聖者は二人の騎士に愛される

桜歌

文字の大きさ
29 / 64
少年篇

28

しおりを挟む


 なんて事だ……。
 今日、村から一番近い村民登録可能な街、エピから帰って来たところだってのに、再度エピまで行くことになっちまった。
 いや、僥倖ぎょうこうだとは思うさ! 僥倖だとも! 百年と経たない内に同じ村から〖愛し子〗が顕現けんげんしたんだ。村を挙げての奇跡だ。しかも村の子供も増えた。
 良い事だ! けどさ……タイミング。



 俺が村長を務めるクルホ村は辺境の地、ガーランド辺境伯領の端の端。最終地点の最北端だ。
 この、狩場と農地、自然豊かで綺麗な水と空気しか無いクルホ村から、役所あり、市場あり、ギルドありの機能的な街エピまでは、荷馬車を引く村の農耕馬稼ぎ頭の一頭と、付添いを頼んだ村の若衆とで片道三日の距離。

 クルホ村の需要性は、潤沢な農作物と酪農品、ターニャの良く効く薬で、他は──今からおよそ八十年ぐらい前に顕現した〖聖女〗の故郷ってぐらいだが、その〖聖女〗様も既にご逝去されてるから、はっきし言って〖聖女〗様が亡くなる十五年程前までちょこ~と国に目をかけて頂いただけの、ただのド田舎だ。

 そんなド田舎に、領都からエピを経由した行商人や郵便物が届くのは月に一度。
 村の収穫物を売ったり、郵便物を渡せるのも月に一度。
 だから片道三日、滞在期間一日をかけてセイの村民登録をしにエピの街に行った訳だが──

 街なだけあって、エピはバカ広い。人も多いし雑音も多い。建物は高いし緑は少ない。長閑のどかな村民と違って、粗野な冒険者も闊歩している。正直俺の好みじゃない。早く村に帰りたい。
 そう思ってさっさと手続きを終わらせて帰って来たのが今日。

 昼前に家に辿り着き、身重の嫁に代わって教会の給食作りに参加した。腹の中に俺の子がいると思えば疲れたなんて言ってられねぇ。

 うちの厨房で、給食作りに手を貸してくれる村人の中心にいるのが、教会のロゼ。
 王都の下町食堂で働いてただけあって大量に作るまかない料理の腕が良い。
 八年前に村に派遣された神父様と一緒に来て、『大切な伴侶です』と紹介された時は驚いたが、非難はしねぇ。
 騎士団や冒険者、男所帯の体力仕事の場ではもちろんの事、修道士と修道女、男女が隔離された神殿なんかでも珍しくないと聞くし、村でもそういった組み合わせは少なからずる。俺としちゃあ村に問題を起こさなきゃそれで良い。

 それに、ロゼは村の子供達に給食を作ってくれるし、寄贈本の複写もしてくれている。
 神父様は村の子供達に勉強を教え、夏場は村の皆んなに氷を作ってくれる。
 二人共、教会の管理をしっかりしてくれていて、村長の俺としても大歓迎だ。
 とまあ、こんな感じで約四十人分の給食を作り終え、俺が居なかった間の話を聞きながら嫁と昼メシ。

 うちの裏庭にウリ坊が迷い込み、嫁とマリアに突進して来たって聞いた時はヒヤッとしたが、そのウリ坊にマリアが振るった棍棒が直撃。昏倒したウリ坊を駆け付けた親父が山に捨てて来てくれたって話を聞いた時は、我が娘ながらたくましく育った……と、遠い目になり、「ウリ坊一匹通さねぇぞ!」と息巻いて裏庭の柵の強化をしていたところに、ターニャが訪ねて来た。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...