胡桃と雪乃

槻代 要

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「赤い手形がびっしり」
「何よいきなり」
「面倒なので前段をはしょってみました」
「それじゃ何の話だか分かんないでしょーが」
 端から見ていた冴子はクスクス笑っているが、梢は苦手なのかぎょっとしている。
「ほら、怪談ですよ。学校の七不思議とか」
「ええ~……? アンタにしちゃ随分とありきたりの話じゃない。一体何を企んでるワケ……?」と、胡桃は疑いの目を向ける。
「それがですね……」と雪乃は勿体振ると、「なんでも放課後の保健室に出るらしいですよ~」と暗い顔をして言う。
「何が……!」ゴクリと生唾を飲みながら梢が聞くと、雪乃は獲物を見つけたとばかりに手を大きく広げ、「女生徒がー!」と掴み掛かる。
「きゃあああーっ!」と冴子に抱きついて助けを求める梢。
「やめろって」胡桃がトスッと雪乃の頭頂部に手刀を振り下ろした。
「いたっ」と雪乃は頭を押さえると「もー、愛嬌じゃないですかー」と言い訳する。そして「嘘ですよ~。今の無し。だから私とも抱き合いましょうよ~」と下心丸見えで梢に迫る。が、梢は「いやっ」と益々、冴子にしがみついてしまう。
「よしよし」と梢の頭を撫でる冴子。仲良しである。
「がーん。ショック……。何故わたしではいけないのでしょうか……」
「いや、アンタが脅かしてるからでしょうが……」と呆れる胡桃。「んで、何だって? 放課後の保健室に女生徒が出る……? そりゃなんぼでも出るでしょうよ、そんなもん」
 女生徒を始め、男子生徒や教職員など、色々な者が現れるに違いない。何せ保健室なのだから。
「というわけで、これから保健室に向かおうと思います」
「何が、というわけなのか分からんが……」
「そうだ、梢さん手を繋いで行きましょう」両手をわきわきさせながら近付く雪乃だが、梢は冴子の腕に絡みついたままで「やーだよ。つーん」と断る。
「ねーえ、なーんーでー」ジタバタと藻掻いた雪乃は「あーん、胡桃さーん」と、その腕に抱き付く。
「手つきがいやらしいのよ、アンタは」と苦笑しながらも、ぽんぽんと頭を撫でてやる胡桃。こちらも仲良しだ。
「それで、保健室に行くってことで良いのかしら」と冴子が中々進まない話を元に戻す。
「そうですね。油を売ってる場合じゃありません。早く行きましょう」
「誰のせいよ」
 結局、キャッキャと睦み合いながら、廊下を行く一行だった。

 保健室に着くと、雪乃が引き戸の取っ手に手を伸ばす。と――
 ガシャガシャーン!
 けたたましい金属音が鳴り響く。
「えっ」と雪乃は咄嗟に手を引っ込め、「きゃあっ!」と梢が身をすくめる。
「何っ?」胡桃が雪乃の前に割って入り、冴子も梢を庇って身構えた。
 からんからん、くわわわわっ、と金属容器が床で踊るような音の後、辺りが静まり返る。
 胡桃がそっと引き戸を開け、雪乃はその背中に掴まって肩越しに、二人で中を覗き込んだ。
 そこには、床に座り込んでいる一人の女生徒の姿があった。見れば、銀色の器具が床に散乱している。
 咄嗟に、引き戸を開けて中に飛び込んだ胡桃は、その傍に跪いて「大丈夫か?」と背中に手を添えた。三人も次々に入ってきて様子を気に掛ける。
「どうしました?」と雪乃が聞くと、彼女はようやく「あ、うん……」と返事をする。「手が滑っちゃって……」
 苦笑いしているが、青ざめているところを見ると、器具を取り落としたときの衝撃で腰が抜けてしまったというところか。
「怪我は無い?」と冴子が聞く。しかし、見れば太股に、小さいが新しい傷が出来ていた。何かが足に当たったのだろう。
「大変、血が出てるよ」と梢が傷を示す。大袈裟なようだが、化膿しては大変だ。
「梢、それ取って」と指差した先には金属製のワゴンがあり、上に色々な衛生用品が載っている。梢はその中からピンセットを冴子に手渡すと、更に綿球容器の蓋を開けて中のアルコール綿を取り出し易いようにする。
 冴子は手際良く傷を消毒すると「はい、これ」と梢が渡してきた絆創膏をその上から貼り付けた。
「見事なもんねー」と胡桃が賞賛の声を発する。それは、処置の仕方も然る事ながら、二人の意思疎通の素晴らしさについてである。
「あー、私はソフトボールやってたときに傷の手当とか結構あったから。梢も手伝ってくれたり、ね」
 同意を求められて、梢も「うんー」と頷く。それにしても、だと思うが。
「あたしなんか、傷なんてほっときっぱなしだからなー」と笑う胡桃だが、「ダメですよ。誰もが胡桃さんみたいな免疫力オバケじゃないんですから」という雪乃の言葉に、「人を何だと思ってるんだかっ」と途端に憮然とするのだった。

「保健委員ですか?」と雪乃が首を傾げる。
「うん。と言っても、今日は当番じゃないんだけどね」と、そう言って笑う彼女は、一年A組の白河藍香しらかわあいかと名乗った。
「誰かに押しつけられたとか?」
「いやいやいや、そうじゃないよ」
 問われて彼女は、慌ててそれを否定する。
「私、こういうことに興味があって……。良くここに来てるんだ」ということである。
 それで雪乃は「なるほど~」と、納得して頷く。「つまり、藍香さんが保健室によく現れる女生徒ですね」
 言われて「えっ、あ、そうかも……?」と  考え込む。「それが何か……?」
「ゆ、幽霊なの?」と梢が聞くが、藍香は「えっ、幽霊って?」と、不思議そうな笑みを浮かべる。
「違うでしょ、どう見ても」と冴子が苦笑すると「そ、そうだよね。さっき血が出てたし……」と自らの発言を否定するように呟く梢だが、雪乃が「血塗れの幽霊だって居るじゃないですか~」と迫ると、「あーん、やだーっ、雪乃ちゃんのお馬鹿ーっ!」と冴子の後ろに逃げていく。やはり、相当苦手のようだ。
「またやってるし……」
「お馬鹿……。お化けではなく、私というお馬鹿が出た、と言うことですね……」と立ち尽くす雪乃だが、「ホント、お馬鹿よねー、アンタは。頭良いのにねー」と取り繕ってすらいない胡桃の言葉に「むっ、なんですかっ」とぷんすかする。
「えーと、これで保健室に出る女生徒の謎は解けたってこと? あと、お馬鹿さんも出るの?」と冴子が真顔で聞くので、雪乃は「もーっ、冴子さんまでっ」と益々膨れっ面になり、胡桃は腹を抱えて笑うのだった。

「五人目の勇者じゃなかったなー」
 少し揶揄して言う胡桃だが、雪乃は「仕方がないですよ。やることがある人の邪魔は出来ないです」と、特に未練は無さそうだ。その言葉通り、藍香を勧誘することは一切しなかった。
 これと決めたら躊躇いなく、自分の信じた道を突き進む彼女だが、人の心の機微が分かっている。
 そういうところが好ましいのだが、口には出さず胡桃は「まあね~」と軽く流す。
「まあ、知り合えただけでも良かったじゃない」と冴子が言うと、「そうですね。今後のための貴重な人脈が出来ましたね」と、飽くまで前向きなのは変わらない。
 しかし、良い話でまとまろうとしているその時――
「藍香ちゃんと連絡先交換しちゃったー」
 梢が、片手をグーにして突き上げる。
「えええっ?」と一堂が驚く。
「えっ、えっ、いつの間に……?」
 一体どこにそんなタイミングがあったというのか。
「とんだ伏兵だな」
「コミュニケーションお化けですね……」
「梢はそういうとこあるわよね」
 と感心半分、呆れ半分の面々であった。

「あれが星上雪乃……」
 和気藹々としたその様子を、影から覗いている者が居ようとは気付きもせずに……?
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