自己中心主義勇者 egoistic hero

バード・ポー

文字の大きさ
36 / 93

しおりを挟む
スイートウォーター城では勇者訪問の噂が流れ、カズマの部屋の前には人だかりができていた。

ヒデとミツはカズマの部屋の前に護衛をつけ、人だかりを追い払った。

この事によりカズマはある意味軟禁状態となり、部屋から一歩も出ることなく夜を迎えた。

食事を終えた頃、マリに呼び出しをかけ、サンライト城の状況を聞く。



カズマ:「カズマだ、そっちはどうだ?変わった事はないか?」

マリ:「貴様が闘技場に来ない事を気にする者もいる。忙しいから城に籠っていると言っておいた。そっちはどうだ?」

カズマ:「最悪だ・・・俺が勇者だという噂が流れて部屋から出る事もできない。表に護衛が張り付いていて、まるで軟禁だ。」



カズマがそう言うとマリがクスクスと笑っている。



カズマ:「あ、笑ったな?」

マリ:「勇者様は人気者だな。」

カズマ:「呑気な事言うなよ。俺が来てるって情報が知れたらそっちが危険になる。心配で眠れそうもない。」

マリ:「明日には戻れそうか?」

カズマ:「ああ、夜明け前にここを出るよ。その方がよさそうだ。」

マリ:「ならこっちは大丈夫だ。監視と防衛は万全にしてある。今襲われても一日耐える事ぐらいはできる。」

カズマ:「ありがとう。それを聴いたら少し安心した。」

マリ:「・・・」

カズマ:「どうした?」



マリはカズマの事を愛おしくなった。

だがそれを言ってはいけない。

また自分を抑えられなくなる・・・



マリ:「いや・・・なんでもない。マナは元気か?」



気を紛らわすようにマリは話題を変えた。



カズマ:「マナ?マナは相変わらずだな。ポヤーっとしてて何考えてんだかわかんねぇ。そういう所も含めてアイツは天才だよ。」

マリ:「そうか、マナもああ見えて心配性だ。他国で一人だと寂しがっているかもしれない。」

カズマ:「そういえばアイツの弱音は聞いたことがないな。そういうのは隠すタイプか?」

マリ:「私の知る限りでは悲しむところを人に見せた事がない。だが自分はいつも不安で心が安らいだ事がないと言っていた事がある。」

カズマ:「ほー意外だな。」

マリ:「いつもニコニコと無邪気な様子を見せているが、いつも周りに気を使っている。そんなアイツが一番信頼しているのがオマエだ。たまには頑張り屋のアイツを労ってやってほしい。」

カズマ:「わかったよ、ちょっとマナの様子を見てくる。」

マリ:「ああ、じゃあそっちを出発する頃また連絡をくれ。」

カズマ:「夜明け前に連絡して大丈夫か?寝てるんじゃないのか?」

マリ:「今日は私は徹夜で警備だよ。ドグマもそうだ。」

カズマ:「わかった。根詰めないようにな。」



そう言うとカズマはマイクを切り、マナの部屋へ向かった。

護衛達はカズマの後をついてきたが、マナの部屋には近づいてこなかった。

カズマはマナの部屋の扉をノックした。

コンコン。

マナは扉を開けるとカズマが目の前に現れたので驚いた。



マナ:「ど、どうかしましたか?カズマ様。」

カズマ:「いや、一応明日の打ち合わせをしたくてな。今大丈夫か?」

マナ:「大丈夫です。どうぞ。」



マナはカズマを部屋の中に入れた。

マナの部屋はカズマの部屋よりも広くて天井にはシャンデリアがついていた。

カズマは部屋の中央にあるソファーに座った。

マナは部屋にあったお茶をカズマに出し、向かいのソファーに座った。



カズマ:「えーと、今後の予定だが、夜明け前にここを立つので早めに寝ておいてくれ。時計は持ってるか?」

マナ:「ははははい、カズマ様にいただいたのを持ってきてます。」



そういうとマナは腕時計を見せた。



カズマ:「よしそいつでいうと5時には出発できるように準備してくれ。5時にそこの大広間に集合だ。この事をヒデ国王だけに伝えてくれ。他の奴には内緒でな。」

マナ:「わかりました。」

カズマ:「そういうわけで俺はもう寝る。お茶ありがとうな。」



カズマはそういうとソファーから立ち上がった。



カズマ:「あ、それからえーと・・・今回Dシェルターに案内してくれて助かった。オマエのお陰で交渉もスムーズに進んだよ。俺との旅だと色々気を使っただろうな。ありがとうな。」

マナ:「カズマ様・・・」

カズマ:「前から思ってたがオマエのサポートのお陰で俺の意志が皆に伝わった。他の誰にもマネできない事だよ。本当に感謝している。これからも頼むな。」



照れくさそうにカズマがマナを労うとマナはボロボロと泣き出した。

カズマはあわててマナをなだめる。



カズマ:「おいおい、泣かんでもいいって。泣き虫だなぁ・・・」

マナ:「うううぅ~・・・わたし・・・とっても・・・とっても・・・うううぅ~・・・」



マナは言葉が出ないほど泣きじゃくっている。

マナの肩に両手を置き、カズマは優しく声をかける。



カズマ:「とっても不安だったんだよな?」



マナがコクコクとうなずく。

普段のマナは優秀であるがゆえにその不安を人前に出すことを抑えていた。

カズマの労いで抑えていた感情が噴き出した。



カズマ:「今まで我慢してくれて本当にありがとうな。」



カズマはマナにハグをするとポンポンと背中を軽く叩いた。

マナはしゃくりあげながらカズマの肩に顔をうずめる。

マナが泣き止むとカズマはマナから離れた。



カズマ:「ヒデ国王には俺から話をしておく。オマエはもう寝てくれ。疲れただろ?」

マナ:「大丈夫です。わたし・・・」

カズマ:「目が真っ赤だよ。そんなんじゃ俺がオマエをいじめたと思われてしまう。俺に行かせてくれ。」



カズマが苦笑してそう言うとマナは引き下がった。



マナ:「じゃあお言葉に甘えさせていただきます。おやすみなさい。」

カズマ:「ああ、おやすみ」



カズマはマナの部屋を出ると、護衛達にヒデ国王との面会をお願いした。

護衛達が急いでヒデに知らせるとヒデはカズマの部屋に飛んできた。



ヒデ:「カズマ様なんの御用でしょうか?何か不備がございましたか?」



ヒデの慌てぶりにカズマは苦笑した。



カズマ:「いや、申し訳ないが夜明け前にサンライト城に帰る事にしたんでその連絡を・・・」

ヒデ:「なぜですか?何か国民が失礼な事をしたのでしょうか?」

カズマ:「そんな事ないです、落ち着いてください。」

ヒデ:「ああ、この窮屈な部屋のせいですね?あなたの事が知られないように一般の部屋にしたのがお気に召さなかったのでしょうなぁ。申し訳ありません。すぐに最上級の部屋をご案内します。ですから何卒ご容赦ください。」



もはやヒデは完全にカズマを勇者扱いしようとし始めている。

やはり長居は無用だな・・・そう思ったカズマは思い切りぶっちゃけることにした。



カズマ:「正直に言おう。もう気づいているだろうが俺は伝説の勇者だ。だがそれは決して誰にも言うな。国民が勇者到来の噂をしているのは知っている。俺を一目みようと部屋の外にひとだかりができていたことも知っている。護衛をつけてくれたから人払いはできたが、ここに勇者がいるということを証明したようなもんだ。朝まで待ったら面倒な事になるのは目に見えている。今すぐにでも城を出たいがそれだとこっちの身がかなり危険になる。いいか?頼むからこれ以上面倒な事をしないでくれ。」

ヒデ:「そんな・・・」



ヒデは今にも泣きそうな顔をしている。

カズマは少しかわいそうになったがミツの前例もあるので冷たく言い放つ。



カズマ:「いいか?夜明け前には俺たちはここを出ていく。今からもう寝るので静かにしてくれよ。」



そういうとカズマはヒデを部屋から追い出し、鍵を閉めた。

やや胸が痛んだが仕方がなかった。

心を鬼にして出発の準備をすすめるとカズマはベッドに横たわった。



『何だ・・・?何が不安なんだ俺は・・・』



コンピュータールームで見たアレクの映像がカズマの脳裏に焼き付いて離れなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...