16 / 45
絶体絶命のピンチ
しおりを挟む私なんかだと、『見合い=ホテルのロビー』という図式が頭に浮かぶのだが、さすがあのハゲ親父と鼻息ピュルピュル親父だ。いきなり光貴の住むマンションへ行けと。いや、正確には彼の住むタワマンの共用ゲストルームで対面しろと言われたのである。
…うん、これはきっとアレだな。自分自身に価値が無いことを知っているから、付加価値で女を釣ろうとしているに違いない。
なんだこの無駄に豪華なマンションは?!コンシェルジュは勿論、フィットネスルームにバーラウンジまで有るってどういうこと??しかも分譲でしょ??一概のサラリーマンが、どうしてこんなところに住めるのよッ。
…という疑問を顔に出すと、きっと万里の長城よりも長く果てしない自慢話が始まると思い。根性で薄ら笑いを貼り付け、何も考えていないフリをしていたのに。唐突に光貴の方から自慢話を繰り出してきた。
「いいだろ?このタワマン。共用施設がかなり充実しているんだぜ。マルチサウンドルームにファミリーラウンジ、パーティールームにキッズルームなんてのも有るんだ。当たり前なんだけどスパも付いててさ、岩盤浴まで出来るワケ。傑作なのはさ~、茶室。誰が使うんだろうな、そんなモン。あ、ワインセラーなんかも…」
なげえな。
そんならもう、このマンションのパンフレットでもくれればウチに帰ってソレ読むからさ。
息継ぎを忘れるほどに自慢しまくった光貴は、ゼエゼエ言いながらコーヒーを何口か飲んだ。しかし、そこまで私も鬼では無いので、場繋ぎに質問なんぞしてみる。
「このマンション、随分と高かったでしょう?何年でローンを組んだの?」
「は?」
微かに人をバカにしたような表情で、彼はゆっくりと口を開いた。
「もちろん一括だよ。ローンなんて組まないさ」
「へえ…よくそんなお金が有ったわね。あっ!まさかお父さんに出して貰ったとか?!嘘々ごめ~ん。そんな恥ずかしいこと出来ないよね。社会人にもなってパパにおうちを買って貰うなんて…私だったら恥ずかしくて死ぬわ」
シーン…。
やはり図星だったか。
適当に嘘でも吐いておきゃいいのに、そんな遠い目をしたらバレるっつうの。でもまあ、ある意味隠し事が出来ないのは利点だと好意的に解釈してあげよう。
「い、いや、そんなことより早速本題に入ろうじゃないか。コトリもさあ、俺を逃したらもう次は無いだろ。…だからさ、いいぜ」
きっとこの時の私の表情は、過去最高にドラマティックで劇画調だったはず。
「なに…を…?」
「ごめ~ん、分かり難い言い方をしちゃったか。俺、コトリと結婚してやってもいいぜ」
は?はあ?はあああっ??
もう一丁オマケに、はああああっ??
あまりにも驚き過ぎて、クシャミが出た。
「ハクショオッ!!」
「あはは、コトリ~お前ってば顔は可愛いのに。そんなオッサンみたいなクシャミはダメだぞォ」
おいこら、自分だけ勝手にカップル成立モードに突入して甘ったるい喋り方をするなッ。ちょ、やだ、手とか繋ごうとしないでよッ。
一方的に繋がれた手は、そのまま引っ張られた。急に光貴が立ち上がり、私も一緒に立たせようとしたからだ。
「な、何?そんなに引っ張ったら痛いんだけど」
「取り敢えず俺の部屋へ行こうか。だってほらアッチの相性も知っておきたいから」
「アッチって…」
「分かってるクセに~。お前の好きなアレだよ」
私は再び劇画調で呟く。
「なに…を…?」
「ふふふ」
だから何度も言うように、家庭問題のせいで一時期荒んだ生活をしており。当時はとにかく男と遊びまくった。高校生であるにも関わらず、クラブに通いつめ、一晩限りの関係なんてしょっちゅうで。
大学生になるとそれがもっと大っぴらになり、平気で仲間内の男友だちともノリで一晩過ごすなんてザラだったのである。
でも、もう改心したから。
今の私はオシドリの如く…ん?いや、オシドリって本当は仲が悪いんですってね。むしろあの黒くて気味の悪いカラスの方が夫婦仲が良いと。
一度ツガイになるとその相手は一生変えないらしいよ。子育ても一緒に頑張るんだって。常にパートナーを気遣い、相手に危険が及ぶと飛んで来るんだって。いいよね、そういう関係。
…てなことを熱弁してみたが、如何せん、共用スペースということもあり、周囲にポツポツと点在している人に聞こえないよう小声で言ったため説得力に欠けたらしい。
「は?なに言ってんの、お前」
「ぐっ」
この男にそんなハートフルな話は通じなかった。しかも、予想外に腕力が強くて。グイグイと私をエレベーターに乗せ、逃げさせてくれない。
『助けて』と叫んでも、どうせどこもかしこも防音になっていて、誰も出て来ないことは予測出来た。中林コトリ、絶体絶命のピンチである。
最上階の角部屋のドアを手際よく開けて、光貴は私の肩を握り潰しそうなほど力強く押し出し、強引に部屋の中へと放り入れる。
「…し、しない。そういうのもうヤメたの!」
「は?嘘吐け、このビッチが。お前さあ、なんでヨシキとか翔平にはヤラせたクセに俺にはさせてくんなかったワケ?俺、すっごく傷ついたんだぞ」
気付けよ。
お前のことが大嫌いだったからだって。
しかし、そんなことを正直に言おうものなら、あの包丁振り回しハゲ親父の息子だ。猛り狂って何をされるか分かったものでは無い。ここは穏便に、そっと丁寧に対処しなくては。
「あの…ごめん。何と言うか、私…」
「ああ、でもいいんだ。だって、本当は好きだったんだろう?俺のこと。気を惹きたかったんだよな?だからこうして父親経由で結婚話を…」
およよ??なんだその神がかったまでのポジティブ思考は。
これは何もかも鼻息親父が勝手に決めたことで、しかも光貴を選んだのは『跡取りじゃない方が気楽』とかいうクソみたいな理由なのに。
ダメだ、もうストレートに伝えるしかない。
そう決心した私は勇気を振り絞って言う。
「あの、私、光貴と結婚する気は全然無いの。父親が暴走して勝手にこの話を進めたんだよ。ていうか、これっぽっちも好きじゃないし。ていうか、むしろ大嫌い?ごめんね、生理的にムリなのッ」
2
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
メイウッド家の双子の姉妹
柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…?
※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる