15 / 19
15
しおりを挟む
「それで、その子はどうなったの?」と、歌音が身を乗り出して聞いてくる。
「ああ、それが、割とすぐに飼い主が見つかってさ」
胡桃の言葉に「うんー……」と梢が、少し寂しそうに相槌を打つ。
あの後、飼育環境を整えるために、皆で手分けして色々と用意したりもしたのだが、同時に飼い主捜しも行ったところ、その相手はいともあっさりと見つかったのである。
それは、男子寮の寮生で、二年生の鳴海弓人という生徒だった。
「ああっ、生きてたんだね、ネプチューン!」開口一番、そう言って容器に抱きつく彼に「いや、アンタもクワガタにその名前かよ」と、梢に近いネーミングセンスを感じる胡桃達。聞けば、自室で飼育していたのが逃げ出してしまったのだという。
「寮の中でそういうのって飼えるのー?」と、梢が率直に聞くと弓人が答える。
「入居規約に書いてあったろう? 犬や猫は飼えないが、観賞用の小動物は可能だ、と」
「小鳥とか小魚は良いってことー?」
「小魚……」
梢のペースに慣れていない彼が言葉を失っているのを見て、「小魚だと食用みたいでしょ」「金魚とか観賞魚、ですね」と、胡桃と雪乃が訂正する。
「そ、そうだね。小鳥や金魚を飼っている生徒は他にも居ると聞いているよ」
それでも学生寮でクワガタの飼育をしているのは特殊なケースだろうと、如何せん変わり者の印象を禁じ得なかったが、「本当にありがとう」と何度も礼を述べる彼を、それほど悪くは思えない胡桃達だった。
「え、その人、鳴海さんって言ったの?」
「お知り合いでしたか?」
「いや、なんか、どこかで見たような名前だと思って……」と首を捻る歌音だが「どこだったかしら……」と、結局思い出せなかった。その代わり「でも、意外ね。高峰さん、情報通なのに、その人のこと知らなかったんだ。寮でクワガタ飼ってるなんて、かなり特徴的だと思うんだけど」と、別の疑問を口にする。
「えっ、えっ、男子のことなんて知らないよ……!」と急に慌て出す梢に、「梢のコミュニティって女子が中心なのよね」と冴子が助け船を出すと、「ああ、そうなのね」と歌音も納得した。そうして「でも、あんた達、楽しそうで良いわね。何だか羨ましいわ」と、本気なのか呆れているのか分からない顔をした。
しかし、「舞島さんって、お高く止まってるように見えて、結構気さくなんですね」と雪乃に言われ、「それって、面と向かって言うことじゃなくない」と、途端に仏頂面をするのだった。
「じゃあ、またねー」と、手をひらひらと振って去って行く歌音を見送る。
雪乃とはまた違ったタイプのお嬢様然とした彼女は、一見すると自己主張が強く、取り巻きでも連れていそうな雰囲気なのだが、それはまったくの偏見で、雪乃と同じく至って庶民派で人当たりが良い。
そんな彼女がこの一年D組の学級委員長になったのには、ご多分に漏れず雪乃が関わっているのだった。
実力テストが開催された後、ほどなくしてクラス委員を決めるためのホームルームが開かれた。新学期と言えば恒例の行事だろう。
「学級委員長に星上さんを推薦します」
「私ですか?」
ほとんど面識も無い相手にいきなり指名されて、雪乃はキョトンとする。これが初めての歌音との絡みだった。
彼女の第一印象から、それは雪乃に対する何らかの圧力的なものかと誰もが思ったのだが……。
「この間のテストの成績、みんなも見たでしょう。星上さんはもう、学校中に名前が知られているし、クラスの代表として相応しいのではないでしょうか」
その言葉に悪意は感じられない。クラス委員など面倒臭いという者も少なくはないし、押し付け合いになることもままあることだが、どうやら彼女は本気で雪乃のことを推しているようである。
それを聞いたクラスメイト達が、「確かに舞島さんの言うとおりね」「星上さんなら適任だわ」と口々に講評を始める。
しかし、それで黙っている雪乃ではない。
「はい」と挙手をすると、暫定の議長を務めていた鈴本杏樹が、「どうぞ」と手のひらで発言を促す。
「はい。私は学級委員長には舞島さんを推薦します」
「はあっ?」と、歌音は困惑する。「私があなたを推薦してるんだけど?」
「分かっていますよ。でも、私は舞島さんを推薦したいんです」
横で見ていた胡桃は「絶対面白がってるわね……」と思いつつも、しかし、何も言わない。雪乃がここからどう出るのかが見物だからだ。
「舞島さん、この間、道端で猫に話し掛けてましたよね。赤ちゃん言葉で」
「なあっ?」
言われて歌音は唖然とする。「なっ、なっ、何を言ってるのよっ。そんなの、私じゃないでしょ、見間違いじゃないのっ?」と、しどろもどろだ。
「おおー……」「そうなんだー」どよどよと皆、騒ぎ始める。
「いいえ、間違いありませんよ。だってほら、鞄に猫のアクセサリーが沢山付いてます。その鞄でしたよ」
「わああっ、だめええっ」と、それを隠す歌音だが、今さら遅い。そして「大体何よっ。それとこれと、どう関係あるって言うのっ」と、その暴挙を非難する。
しかし、雪乃はどこ吹く風で「まあ、動物に優しいのは良いことですよね。以上です」そう言って着席した。
「うむ。二人とも、中々良いディベートだったな」教室の端に座って居た柚里が、うんうんと何事かに納得しているのに、「どこがですかっ」と抗議するが、「では議長」と、取り合われることも無く話が進んでいく。
「はい」と頷く杏樹。「では、星上さんと舞島さん、どちらに学級委員長になってもらうか、多数決を採ります」
そうして現在に至るのである。
雪乃の所為で彼女は〝猫委員長〟などと皆から揶揄されているが、本人も満更ではなさそうなので何よりである。
「雪乃ちゃんって何で委員長にならなかったのー?」と梢が聞く。唐突な物言いだが、「そう言えばそうね。委員長になれば色々好都合だったんじゃない?」と、冴子も話に便乗した。
しかし、「え? どういう意味ですか?」と首を傾げる当の本人に、「クラスの支配者になれば、全てアンタの思い通りに出来るってことでしょ」と胡桃が明け透けな言葉を突き付けると、「みなさん、私を何だと思ってるんですか……」と雪乃は顔を顰めた。
「支配者って言うのはちょっと言い過ぎだけど……」と、冴子が苦笑する。「何で委員長……舞島さんの推薦をひっくり返したのかしら。やっぱり面倒だったから?」
「そういうわけではありませんよ。私はほんとに舞島さんの方が向いていると思ったんです」
雪乃の説明は結局漠然としているが、しかし梢は「そうなんだー」と、素直に納得している。
「まあ、何にしても雪乃がならなくて正解よねー。クラス全部を秘密基地にされたんじゃ堪らないし」
「それはそうね」
「そっかー」
と、笑う三人だが……。
「あー、そうですか、そういうことを言うんですね。分かりました、私、今から委員長に立候補してきます」
「わー、うそうそ、冗談だって」
憤慨して立ち上がった雪乃にしがみついて止める胡桃だった。
「ああ、それが、割とすぐに飼い主が見つかってさ」
胡桃の言葉に「うんー……」と梢が、少し寂しそうに相槌を打つ。
あの後、飼育環境を整えるために、皆で手分けして色々と用意したりもしたのだが、同時に飼い主捜しも行ったところ、その相手はいともあっさりと見つかったのである。
それは、男子寮の寮生で、二年生の鳴海弓人という生徒だった。
「ああっ、生きてたんだね、ネプチューン!」開口一番、そう言って容器に抱きつく彼に「いや、アンタもクワガタにその名前かよ」と、梢に近いネーミングセンスを感じる胡桃達。聞けば、自室で飼育していたのが逃げ出してしまったのだという。
「寮の中でそういうのって飼えるのー?」と、梢が率直に聞くと弓人が答える。
「入居規約に書いてあったろう? 犬や猫は飼えないが、観賞用の小動物は可能だ、と」
「小鳥とか小魚は良いってことー?」
「小魚……」
梢のペースに慣れていない彼が言葉を失っているのを見て、「小魚だと食用みたいでしょ」「金魚とか観賞魚、ですね」と、胡桃と雪乃が訂正する。
「そ、そうだね。小鳥や金魚を飼っている生徒は他にも居ると聞いているよ」
それでも学生寮でクワガタの飼育をしているのは特殊なケースだろうと、如何せん変わり者の印象を禁じ得なかったが、「本当にありがとう」と何度も礼を述べる彼を、それほど悪くは思えない胡桃達だった。
「え、その人、鳴海さんって言ったの?」
「お知り合いでしたか?」
「いや、なんか、どこかで見たような名前だと思って……」と首を捻る歌音だが「どこだったかしら……」と、結局思い出せなかった。その代わり「でも、意外ね。高峰さん、情報通なのに、その人のこと知らなかったんだ。寮でクワガタ飼ってるなんて、かなり特徴的だと思うんだけど」と、別の疑問を口にする。
「えっ、えっ、男子のことなんて知らないよ……!」と急に慌て出す梢に、「梢のコミュニティって女子が中心なのよね」と冴子が助け船を出すと、「ああ、そうなのね」と歌音も納得した。そうして「でも、あんた達、楽しそうで良いわね。何だか羨ましいわ」と、本気なのか呆れているのか分からない顔をした。
しかし、「舞島さんって、お高く止まってるように見えて、結構気さくなんですね」と雪乃に言われ、「それって、面と向かって言うことじゃなくない」と、途端に仏頂面をするのだった。
「じゃあ、またねー」と、手をひらひらと振って去って行く歌音を見送る。
雪乃とはまた違ったタイプのお嬢様然とした彼女は、一見すると自己主張が強く、取り巻きでも連れていそうな雰囲気なのだが、それはまったくの偏見で、雪乃と同じく至って庶民派で人当たりが良い。
そんな彼女がこの一年D組の学級委員長になったのには、ご多分に漏れず雪乃が関わっているのだった。
実力テストが開催された後、ほどなくしてクラス委員を決めるためのホームルームが開かれた。新学期と言えば恒例の行事だろう。
「学級委員長に星上さんを推薦します」
「私ですか?」
ほとんど面識も無い相手にいきなり指名されて、雪乃はキョトンとする。これが初めての歌音との絡みだった。
彼女の第一印象から、それは雪乃に対する何らかの圧力的なものかと誰もが思ったのだが……。
「この間のテストの成績、みんなも見たでしょう。星上さんはもう、学校中に名前が知られているし、クラスの代表として相応しいのではないでしょうか」
その言葉に悪意は感じられない。クラス委員など面倒臭いという者も少なくはないし、押し付け合いになることもままあることだが、どうやら彼女は本気で雪乃のことを推しているようである。
それを聞いたクラスメイト達が、「確かに舞島さんの言うとおりね」「星上さんなら適任だわ」と口々に講評を始める。
しかし、それで黙っている雪乃ではない。
「はい」と挙手をすると、暫定の議長を務めていた鈴本杏樹が、「どうぞ」と手のひらで発言を促す。
「はい。私は学級委員長には舞島さんを推薦します」
「はあっ?」と、歌音は困惑する。「私があなたを推薦してるんだけど?」
「分かっていますよ。でも、私は舞島さんを推薦したいんです」
横で見ていた胡桃は「絶対面白がってるわね……」と思いつつも、しかし、何も言わない。雪乃がここからどう出るのかが見物だからだ。
「舞島さん、この間、道端で猫に話し掛けてましたよね。赤ちゃん言葉で」
「なあっ?」
言われて歌音は唖然とする。「なっ、なっ、何を言ってるのよっ。そんなの、私じゃないでしょ、見間違いじゃないのっ?」と、しどろもどろだ。
「おおー……」「そうなんだー」どよどよと皆、騒ぎ始める。
「いいえ、間違いありませんよ。だってほら、鞄に猫のアクセサリーが沢山付いてます。その鞄でしたよ」
「わああっ、だめええっ」と、それを隠す歌音だが、今さら遅い。そして「大体何よっ。それとこれと、どう関係あるって言うのっ」と、その暴挙を非難する。
しかし、雪乃はどこ吹く風で「まあ、動物に優しいのは良いことですよね。以上です」そう言って着席した。
「うむ。二人とも、中々良いディベートだったな」教室の端に座って居た柚里が、うんうんと何事かに納得しているのに、「どこがですかっ」と抗議するが、「では議長」と、取り合われることも無く話が進んでいく。
「はい」と頷く杏樹。「では、星上さんと舞島さん、どちらに学級委員長になってもらうか、多数決を採ります」
そうして現在に至るのである。
雪乃の所為で彼女は〝猫委員長〟などと皆から揶揄されているが、本人も満更ではなさそうなので何よりである。
「雪乃ちゃんって何で委員長にならなかったのー?」と梢が聞く。唐突な物言いだが、「そう言えばそうね。委員長になれば色々好都合だったんじゃない?」と、冴子も話に便乗した。
しかし、「え? どういう意味ですか?」と首を傾げる当の本人に、「クラスの支配者になれば、全てアンタの思い通りに出来るってことでしょ」と胡桃が明け透けな言葉を突き付けると、「みなさん、私を何だと思ってるんですか……」と雪乃は顔を顰めた。
「支配者って言うのはちょっと言い過ぎだけど……」と、冴子が苦笑する。「何で委員長……舞島さんの推薦をひっくり返したのかしら。やっぱり面倒だったから?」
「そういうわけではありませんよ。私はほんとに舞島さんの方が向いていると思ったんです」
雪乃の説明は結局漠然としているが、しかし梢は「そうなんだー」と、素直に納得している。
「まあ、何にしても雪乃がならなくて正解よねー。クラス全部を秘密基地にされたんじゃ堪らないし」
「それはそうね」
「そっかー」
と、笑う三人だが……。
「あー、そうですか、そういうことを言うんですね。分かりました、私、今から委員長に立候補してきます」
「わー、うそうそ、冗談だって」
憤慨して立ち上がった雪乃にしがみついて止める胡桃だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる