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「とっ、突然やって来て何言ってんのよアンタ?」
〝A子〟こと、明野充希が困惑する。その後ろには〝B子〟こと備前和水と〝C子〟こと椎名茜が控えていたが、三人とも、先日のような高慢な姿勢はおおよそ見られず、むしろ、唯々狼狽しているようだった。
「ですから、私達と一緒にソフトボール部の先輩方と試合をしましょう」
「さっきと一言一句変わってないんだけど」
「何も言い替えるところはありませんから」
ソフトボール部の部室で、部長の園部すみれにも、同じ用件を伝えて承諾を得ている。
雪乃は、その時聞いた彼女の言葉を思い出す。
――あの子たち、また人に迷惑を掛けているのね――
その口振りは、まるで自分達には何ら否はないとでも言わんばかりであった。
そこで、今度は充希達の話を聞くために、〝部室に居なかった〟彼女らの元を訪れたのでるある。
「向こうの意見は聞きましたが、どこか無責任な印象を受けました。にも拘わらずこちら方が人数が少ないのは、明野先輩の方が、より支持されなかったからではないのですか?」
雪乃の非難とも取れるその言葉に、それまで沈黙していた和水と茜が口を挟む。
「違う。始めはこっちに付いてくれた子もたくさん居たのよ」
「うん。だけど、充希が向こうに行くように言ったんだ。こっちに付くと立場が悪くなるからって」
しかし「いえ」と、二人の弁解を否定したのは、誰あろう充希だった。
「星上さんの言うとおりだわ。私達のやり方が良くなかったのは、そちらも知っての通りよ」そう言うと、三人顔を見合わせて何かを確認し合う。
そうして雪乃達の方に向き直ると――
「先日はごめんなさい」と、意外にも素直な謝罪を口にした。
「私達、どうしても先輩達に考え直して欲しくて……その、片霧さんにも迷惑を掛けたわ……」
「あ……」
名指しされた冴子は一瞬、言葉を失うが、意を決したように「いえ、私も失礼なことを言ってすみませんでした」と頭を下げた。傍に居た梢も「わたしも、何も知らなくて、ごめんなさい」と、冴子に倣う。
それを見て胡桃も「アタシ達もすみませんでした」と謝りつつ「ほら、アンタも」と、雪乃にもそれを促した。
それは、冴子が単に自分の気持ちに踏ん切りを付けるためではなく、雪乃の計画が躓かないようにしたのだと気取ったからである。然してその洞察は正しかったのか、今度は冴子が提案する。
「私にはもう、わだかまりはありません。ですから、雪乃の話しに乗ってみませんか?」
充希は一瞬ポカンとしたかと思うと、ふっと笑う。「アンタたちってホント、凄いわね」
そして、その顔は更に不思議そうなものへと変わっていく。
「でも、何でアンタ達がこっちの味方に付いてくれるわけ? 何の特にもならないでしょう?」
ソフトボール部は、数年前に顧問を勤めていた教諭が退職してから特定の顧問が付いていない。現在は、掛け持ちの教員が代わる代わる指導しているが、その指導というのも競技に対する専門的なものではなく、安全管理のための見廻りのようなものだった。
しかしそれでも、学生達の自主性が高い鵬清陵らしく、指導力のある上級生が部を引っ張って盛り立てて来たのである。
ここで誤解してはいけないのは、現在の二、三年生にその資質が無いわけではないということだ。ただ、惜しむらくは、方針転換したときに皆を上手くまとめられなかったことだろう。
「はあ~。そういうことだったんですね」
「でも、生徒だけの所為にするのはちょっと酷よね」
真琴と和花の言葉に柚里が「うむ」と頷く。
ソフトボール部員が一年D組の生徒達と揉めた件については当然、教職員の耳に入るところとなり、関わった者達には注意が与えられている。
柚里は、生徒達に悪意がないことは信じているが、根本的に解決したとは思っていなかった。
部活動における顧問の不足は、教職員の働き方改革も相まって、全国的に問題になっている。
しかし、幾ら自由な校風だからと言って、生徒に全てを委ねて良い訳がない。
「ということで、今回も星上の提案に乗らせてもらうことにした」
「そう言って柚里ちゃん、雪乃ちゃんの話に乗らなかったこと無くない?」
「危ないことなら私だって止めるぞ。そう言う点で、星上のすることは絶妙なんだよな。まったく、末恐ろしいよ」
「確かに、不思議な子ですよねー」
そう言って、三人でうんうん肯き合う。
「それで、二人に頼みたいことがあるんだ」
柚里が改めて切り出す。
「なになに」
「何でしょうかー?」
「それはな……」
そうして休日の朝、校庭に一堂が会する。
他にも練習している部が見られるが、柚里によって根回しは済んでいる。むしろ、面白がって見物を決め込む者も少なくはなさそうだった。
「梢ちゃーん、見に来たよー」
「あっ、藍香ちゃーん」
二人がいつものように手を取り合う横で、「何で私まで……」と、可憐がぼやいている。
「星上さん、みんなを連れてきましたよ」
「美鳥先輩、有り難うございます」
「私達も観戦させてもらうわね」
叶恵と一緒に現れたのは、怜紗、瑞穂、楓、彩音の演劇部四人組である。
「わあ、きらら先輩……」と、その姿に感激する歌音。
「委員長。鈴本さんも来てくれたんだ」
「みんなも来てますよ」
胡桃に応える杏樹が指差す先には、一年D組の一団が見える。
「おーい、洋平太、足引っ張んなよー」
「うるせーっ」
男子達の歓声にムキになる洋平太だが、どこか嬉しそうだ。
「おいおい、良くこんなにも集めたな。流石にエグ過ぎだろ」
「同感だわ。いつもながら驚かざるを得ないわね」
隼斗と冴子が、壮観とも言えるその顔触れに感嘆する。これではどちらが主役か分からない。しかし、一番戸惑っているのは充希達だった。
「な、何でこんなにギャラリーが来るのよ……。ちょっと大袈裟過ぎじゃない……」
「あら、緊張しますか? 大会の時だってたくさんの観衆が見に来るのでは?」
「う……」
雪乃の指摘に充希は、一瞬、黙り込みそうになるが、「わ、分かってるわよ、そんなの。ただ、顔見知りも居るし……ちょっと驚いただけよ」と強がった。
そこへ、「みんな集まってるわねー」と、真琴がやって来る。
「えっ」と胡桃が声を上げる。「今日は敦賀先生なんですか?」
「そうよー」
以前、雪乃が柚里以外も巻き込んでいるようなことを仄めかしていたが、真琴がその一人ということか。
そして、「牧村先生と天崎先生は後から来るから、主審はわたしが勤めます」とのことである。もう一人の協力者が誰であるかも明らかになったのだった。
「それじゃ、両チームとも準備して。時間になったらグラウンドに整列してね」
いよいよ試合開始である。
〝A子〟こと、明野充希が困惑する。その後ろには〝B子〟こと備前和水と〝C子〟こと椎名茜が控えていたが、三人とも、先日のような高慢な姿勢はおおよそ見られず、むしろ、唯々狼狽しているようだった。
「ですから、私達と一緒にソフトボール部の先輩方と試合をしましょう」
「さっきと一言一句変わってないんだけど」
「何も言い替えるところはありませんから」
ソフトボール部の部室で、部長の園部すみれにも、同じ用件を伝えて承諾を得ている。
雪乃は、その時聞いた彼女の言葉を思い出す。
――あの子たち、また人に迷惑を掛けているのね――
その口振りは、まるで自分達には何ら否はないとでも言わんばかりであった。
そこで、今度は充希達の話を聞くために、〝部室に居なかった〟彼女らの元を訪れたのでるある。
「向こうの意見は聞きましたが、どこか無責任な印象を受けました。にも拘わらずこちら方が人数が少ないのは、明野先輩の方が、より支持されなかったからではないのですか?」
雪乃の非難とも取れるその言葉に、それまで沈黙していた和水と茜が口を挟む。
「違う。始めはこっちに付いてくれた子もたくさん居たのよ」
「うん。だけど、充希が向こうに行くように言ったんだ。こっちに付くと立場が悪くなるからって」
しかし「いえ」と、二人の弁解を否定したのは、誰あろう充希だった。
「星上さんの言うとおりだわ。私達のやり方が良くなかったのは、そちらも知っての通りよ」そう言うと、三人顔を見合わせて何かを確認し合う。
そうして雪乃達の方に向き直ると――
「先日はごめんなさい」と、意外にも素直な謝罪を口にした。
「私達、どうしても先輩達に考え直して欲しくて……その、片霧さんにも迷惑を掛けたわ……」
「あ……」
名指しされた冴子は一瞬、言葉を失うが、意を決したように「いえ、私も失礼なことを言ってすみませんでした」と頭を下げた。傍に居た梢も「わたしも、何も知らなくて、ごめんなさい」と、冴子に倣う。
それを見て胡桃も「アタシ達もすみませんでした」と謝りつつ「ほら、アンタも」と、雪乃にもそれを促した。
それは、冴子が単に自分の気持ちに踏ん切りを付けるためではなく、雪乃の計画が躓かないようにしたのだと気取ったからである。然してその洞察は正しかったのか、今度は冴子が提案する。
「私にはもう、わだかまりはありません。ですから、雪乃の話しに乗ってみませんか?」
充希は一瞬ポカンとしたかと思うと、ふっと笑う。「アンタたちってホント、凄いわね」
そして、その顔は更に不思議そうなものへと変わっていく。
「でも、何でアンタ達がこっちの味方に付いてくれるわけ? 何の特にもならないでしょう?」
ソフトボール部は、数年前に顧問を勤めていた教諭が退職してから特定の顧問が付いていない。現在は、掛け持ちの教員が代わる代わる指導しているが、その指導というのも競技に対する専門的なものではなく、安全管理のための見廻りのようなものだった。
しかしそれでも、学生達の自主性が高い鵬清陵らしく、指導力のある上級生が部を引っ張って盛り立てて来たのである。
ここで誤解してはいけないのは、現在の二、三年生にその資質が無いわけではないということだ。ただ、惜しむらくは、方針転換したときに皆を上手くまとめられなかったことだろう。
「はあ~。そういうことだったんですね」
「でも、生徒だけの所為にするのはちょっと酷よね」
真琴と和花の言葉に柚里が「うむ」と頷く。
ソフトボール部員が一年D組の生徒達と揉めた件については当然、教職員の耳に入るところとなり、関わった者達には注意が与えられている。
柚里は、生徒達に悪意がないことは信じているが、根本的に解決したとは思っていなかった。
部活動における顧問の不足は、教職員の働き方改革も相まって、全国的に問題になっている。
しかし、幾ら自由な校風だからと言って、生徒に全てを委ねて良い訳がない。
「ということで、今回も星上の提案に乗らせてもらうことにした」
「そう言って柚里ちゃん、雪乃ちゃんの話に乗らなかったこと無くない?」
「危ないことなら私だって止めるぞ。そう言う点で、星上のすることは絶妙なんだよな。まったく、末恐ろしいよ」
「確かに、不思議な子ですよねー」
そう言って、三人でうんうん肯き合う。
「それで、二人に頼みたいことがあるんだ」
柚里が改めて切り出す。
「なになに」
「何でしょうかー?」
「それはな……」
そうして休日の朝、校庭に一堂が会する。
他にも練習している部が見られるが、柚里によって根回しは済んでいる。むしろ、面白がって見物を決め込む者も少なくはなさそうだった。
「梢ちゃーん、見に来たよー」
「あっ、藍香ちゃーん」
二人がいつものように手を取り合う横で、「何で私まで……」と、可憐がぼやいている。
「星上さん、みんなを連れてきましたよ」
「美鳥先輩、有り難うございます」
「私達も観戦させてもらうわね」
叶恵と一緒に現れたのは、怜紗、瑞穂、楓、彩音の演劇部四人組である。
「わあ、きらら先輩……」と、その姿に感激する歌音。
「委員長。鈴本さんも来てくれたんだ」
「みんなも来てますよ」
胡桃に応える杏樹が指差す先には、一年D組の一団が見える。
「おーい、洋平太、足引っ張んなよー」
「うるせーっ」
男子達の歓声にムキになる洋平太だが、どこか嬉しそうだ。
「おいおい、良くこんなにも集めたな。流石にエグ過ぎだろ」
「同感だわ。いつもながら驚かざるを得ないわね」
隼斗と冴子が、壮観とも言えるその顔触れに感嘆する。これではどちらが主役か分からない。しかし、一番戸惑っているのは充希達だった。
「な、何でこんなにギャラリーが来るのよ……。ちょっと大袈裟過ぎじゃない……」
「あら、緊張しますか? 大会の時だってたくさんの観衆が見に来るのでは?」
「う……」
雪乃の指摘に充希は、一瞬、黙り込みそうになるが、「わ、分かってるわよ、そんなの。ただ、顔見知りも居るし……ちょっと驚いただけよ」と強がった。
そこへ、「みんな集まってるわねー」と、真琴がやって来る。
「えっ」と胡桃が声を上げる。「今日は敦賀先生なんですか?」
「そうよー」
以前、雪乃が柚里以外も巻き込んでいるようなことを仄めかしていたが、真琴がその一人ということか。
そして、「牧村先生と天崎先生は後から来るから、主審はわたしが勤めます」とのことである。もう一人の協力者が誰であるかも明らかになったのだった。
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