胡桃と雪乃

槻代 要

文字の大きさ
8 / 19

8

しおりを挟む
「えーっ、なっ、無いんですか? あるって聞いてたのに……」
 黒森可憐くろもりかれんは愕然とする。
 小柄な体躯と童顔の所為で、まるで子供が拗ねているように見えるが、彼女はれっきとした高校生である。
 彼女には入りたい部があった。中学で三年間所属していた手芸部である。
「う~ん……。どうやら、去年の内に解散したみたいね」と、可憐の在籍する一年A組の担任の敦賀真琴つるがまことが、資料を捲りながら答える。
「じゃあ、その時所属してた先輩の名前は分かりませんか」そう言って食い下がる可憐だが……。
「載ってないわね~。そもそも卒業生だけの集まりだったのかも知れないし、同好会だと記録が残らないことも多いから……」
「そんな~……」
 がっくりと肩を落とすと、小さな体が更に小さく見えて痛々しい。
「ま、まあ、そんなに落ち込まないで。二、三日したらまた来てくれる? 私も色々調べてみるから」
 そう言う真琴に可憐は「分かりました~……」と力無く答えると、とぼとぼと職員室を後にしたのだった。
 その帰りの廊下。
「はあ~……、どうしようかな……」と、途方に暮れて立ち止まり、窓の外を眺める。校庭では運動部の生徒達が活発に活動していた。
 成績も良く運動神経も悪くない彼女であるが、今からあの中に混ざりたいとは到底思えなかった。ずっとやってきたことの方が当然、一番上手く出来るし、何より愛着があった。
 いっそ部活動は諦めて、個人の趣味として続けていけば良いのかも知れないが、同好の士の一人も居ないのかと思うと一抹の寂しさを覚えるのだった。

 敦賀真琴は内心、動揺していた。
 情熱的で爽やかな性格の彼女ではあるが、担任を持つのは今年が初めてで、生徒の相談事などには未だ慣れていなかった。
 可憐の相談についても、責任感から引き受けはしたものの、調べるあてもなく焦燥していた。
 そこで――
「牧村先生~……」と、早々に先輩に泣き付く。
 牧村柚里は一年D組の担任で、年齢も経験も真琴より三年ほど先輩である。
「あ、天崎先生も」と、その横に居る養護教諭の天崎和花にも声を掛けるが「むっ、何よ、取って付けたみたいにっ」と、そっぽを向かれてしまった。
「二人とも、助けて下さいよ~……」と真琴は尚も言いすがる。
「何だ、みっともない」と、その有様を柚里に非難されるが、それでも「どうかしたのか」と耳を貸してくれる。優しい先輩である。
「なるほどな……」
 一通り話を聞いた柚里は、何やら思案を巡らせると「これは、アレだな」と和花に目配せをした。「あー、アレね」と和花も頷く。
「何ですか、アレって~……」と、真琴だけが蚊帳の外にされて困惑していると、柚里が「実は私も生徒から同じような相談を受けているんだが、敦賀先生の話もどうにかなるかも知れない、と思ってな」と言うので「えっ、本当ですか」と表情を明るくした。が……。
「但し、こちらにも協力してもらうぞ。というか、そうしてもらわざるを得ない」と、何やら交換条件を突き付けられる。
「何だか分かりませんが……、分かりました」と、矛盾した返事をする真琴だが「生徒のためなら」そう言って拳を握った。
 それを見て柚里は「うん、良いじゃないか」とほくそ笑む。「ならば作戦会議だな」
「何ですか、作戦会議って?」
「なに、ある生徒の受け売りでな。何かを始めるときの合図みたいなものさ」
「はあ」
 相づちを打っては見たものの、やはり何のことだかさっぱりである。
「では行くか」と立ち上がる柚里に、和花が「そうね」と呼応する。
「え? 行くって、何処へ?」
「だから、作戦会議でしょ」
「固めの杯ってやつさ。大人には大人の流儀ってものがあるだろう」
 そう言って笑みを浮かべる二人に「あ~……、そういう事でしたか。じゃあ、お供します」と、ようやくその意味を理解する真琴だが……。
「あーっ、わたしまだ仕事が片付いてないんでした」そう言って取り乱す。
「そうか。じゃあ先に行ってるからな」
「頑張って早く来てね~」
「そんな~……」
 にべも無く行ってしまう二人に、途端に泣き顔になる真琴。滝のような涙が本当に見えそうだ。
 その後、無事に合流した三人によって、盃の元に密約が交わされる。後の世に言う鵬清陵の結義であった――とかなんとか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

処理中です...