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牧村柚里は、鵬清陵高校に勤務する教諭である。
若くて小柄ではあるが、妙な貫禄があり、同僚からは信頼が厚く、生徒達からは慕われていた。
翻して言えば、面倒見が良いばかりに苦労人であると言えなくもないが。
「失礼しまーす」
一日に何度も聞くその挨拶の一つが、最近聞き慣れたカルテットであることに気付いた柚里は、声のした方へと目を向ける。
「牧村先生」と、やって来たのは今年担任になった一年D組の生徒で、先頭から星上雪乃、折原胡桃、片霧冴子、高峰梢である。
「はい、今日の分、出来ました」と日直の日誌を差し出してきたのは星上雪乃である。彼女は入学早々、秘密基地部などという謎の部活動を申請してきた強者だ。
「あとこれ、提出物です。委員長は生徒会に出席してますので」とプリントの束を持ってきたのは片霧冴子だ。これは彼女の役目でもないだろうに、手伝っているとは感心である。
「うむ。お疲れさま」と、それらを受け取ると、「ところで星上」と話を振る。
「この間の申請書、あれ、まだ申請するつもりなのか」と、それが何のことなのかは言うまでもないだろう。
そして「もちろんですよ先生」と、返答に迷いのない辺り、本気であることに間違いはないようだ。
「ホントに出したんだ……」と、後ろに居る折原胡桃が呆れたように言う。が、「あれ、でもそれって先生が却下したんじゃないんですか?」と首を傾げた。
「ん? いや、却下はしていないぞ。保留しているだけだ」
「あ、そうなんだ……」
柚里の答えに意外そうな顔をする胡桃。
「そう言ったじゃないですか」
「いや、言ってないでしょ……」
と、雪乃の言葉に口を尖らせている。
「え、じゃあ申請出来るってことですか? そんな部活?」
「そんな部活って……」
今度は雪乃が口を尖らせる。
「申請することは出来るぞ。ただし、学校が認めるかは、私には分からんがな」
「そうなんですね」と胡桃は頷くが、しかし「なら、何で保留なんですか?」と疑問は続く。
「それはな、部員の署名が星上だけだったからだ」
「どういうことー?」と、それまで後ろで聞いていた高峰梢が首を傾げると「確か、同好会なら一人でも活動出来るはずでは?」と冴子が疑問を引き継いだ。
「うむ、良く調べているな。確かに便宜上はそうなっている」と柚里は前置きする。
「だがそれは、部員が足りない場合の救済措置で、何でも良いという意味ではないんだ。それを認めていたら一人同好会だらけになってしまうからな」
そうして四人を見ると「ふんふん」と、揃って素直に聞いている。なんと可愛らしいのか。
「それで、折原と二人で申請するのか? 一人よりは可能性は高くなると思うぞ」と見透かしたように言うと、胡桃が「あ、まあ……」と苦笑したので、内心「やはりか」と、思ったのだが……。
「いえ、先生」と否定の言葉が返ってくる。
「何だ、違うのか?」と意外に思う柚里に、雪乃が告げた答えは――「私たち四人ですよ」
「おお……、そうだったか」と、これには流石に驚きを隠せない。
そこで「なるほど、ふーむ……」と何事か思案すると、「ならば、五人目を見つけるつもりはあるのか?」と聞いた。
すると「ちょっと心当たりがあって、考えてます」という返事である。
「そうか。では、結果がどうなったか、また後日報告してくれないか。実は、私からも提案したいことがあってな」
それを聞いた雪乃は何かを悟ったらしく「分かりました、また来ます」と快諾する。
そうしてまた、四人連れ立って去って行く。が、殿の梢がピタリと立ち止まって振り返る。
「柚里せ~んせ」
「ん、どうした?」と柚里が不思議そうにすると、「これ、あげるね」と、一握りの飴やチョコレートを手渡された。
「良いのか? 高峰の分が無くなるだろ」
そう言いながらも顔がほころぶ。
「大丈夫だよ~。鞄にたくさん入ってるから~」
確かに、彼女の鞄には菓子類が詰まっていそうな気がする。
「そうか。だが、余り大量に持ち込むと税関から取り締まりを受けるから注意しろよ」
「学校にそんなところが!」
当然、そんな物は無い。教職員に没収されるという揶揄だったのだが、彼女は真に受けたらしく「気を付けなきゃ……!」と呟いている。まさか、本当に大量所持しているのだろうか……。
「失礼しましたー」と再び声を揃えて出て行く彼女らを見送ると。
「若いって良いわね~」
すれ違いで一人の女性がやって来た。小柄で細身の柚里とは対照的に非常に艶やかなスタイルをしている。
「何でお前みたいなのが養護教諭とかになれるんだろうな」
「うーっわ! いきなり貶された。私の扱いちょっと酷すぎない?」
子供のようにふくれっ面をする彼女をみて柚里は吹き出す。
「はっはっは。悪い悪い。天崎先生、ご機嫌いかがかな」
「ご機嫌ナナメですっ」
プイッと顔を背けている彼女は、養護教諭の天崎和花という。柚里とは年が近く、同僚の中でも友人と呼べる貴重な存在だった。
「冗談じゃないか。そう、へそを曲げるなよ。それよりもどうしたんだ。何か用事か」
「用事ってわけじゃないけど、一緒に帰ろうと思って。私ももう切り上げるところだから」
「それは丁度良かった。ちょっと協力して欲しいことがあるんだ」
「ええ~っ、何よ何よ~」
柚里に頼られて気を良くしたのか、ころころと表情が変わる。
「それは帰りがてら話すよ」
「へえ~」と、和花がにやける。
「なんだよ」
「柚里ちゃん、何だか楽しそうだと思って」
「楽しい?」言われて疑問に思う。このところ相談事が多くて大変な気もするのだが……。
「あ、それさっき生徒から貰ってたやつだ。良いのかな~、賄賂とか貰っちゃって~、お代官様~」
言われて手元を見ると、先ほど梢から貰った菓子があるのに気が付いて「ふふっ」と笑いが漏れる。そうか、自分は楽しんでいるのだな。
「これは没収したんだ。処分するところだから手伝えよ」
和花のおかしなノリに、柚里は詭弁で返すと、飴を一つ口に放り込み、和花にも幾つか手渡した。
「あらら、私も共犯ね~」
「そうだ、これから忙しくなるから付き合えよ」
「仕方ないわね~。はいはい~」
と、こちらはこちらで、何やら画策し始めるのであった。
若くて小柄ではあるが、妙な貫禄があり、同僚からは信頼が厚く、生徒達からは慕われていた。
翻して言えば、面倒見が良いばかりに苦労人であると言えなくもないが。
「失礼しまーす」
一日に何度も聞くその挨拶の一つが、最近聞き慣れたカルテットであることに気付いた柚里は、声のした方へと目を向ける。
「牧村先生」と、やって来たのは今年担任になった一年D組の生徒で、先頭から星上雪乃、折原胡桃、片霧冴子、高峰梢である。
「はい、今日の分、出来ました」と日直の日誌を差し出してきたのは星上雪乃である。彼女は入学早々、秘密基地部などという謎の部活動を申請してきた強者だ。
「あとこれ、提出物です。委員長は生徒会に出席してますので」とプリントの束を持ってきたのは片霧冴子だ。これは彼女の役目でもないだろうに、手伝っているとは感心である。
「うむ。お疲れさま」と、それらを受け取ると、「ところで星上」と話を振る。
「この間の申請書、あれ、まだ申請するつもりなのか」と、それが何のことなのかは言うまでもないだろう。
そして「もちろんですよ先生」と、返答に迷いのない辺り、本気であることに間違いはないようだ。
「ホントに出したんだ……」と、後ろに居る折原胡桃が呆れたように言う。が、「あれ、でもそれって先生が却下したんじゃないんですか?」と首を傾げた。
「ん? いや、却下はしていないぞ。保留しているだけだ」
「あ、そうなんだ……」
柚里の答えに意外そうな顔をする胡桃。
「そう言ったじゃないですか」
「いや、言ってないでしょ……」
と、雪乃の言葉に口を尖らせている。
「え、じゃあ申請出来るってことですか? そんな部活?」
「そんな部活って……」
今度は雪乃が口を尖らせる。
「申請することは出来るぞ。ただし、学校が認めるかは、私には分からんがな」
「そうなんですね」と胡桃は頷くが、しかし「なら、何で保留なんですか?」と疑問は続く。
「それはな、部員の署名が星上だけだったからだ」
「どういうことー?」と、それまで後ろで聞いていた高峰梢が首を傾げると「確か、同好会なら一人でも活動出来るはずでは?」と冴子が疑問を引き継いだ。
「うむ、良く調べているな。確かに便宜上はそうなっている」と柚里は前置きする。
「だがそれは、部員が足りない場合の救済措置で、何でも良いという意味ではないんだ。それを認めていたら一人同好会だらけになってしまうからな」
そうして四人を見ると「ふんふん」と、揃って素直に聞いている。なんと可愛らしいのか。
「それで、折原と二人で申請するのか? 一人よりは可能性は高くなると思うぞ」と見透かしたように言うと、胡桃が「あ、まあ……」と苦笑したので、内心「やはりか」と、思ったのだが……。
「いえ、先生」と否定の言葉が返ってくる。
「何だ、違うのか?」と意外に思う柚里に、雪乃が告げた答えは――「私たち四人ですよ」
「おお……、そうだったか」と、これには流石に驚きを隠せない。
そこで「なるほど、ふーむ……」と何事か思案すると、「ならば、五人目を見つけるつもりはあるのか?」と聞いた。
すると「ちょっと心当たりがあって、考えてます」という返事である。
「そうか。では、結果がどうなったか、また後日報告してくれないか。実は、私からも提案したいことがあってな」
それを聞いた雪乃は何かを悟ったらしく「分かりました、また来ます」と快諾する。
そうしてまた、四人連れ立って去って行く。が、殿の梢がピタリと立ち止まって振り返る。
「柚里せ~んせ」
「ん、どうした?」と柚里が不思議そうにすると、「これ、あげるね」と、一握りの飴やチョコレートを手渡された。
「良いのか? 高峰の分が無くなるだろ」
そう言いながらも顔がほころぶ。
「大丈夫だよ~。鞄にたくさん入ってるから~」
確かに、彼女の鞄には菓子類が詰まっていそうな気がする。
「そうか。だが、余り大量に持ち込むと税関から取り締まりを受けるから注意しろよ」
「学校にそんなところが!」
当然、そんな物は無い。教職員に没収されるという揶揄だったのだが、彼女は真に受けたらしく「気を付けなきゃ……!」と呟いている。まさか、本当に大量所持しているのだろうか……。
「失礼しましたー」と再び声を揃えて出て行く彼女らを見送ると。
「若いって良いわね~」
すれ違いで一人の女性がやって来た。小柄で細身の柚里とは対照的に非常に艶やかなスタイルをしている。
「何でお前みたいなのが養護教諭とかになれるんだろうな」
「うーっわ! いきなり貶された。私の扱いちょっと酷すぎない?」
子供のようにふくれっ面をする彼女をみて柚里は吹き出す。
「はっはっは。悪い悪い。天崎先生、ご機嫌いかがかな」
「ご機嫌ナナメですっ」
プイッと顔を背けている彼女は、養護教諭の天崎和花という。柚里とは年が近く、同僚の中でも友人と呼べる貴重な存在だった。
「冗談じゃないか。そう、へそを曲げるなよ。それよりもどうしたんだ。何か用事か」
「用事ってわけじゃないけど、一緒に帰ろうと思って。私ももう切り上げるところだから」
「それは丁度良かった。ちょっと協力して欲しいことがあるんだ」
「ええ~っ、何よ何よ~」
柚里に頼られて気を良くしたのか、ころころと表情が変わる。
「それは帰りがてら話すよ」
「へえ~」と、和花がにやける。
「なんだよ」
「柚里ちゃん、何だか楽しそうだと思って」
「楽しい?」言われて疑問に思う。このところ相談事が多くて大変な気もするのだが……。
「あ、それさっき生徒から貰ってたやつだ。良いのかな~、賄賂とか貰っちゃって~、お代官様~」
言われて手元を見ると、先ほど梢から貰った菓子があるのに気が付いて「ふふっ」と笑いが漏れる。そうか、自分は楽しんでいるのだな。
「これは没収したんだ。処分するところだから手伝えよ」
和花のおかしなノリに、柚里は詭弁で返すと、飴を一つ口に放り込み、和花にも幾つか手渡した。
「あらら、私も共犯ね~」
「そうだ、これから忙しくなるから付き合えよ」
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と、こちらはこちらで、何やら画策し始めるのであった。
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