聖者は二人の騎士に愛される

桜歌

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少年篇

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 「セイが〖聖者〗だったよ」
 「は?」
 「アランの毒を消した」
 「へ?」

 折り入った話があるというから、仕事部屋の方に通すと、いきなり本題を口にされて、俺は耳を疑った。

 〖聖者〗……〖神の愛し子〗は世界に一人しか存在しねぇ。だから、数百年前に顕現した国もあれば、未だ〖愛し子〗の恩恵を受けた事の無い国もあるそうだ。

 なのに、百年も経たない内に? しかも、ターニャの家から? 俺は目眩がした。
 八十年前に顕現した〖聖女〗はターニャの妹だそうだ。
 〖聖女〗の顕現がきっかけで、当時廃れたオンボロ集落だったこの村が、国の意向で整備され、(爺さんの感覚で)文化的かつ開放的な村に生まれ変わったんだとか、そして、〖聖女〗様が時の王太子と結ばれて、この国の王妃様となり、この村が更に一目置かれる存在になったのは、俺がまだ産まれる前の話だから、今ひとつピンと来なかったが──

 俺の代でまた〖愛し子〗が現れるなんて夢にも思ってなかった。
 この村は……いや、ターニャには何かそういう特別なものがあるんだろうか? と疑ってしまう。

 「この事を知ってるラルフ一家には口止めしといたよ。で、セイはアタシの家で暮らしたいそうだから、そこんとこよろしく」
 「は? あーーっ! ちょっとっ、待て待て!?」
 「なんだい、煩いね。ちゃんと伝えただろ」

 サラッと爆弾投下して去ろうとするターニャを引き止める。

 「いやいやいや、情報が少な過ぎる! せめて何が何でこうなったのかを説明してくれっ」

 領主様に報告する俺の身にもなって欲しい。
 そう頼むと、ターニャは簡潔に説明してくれた
──



 「……ミュドラ、だって?」
 「ああ、セイが治してくれなきゃアランは足どころか命も落としていたよ」

 ミュドラ──
 体長五十センチ程の猛毒を持った蛇型の魔物……。匂いと振動に敏感で、魔物避けの匂い袋を持ってりゃ嫌がって寄って来ないが、その時アランは持ってなかったという。しかも前日に足を怪我となりゃあ奴らの嗅覚を刺激しただろう。

 王都や領都はどうか知らないが、村に解毒剤なんて物は無く、奴らに噛まれたら、速攻で毒に侵された部分を切り落とすしか無い。しかも、場所が悪けりゃそれも出来ない上に、切断時のショックと出血で命を落とす者もいる。
 だから山歩きには、魔物避けの匂い袋に厚手の服、革のロングブーツに革のグローブが必須だというのに。

 完全にアランの自業自得だとは言え、その競争心を悪気も無く煽ったのはうちのマリア
 こっちの問題も頭が痛い。
 が、先ずはセイだ。

 「セイは本当にこの村で婆様と暮らしたいって?」
 「本人はそう言ってる」

 〖愛し子〗関係は国の優先事項だと聞く。半月後に村に来る配達ギルドの職員に領主様への手紙を預けるのは不味い気がした。

 斯くして俺は、街から帰って来て休む間もなくラルフとセイに事実確認をして、再度、配達ギルドのあるエピの街に向かう事になった。

 ……ザックスんとこの赤子は、両親の身元が分かってるから、名前が決まってから村民登録書を配達員に渡せば良い。そうしよう。









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