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「えーっ、なっ、無いんですか? あるって聞いてたのに……」
黒森可憐は愕然とする。
小柄な体躯と童顔の所為で、まるで子供が拗ねているように見えるが、彼女は歴とした高校生である。
彼女には入りたい部があった。中学で三年間所属していた手芸部である。
「う~ん……。どうやら、去年の内に解散したみたいね」と、可憐の在籍する一年A組の担任の敦賀真琴が、資料を捲りながら答える。
「じゃあ、その時所属してた先輩の名前は分かりませんか」そう言って食い下がる可憐だが……。
「載ってないわね~。そもそも卒業生だけの集まりだったのかも知れないし、同好会だと記録が残らないことも多いから……」
「そんな~……」
がっくりと肩を落とすと、小さな体が更に小さく見えて痛々しい。
「ま、まあ、そんなに落ち込まないで。二、三日したらまた来てくれる? 私も色々調べてみるから」
そう言う真琴に可憐は「分かりました~……」と力無く答えると、とぼとぼと職員室を後にしたのだった。
その帰りの廊下。
「はあ~……、どうしようかな……」と、途方に暮れて立ち止まり、窓の外を眺める。校庭では運動部の生徒達が活発に活動していた。
成績も良く運動神経も悪くない彼女であるが、今からあの中に混ざりたいとは到底思えなかった。ずっとやってきたことの方が当然、一番上手く出来るし、何より愛着があった。
いっそ部活動は諦めて、個人の趣味として続けていけば良いのかも知れないが、同好の士の一人も居ないのかと思うと一抹の寂しさを覚えるのだった。
敦賀真琴は内心、動揺していた。
情熱的で爽やかな性格の彼女ではあるが、担任を持つのは今年が初めてで、生徒の相談事などには未だ慣れていなかった。
可憐の相談についても、責任感から引き受けはしたものの、調べるあてもなく焦燥していた。
そこで――
「牧村先生~……」と、早々に先輩に泣き付く。
牧村柚里は一年D組の担任で、年齢も経験も真琴より三年ほど先輩である。
「あ、天崎先生も」と、その横に居る養護教諭の天崎和花にも声を掛けるが「むっ、何よ、取って付けたみたいにっ」と、そっぽを向かれてしまった。
「二人とも、助けて下さいよ~……」と真琴は尚も言いすがる。
「何だ、みっともない」と、その有様を柚里に非難されるが、それでも「どうかしたのか」と耳を貸してくれる。優しい先輩である。
「なるほどな……」
一通り話を聞いた柚里は、何やら思案を巡らせると「これは、アレだな」と和花に目配せをした。「あー、アレね」と和花も頷く。
「何ですか、アレって~……」と、真琴だけが蚊帳の外にされて困惑していると、柚里が「実は私も生徒から同じような相談を受けているんだが、敦賀先生の話もどうにかなるかも知れない、と思ってな」と言うので「えっ、本当ですか」と表情を明るくした。が……。
「但し、こちらにも協力してもらうぞ。というか、そうしてもらわざるを得ない」と、何やら交換条件を突き付けられる。
「何だか分かりませんが……、分かりました」と、矛盾した返事をする真琴だが「生徒のためなら」そう言って拳を握った。
それを見て柚里は「うん、良いじゃないか」とほくそ笑む。「ならば作戦会議だな」
「何ですか、作戦会議って?」
「なに、ある生徒の受け売りでな。何かを始めるときの合図みたいなものさ」
「はあ」
相づちを打っては見たものの、やはり何のことだかさっぱりである。
「では行くか」と立ち上がる柚里に、和花が「そうね」と呼応する。
「え? 行くって、何処へ?」
「だから、作戦会議でしょ」
「固めの杯ってやつさ。大人には大人の流儀ってものがあるだろう」
そう言って笑みを浮かべる二人に「あ~……、そういう事でしたか。じゃあ、お供します」と、ようやくその意味を理解する真琴だが……。
「あーっ、わたしまだ仕事が片付いてないんでした」そう言って取り乱す。
「そうか。じゃあ先に行ってるからな」
「頑張って早く来てね~」
「そんな~……」
にべも無く行ってしまう二人に、途端に泣き顔になる真琴。滝のような涙が本当に見えそうだ。
その後、無事に合流した三人によって、盃の元に密約が交わされる。後の世に言う鵬清陵の結義であった――とかなんとか。
黒森可憐は愕然とする。
小柄な体躯と童顔の所為で、まるで子供が拗ねているように見えるが、彼女は歴とした高校生である。
彼女には入りたい部があった。中学で三年間所属していた手芸部である。
「う~ん……。どうやら、去年の内に解散したみたいね」と、可憐の在籍する一年A組の担任の敦賀真琴が、資料を捲りながら答える。
「じゃあ、その時所属してた先輩の名前は分かりませんか」そう言って食い下がる可憐だが……。
「載ってないわね~。そもそも卒業生だけの集まりだったのかも知れないし、同好会だと記録が残らないことも多いから……」
「そんな~……」
がっくりと肩を落とすと、小さな体が更に小さく見えて痛々しい。
「ま、まあ、そんなに落ち込まないで。二、三日したらまた来てくれる? 私も色々調べてみるから」
そう言う真琴に可憐は「分かりました~……」と力無く答えると、とぼとぼと職員室を後にしたのだった。
その帰りの廊下。
「はあ~……、どうしようかな……」と、途方に暮れて立ち止まり、窓の外を眺める。校庭では運動部の生徒達が活発に活動していた。
成績も良く運動神経も悪くない彼女であるが、今からあの中に混ざりたいとは到底思えなかった。ずっとやってきたことの方が当然、一番上手く出来るし、何より愛着があった。
いっそ部活動は諦めて、個人の趣味として続けていけば良いのかも知れないが、同好の士の一人も居ないのかと思うと一抹の寂しさを覚えるのだった。
敦賀真琴は内心、動揺していた。
情熱的で爽やかな性格の彼女ではあるが、担任を持つのは今年が初めてで、生徒の相談事などには未だ慣れていなかった。
可憐の相談についても、責任感から引き受けはしたものの、調べるあてもなく焦燥していた。
そこで――
「牧村先生~……」と、早々に先輩に泣き付く。
牧村柚里は一年D組の担任で、年齢も経験も真琴より三年ほど先輩である。
「あ、天崎先生も」と、その横に居る養護教諭の天崎和花にも声を掛けるが「むっ、何よ、取って付けたみたいにっ」と、そっぽを向かれてしまった。
「二人とも、助けて下さいよ~……」と真琴は尚も言いすがる。
「何だ、みっともない」と、その有様を柚里に非難されるが、それでも「どうかしたのか」と耳を貸してくれる。優しい先輩である。
「なるほどな……」
一通り話を聞いた柚里は、何やら思案を巡らせると「これは、アレだな」と和花に目配せをした。「あー、アレね」と和花も頷く。
「何ですか、アレって~……」と、真琴だけが蚊帳の外にされて困惑していると、柚里が「実は私も生徒から同じような相談を受けているんだが、敦賀先生の話もどうにかなるかも知れない、と思ってな」と言うので「えっ、本当ですか」と表情を明るくした。が……。
「但し、こちらにも協力してもらうぞ。というか、そうしてもらわざるを得ない」と、何やら交換条件を突き付けられる。
「何だか分かりませんが……、分かりました」と、矛盾した返事をする真琴だが「生徒のためなら」そう言って拳を握った。
それを見て柚里は「うん、良いじゃないか」とほくそ笑む。「ならば作戦会議だな」
「何ですか、作戦会議って?」
「なに、ある生徒の受け売りでな。何かを始めるときの合図みたいなものさ」
「はあ」
相づちを打っては見たものの、やはり何のことだかさっぱりである。
「では行くか」と立ち上がる柚里に、和花が「そうね」と呼応する。
「え? 行くって、何処へ?」
「だから、作戦会議でしょ」
「固めの杯ってやつさ。大人には大人の流儀ってものがあるだろう」
そう言って笑みを浮かべる二人に「あ~……、そういう事でしたか。じゃあ、お供します」と、ようやくその意味を理解する真琴だが……。
「あーっ、わたしまだ仕事が片付いてないんでした」そう言って取り乱す。
「そうか。じゃあ先に行ってるからな」
「頑張って早く来てね~」
「そんな~……」
にべも無く行ってしまう二人に、途端に泣き顔になる真琴。滝のような涙が本当に見えそうだ。
その後、無事に合流した三人によって、盃の元に密約が交わされる。後の世に言う鵬清陵の結義であった――とかなんとか。
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