~ファンタジー異世界旅館探訪~

奈良沢 和海

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~ファンタジー異世界旅館探訪~

【第1章】第16話「広瀬の里と広瀬館」(4)

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 榛名はるなちゃんを無事送り出し、優希は改めてゲンさんにこっそりと声をかけた。

「ゲンさん、急なお客様ですが大丈夫ですか?」

「正直、今の状況じゃ難しいと言いたい所だが、お一人様なら何とかなる。幸い、坊ちゃんの歓迎会を兼ねて料理は多めに用意してあるんだ。――最初のあちら側のお客様には本格的な和食をご用意したかったのが本音だが」

 わずかに料理人として妥協だきょうを許さない『鬼のゲンジ』が顔をのぞかせたが、すぐに鳴りをひそめると、

「まあ、今日は仕方ない。一人だと何をするにしても時間がかかる。……持ってきて貰った切り身の状態を見てみるか」

「えっ!? ゲンさん、今一人で料理してるの?」

「ん、まあ、今は開店休業状態でまなかい位しか作らないから問題はないが……今後はどうなるのか」

 どうやら、優希の想像以上にまずい状態らしい。詳しい話をゲンさんに聞こうとした時、室内履き用のサンダルに履き替えたアルヴァーが声をかけてきた。

「色々と話し合わなければならない事も多いが、まずはこれを見て欲しい」

 そう言うとマントの胸の辺りの裏地を探り一枚のコインを取り出した。それを恵子を含め全員に見せこうたずねた。

「この通貨モネーロが使えるか、または見覚えはあるだろうか」

 アルヴァーがつまんでいるコイン、通貨モネーロは五百円玉程度の大きさで、くすんではいるものの金特有の輝きがあった。多少ゆがんでいるのは、純度が高いせいだろうか?

「うーん、金貨だろうという事は分かるんですけど、それ以上の事は……」

 異世界の物らしいコインへの優希の反応に対して、二人の反応は違ったものになった。

図柄ずがらからして交易通貨コメンサモネーロのようですが、外の――そちら側の世界の一般的な硬貨という事が分かる位で、どれ程の価値がその一枚にあるのかまではちょっと……」

「そちらでお支払いになるのでしたら、少々お時間を頂く事になると思います。正直な所、こちら側が提供するサービスに対して、どの程度の価値を付けるべきか決めかねている所ですので」

 この答えに対して優希は二人の言葉におどろくだけだったが、アルヴァーはまた違った反応を見せた。

「という事は既に、こちら側との接触はあるという事で間違いなのですね。具体的にはどのような交流があるのか教えて頂きたい」

 これには、恵子が答えた。

「交流といっても少し前までは、ほぼ一方通行のようなものでした。というのは、そちら側の住人が時たま迷い込んでくるのです。私たちは迷い人と呼んでいましたが、あちら側の情報は主に迷い人の方々からという事になります」

 アルヴァーは小さくうなずき続きをうながした。

「今と違い、当時はまだ、この土地と私達の世界との繋がりは強固でした。迷い人は広瀬の住人にかくまわれて過ごし、やがてあちらの世界に戻っていった者。逆に、こちらにとどまり続けた者もいたようです。そのどちらにしろ訪れた迷い人は多くありません。この村があちらの世界では、深い森の中にあるのも関係あるのでしょう。古い記録では迷いの森とも呼ばれていたようです」

 その話を聞くとアルヴァーは満足げな表情になり、あちら側の情報をいくつか語った。

「なるほど。紛争中は名のない森として長い間、天然の防壁の役割を果たしてきた。だがもしかすると、かつての迷い人が隠蔽いんぺいした可能性もある訳か。だが、同時にこの村の記録が私の知る限り残っていないのもおかしい。人数が少ないとはいえこちら側に帰還出来たのだろう?」

「それは恐らく、ここの記憶を一部、忘却ぼうきゃくしているんだと思います。ここを離れた時、魔力の影響を受けやすい人ほど、それは顕著けんちょになるようですから。ただ、基本的にはどういう理屈か、秘密を不用意に話さないのであればその限りではないようです」

 そういって恵子は優希を見た。アルヴァーも優希を見て納得の表情を浮かべた。

「ふむ。――優希の魔力が結合している影響か。しかし記憶操作とはな」

 なおも議論ぎろんを続けようとしたアルヴァーだったが、自分の事が話題になっているらしいものの、話題には入れない優希がしびれを切らせた事でそれは中断した。

「謎の究明も大事ですけど、とりあえず夕食にしましょう。よろしければ、アルヴァーさんも一緒にどうですか? 今日はご馳走らしいですよ」

 そういってお腹をさするのだった。
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