帰って来たところだってのに、再度エピまで行くことになっちまった。
いや、僥倖だとは思うさ! 僥倖だとも! 百年と経たない内に同じ村から〖愛し子〗が顕現したんだ。村を挙げての奇跡だ。しかも村の子供も増えた。
良い事だ! けどさ……タイミング。
俺が村長を務めるクルホ村は辺境の地、ガーランド辺境伯領の端の端。最終地点の最北端だ。
この、狩場と農地、自然豊かで綺麗な水と空気しか無いクルホ村から、役所あり、市場あり、ギルドありの機能的な街エピまでは、荷馬車を引く村の農耕馬の一頭と、付添いを頼んだ村の若衆とで片道三日の距離。
クルホ村の需要性は、潤沢な農作物と酪農品、ターニャの良く効く薬で、他は──今から凡そ八十年ぐらい前に顕現した〖聖女〗の故郷ってぐらいだが、その〖聖女〗様も既にご逝去されてるから、はっきし言って〖聖女〗様が亡くなる十五年程前までちょこ~と国に目をかけて頂いただけの、ただのド田舎だ。
そんなド田舎に、領都からエピを経由した行商人や郵便物が届くのは月に一度。
村の収穫物を売ったり、郵便物を渡せるのも月に一度。
だから片道三日、滞在期間一日をかけてセイの村民登録をしにエピの街に行った訳だが──
街なだけあって、エピはバカ広い。人も多いし雑音も多い。建物は高いし緑は少ない。長閑な村民と違って、粗野な冒険者も闊歩している。正直俺の好みじゃない。早く村に帰りたい。
そう思ってさっさと手続きを終わらせて帰って来たのが今日。
昼前に家に辿り着き、身重の嫁に代わって教会の給食作りに参加した。腹の中に俺の子がいると思えば疲れたなんて言ってられねぇ。
うちの厨房で、給食作りに手を貸してくれる村人の中心にいるのが、教会のロゼ。
王都の下町食堂で働いてただけあって大量に作る賄い料理の腕が良い。
八年前に村に派遣された神父様と一緒に来て、『大切な伴侶です』と紹介された時は驚いたが、非難はしねぇ。
騎士団や冒険者、男所帯の体力仕事の場ではもちろんの事、修道士と修道女、男女が隔離された神殿なんかでも珍しくないと聞くし、村でもそういった組み合わせは少なからず在る。俺としちゃあ村に問題を起こさなきゃそれで良い。
それに、ロゼは村の子供達に給食を作ってくれるし、寄贈本の複写もしてくれている。
神父様は村の子供達に勉強を教え、夏場は村の皆んなに氷を作ってくれる。
二人共、教会の管理をしっかりしてくれていて、村長の俺としても大歓迎だ。
とまあ、こんな感じで約四十人分の給食を作り終え、俺が居なかった間の話を聞きながら嫁と昼メシ。
うちの裏庭にウリ坊が迷い込み、嫁とマリアに突進して来たって聞いた時はヒヤッとしたが、そのウリ坊にマリアが振るった棍棒が直撃。昏倒したウリ坊を駆け付けた親父が山に捨てて来てくれたって話を聞いた時は、我が娘ながら逞しく育った……と、遠い目になり、「ウリ坊一匹通さねぇぞ!」と息巻いて裏庭の柵の強化をしていたところに、ターニャが訪ねて来た。
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