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ソフトボール部が部員同士の対立によって分裂状態なのは、認めたくはないが事実だ。
今年は、厳しい練習を嫌う上級生が台頭し、大会などで好成績を上げようという気概は薄れてしまった。
それに対して、上昇志向の強い者たちが声を上げたものの、如何せん少数派でその意見は通らなかった。
結局、活動を続けるために迎合した者はいざ知らず、納得がいかず退部する者まで出してしまったのだった。
スポーツには娯楽という側面があることは理解出来るし、それを否定する気も無い。しかし、それで高みを目指している者達の居場所や目標が奪われてしまうというのは、ちょっと違いはしないか。
明野充希は臍を噛んでいた。
中学のソフトボール部で慕っていた先輩の背中を追い掛けて、鵬清陵高校に入学した。
入ってみると、その先輩を始め、上手い部員が思いのほか多く、県の大会で上位入賞することも少なくはなかった。自分も早くその場に立ちたいと、期待に胸が膨らんだ。
しかし、その先輩達が卒業すると、部の方針は一変してしまった。
「ごめんね、充希」
「私も、やり過ぎた……」
充希と並んで歩く備前和水と椎名茜が、申し訳なさそうに小さくなる。
「いいのよ、二人は悪くないわ。私が突っ走ったせいだから。先輩達を悪く言っておいてこれだもん。まったく笑えるわね。あの子達にも後で謝りに行かないとね」
「う……」
自嘲する充希に二人は、掛ける言葉も見当たらない。
部員を確保するために、形振り構わず勧誘しに行った挙げ句、圧倒的に弁の立つ謎の下級生にやり込められ、その上、鬼の子のような娘の覇気に為すすべもなく蹴散らされてしまった。
和水も茜も、充希自身も、普段はあのような増長した態度に出ることはない。必死であるが故に、つい度を超えてしまったのだ。
あの場に居た下級生達からは、完全に悪者認定されたに違いない。
「でも、私達だって諦めるわけにはいかないわ。これからどうするか、考え直しましょ」
そう言う充希に、「うん」「そうだね」と二人とも頷いた。
「そう言えば冴子は、ソフトボールはもう良いの? まあ、今さら入りづらいかも知れないけど……」と、珍しく胡桃が、済んだことを蒸し返すような話を振った。
「ああ」と、思い出したように冴子が頷く。「私は別にこだわってないわよ。ウチの中学って、生徒が少なくて部活も盛んじゃなかったから」と、梢に目配せしながら言うと、梢も首肯する。
「ソフトボール部には仲良しグループで入ってて、遊びでやっていたようなものだし、その子たちとももう、別々の学校だから」
「そういうことかー」と、胡桃が納得する。
もし冴子が、あの出来事でソフトボール部への入部を諦めたのならば、そのままにしておくわけにはいかないだろうと思っていたが、そういうことなら問題はないだろう。
「でも、冴子ちゃん、凄く上手なんだよー。町の草野球で大人気だったんだから」と、梢が熱く語るが、分かりにくい評価基準である。しかし、その言葉に反応したのは、誰あろう雪乃であった。
「草野球、ですか? それは面白そうですね……」
「また何か言い出したし……」と、嫌な顔をする胡桃を他所に、「なるほどなるほど、ふむふむ……」と、一人何事かを画策を始める。そして――
「今度、ソフトボール部に遊びに行きましょう」
「えええーっ」
三人それぞれの驚愕の声が交差した。
「あん? なんで俺達がそんなのに協力してやんなきゃないんだよ」
海原洋平太が、斜に構えた物言いで返してくる。
「洋平太の言うとおりだ。そちらの遊びになんか付き合っていられない」と、一緒に居た酒巻隼斗が続く。
二人は、小学校の頃からバッテリーを組んでいる生粋の野球少年で、雪乃も胡桃も子供の頃からの顔見知りである。
「何よ、随分つれないじゃない」と、胡桃が文句を言うと、洋平太がピクリと反応する。
「何だよ折原。戻ってきたと思ったら、星上のワケの分からねー悪ふざけになんか付き合って」
「まあ、ワケの分からない悪ふざけなのは認めるけど」
「ちょっと、認めないで下さいよ。そこは言い返すところでしょう」
二人の会話に雪乃が口を尖らせる。
「とにかくだ、俺達には関係ないね」と、けんもほろろに断る洋平太だが――
「二人とも、野球上手いのー?」と梢が話しに割り込むと「なっ、高峰……」と、その顔に動揺が浮かぶ。
「上手いんだったら手伝ってよー」と見つめられ、「あっ、いや、まあ、てっ、てっ、手伝っても良いけどさー……」と、途端に声がうわずる。
それを聞いた隼斗が「何を言ってるんだ洋平太。野球部の練習もあるんだぞ、そんな暇ないだろう」と咎めるが、今度は冴子が口を挟む。
「酒巻君も、そう言わずに協力してよ。私達を助けると思って」
「あっ、べっ、別に俺は、片霧達のことを助けないと言ってるわけじゃないんだ。そうだな、まあ、そういうのも良い経験になるのかも知れないな」と、今度は隼斗がしどろもどろだ。
「なによ。私達の時と、随分態度が違うじゃない」
「そうですよ。一体何なんですか」
と、揃って目くじらを立てる胡桃と雪乃だった。
室外競技の部室棟は、校庭に面した校舎の脇にある。
ノックして引き戸を開けた雪乃が「失礼します」と挨拶すると、中で準備していた部員の視線が集まった。
その中の一人が歩み出て来て応じる。
「何か用? もしかして、入部希望とか?」
そう聞く顔は、あまり喜んでいるようには見えない。それどころか、少し怪訝そうでさえあった。
「いえ、そうではありませんが……入部希望だと何か困るんでしょうか?」
「あ、いや、その、色々あって……今はちょっと……」と言葉を濁す彼女に、しかし、雪乃は無遠慮に続ける。
「それは、部員同士が揉めているというお話のことでしょうか?」
そう言われて彼女は、機嫌を悪くした様子こそないが「あ、やっぱり知ってるのね……」と、決まりが悪そうに目を逸らした。
「知っているというか、その事で訪ねて来たと言いますか」
「え? どういうこと」と、一瞬の戸惑う彼女は、しかし、すぐに何かに思い当たったらしく、「まさか……」と顔色を変える。
「はい。明野先輩に会いに来ました」
今年は、厳しい練習を嫌う上級生が台頭し、大会などで好成績を上げようという気概は薄れてしまった。
それに対して、上昇志向の強い者たちが声を上げたものの、如何せん少数派でその意見は通らなかった。
結局、活動を続けるために迎合した者はいざ知らず、納得がいかず退部する者まで出してしまったのだった。
スポーツには娯楽という側面があることは理解出来るし、それを否定する気も無い。しかし、それで高みを目指している者達の居場所や目標が奪われてしまうというのは、ちょっと違いはしないか。
明野充希は臍を噛んでいた。
中学のソフトボール部で慕っていた先輩の背中を追い掛けて、鵬清陵高校に入学した。
入ってみると、その先輩を始め、上手い部員が思いのほか多く、県の大会で上位入賞することも少なくはなかった。自分も早くその場に立ちたいと、期待に胸が膨らんだ。
しかし、その先輩達が卒業すると、部の方針は一変してしまった。
「ごめんね、充希」
「私も、やり過ぎた……」
充希と並んで歩く備前和水と椎名茜が、申し訳なさそうに小さくなる。
「いいのよ、二人は悪くないわ。私が突っ走ったせいだから。先輩達を悪く言っておいてこれだもん。まったく笑えるわね。あの子達にも後で謝りに行かないとね」
「う……」
自嘲する充希に二人は、掛ける言葉も見当たらない。
部員を確保するために、形振り構わず勧誘しに行った挙げ句、圧倒的に弁の立つ謎の下級生にやり込められ、その上、鬼の子のような娘の覇気に為すすべもなく蹴散らされてしまった。
和水も茜も、充希自身も、普段はあのような増長した態度に出ることはない。必死であるが故に、つい度を超えてしまったのだ。
あの場に居た下級生達からは、完全に悪者認定されたに違いない。
「でも、私達だって諦めるわけにはいかないわ。これからどうするか、考え直しましょ」
そう言う充希に、「うん」「そうだね」と二人とも頷いた。
「そう言えば冴子は、ソフトボールはもう良いの? まあ、今さら入りづらいかも知れないけど……」と、珍しく胡桃が、済んだことを蒸し返すような話を振った。
「ああ」と、思い出したように冴子が頷く。「私は別にこだわってないわよ。ウチの中学って、生徒が少なくて部活も盛んじゃなかったから」と、梢に目配せしながら言うと、梢も首肯する。
「ソフトボール部には仲良しグループで入ってて、遊びでやっていたようなものだし、その子たちとももう、別々の学校だから」
「そういうことかー」と、胡桃が納得する。
もし冴子が、あの出来事でソフトボール部への入部を諦めたのならば、そのままにしておくわけにはいかないだろうと思っていたが、そういうことなら問題はないだろう。
「でも、冴子ちゃん、凄く上手なんだよー。町の草野球で大人気だったんだから」と、梢が熱く語るが、分かりにくい評価基準である。しかし、その言葉に反応したのは、誰あろう雪乃であった。
「草野球、ですか? それは面白そうですね……」
「また何か言い出したし……」と、嫌な顔をする胡桃を他所に、「なるほどなるほど、ふむふむ……」と、一人何事かを画策を始める。そして――
「今度、ソフトボール部に遊びに行きましょう」
「えええーっ」
三人それぞれの驚愕の声が交差した。
「あん? なんで俺達がそんなのに協力してやんなきゃないんだよ」
海原洋平太が、斜に構えた物言いで返してくる。
「洋平太の言うとおりだ。そちらの遊びになんか付き合っていられない」と、一緒に居た酒巻隼斗が続く。
二人は、小学校の頃からバッテリーを組んでいる生粋の野球少年で、雪乃も胡桃も子供の頃からの顔見知りである。
「何よ、随分つれないじゃない」と、胡桃が文句を言うと、洋平太がピクリと反応する。
「何だよ折原。戻ってきたと思ったら、星上のワケの分からねー悪ふざけになんか付き合って」
「まあ、ワケの分からない悪ふざけなのは認めるけど」
「ちょっと、認めないで下さいよ。そこは言い返すところでしょう」
二人の会話に雪乃が口を尖らせる。
「とにかくだ、俺達には関係ないね」と、けんもほろろに断る洋平太だが――
「二人とも、野球上手いのー?」と梢が話しに割り込むと「なっ、高峰……」と、その顔に動揺が浮かぶ。
「上手いんだったら手伝ってよー」と見つめられ、「あっ、いや、まあ、てっ、てっ、手伝っても良いけどさー……」と、途端に声がうわずる。
それを聞いた隼斗が「何を言ってるんだ洋平太。野球部の練習もあるんだぞ、そんな暇ないだろう」と咎めるが、今度は冴子が口を挟む。
「酒巻君も、そう言わずに協力してよ。私達を助けると思って」
「あっ、べっ、別に俺は、片霧達のことを助けないと言ってるわけじゃないんだ。そうだな、まあ、そういうのも良い経験になるのかも知れないな」と、今度は隼斗がしどろもどろだ。
「なによ。私達の時と、随分態度が違うじゃない」
「そうですよ。一体何なんですか」
と、揃って目くじらを立てる胡桃と雪乃だった。
室外競技の部室棟は、校庭に面した校舎の脇にある。
ノックして引き戸を開けた雪乃が「失礼します」と挨拶すると、中で準備していた部員の視線が集まった。
その中の一人が歩み出て来て応じる。
「何か用? もしかして、入部希望とか?」
そう聞く顔は、あまり喜んでいるようには見えない。それどころか、少し怪訝そうでさえあった。
「いえ、そうではありませんが……入部希望だと何か困るんでしょうか?」
「あ、いや、その、色々あって……今はちょっと……」と言葉を濁す彼女に、しかし、雪乃は無遠慮に続ける。
「それは、部員同士が揉めているというお話のことでしょうか?」
そう言われて彼女は、機嫌を悪くした様子こそないが「あ、やっぱり知ってるのね……」と、決まりが悪そうに目を逸らした。
「知っているというか、その事で訪ねて来たと言いますか」
「え? どういうこと」と、一瞬の戸惑う彼女は、しかし、すぐに何かに思い当たったらしく、「まさか……」と顔色を変える。
「はい。明野先輩に会いに来ました」
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