たぶん愛は世界を救う

ももくり

文字の大きさ
30 / 45

それをしちゃダメなのに

しおりを挟む
 
 
 人はピンチに陥ると、とにかく早く解決しようと思う生き物である。

 先生は酔っていた…それも泥酔だ。

 つい先程までスイスイ歩いていたはずなのに、まるで電池が切れたかのように突然のOFF。しかも豪快に路上で大の字になって寝ている。いくら小さな商店街とは言え、いつ車が通るか分からないので、私は丸太を転がすようにしてゴロゴロと先生を路肩へ移動させた。

 …ふう、問題はこの後だろう。

 さすがに女の細腕でこれ以上運ぶのは無理だ。タクシーを配車して貰って運転手さんの助けを借りながら先生の自宅まで連れて行けたとしても、鍵は?…勝手に先生のカバンの中を探ってどうにか開けられたと想定してみよう。

 うん、閉めることが出来ないねえ。まさか私が一晩滞在せねばならぬのか?いやいやだって明日も仕事だし着替えたいしお風呂にも入りたいしメイク落としや基礎化粧品はコトリセレクトの拘りの逸品しか使いたくないし

 って、ああやっぱりこの案は却下!!
 ゼエゼエ…。

 なんかもう、それをしちゃダメだと分かってる。分かっているけど他に選択肢は残されていない気がした。なので早々にメッセージを送信する。

>浦くん、
>仕事が終わったら連絡ください。

 仮にも恋敵であるはずの富樫先生を、我が家に泊めるなどと。しかもそれを運ぶのを手伝えと。…いや、手伝うどころかほぼメインだな。だって私は非力な女性なのだから。

 そんな鬼のような依頼を今から私はするのだ。

「ヒマだなあ」

 年季を感じさせる生花店のシャッターにもたれ、ひたすら眠っている先生の隣りでまるでLAにいるかの如く小粋なポーズをキメて立っていると突然先生が覚醒した。

「ゴメンなコトリ!干場のクソ野郎を殴らなくて」
「ん?ああ、いいんですよ。だって先生は副社長なんですもん」

「でも、お前があんな酷いことを言われたのにあの程度の抗議しか出来なかった…。俺、本当に本当に悔しいよォ」
「副社長は社員たちの生活を背負ってるんです。客先でトラブルを起こさない様にするのは当然でしょ?私は大丈夫。あんなのはスグ忘れます」

 ここで私はふと気づくのだ。

 飲むとどうなるのか分かっているはずの先生が、どうしてソレを口にしたのかを。

「あの…まさか先生、干場さんに歯向かうことが出来ない自分に苛立って…その…お酒を??」
「んあ、そう…、お前、やっぱ鋭いなあ」

 本当のことを言うと干場さんにはメチャクチャ腹が立っていて、許すつもりは全然無かった。死ぬまで呪ってやると決心していたほどなのに。

 自分の為にこんなにも怒ってくれる人を目の前にすると、なんだか心が浄化されていくようだ。

「ははっ。やだなあ、先生ったら」
「…スー」

 って、ここでまた寝るのかいッ!!

 酔って丸見えになった先生の“本心”は、あまりにも嬉しくて。ホッコリして思わず笑みを零しているところに、浦くんからの電話が掛かってきた。

「もしもしっ!コトリさん、どうしましたか?」
「んあー、浦くん…」

 気付けば、いつの間にか23時になっており。忠犬ウラ公は、閉店と同時に電話してきたようだ。きっとこの後、片付けなども有るだろうから手短に話そうと思っていたのに。どうやら私という人間は、こんな時でも自分の心証をどうにか良くしようと思っているらしく。

 他部署の課長に酷いセクハラを受け、それに歯向かえなかった事を恥じた富樫先生が下戸なのにヤケ酒を浴びるように呑み、その結果、泥酔して駅の近くの商店街の中ほどにある生花店の前でかれこれ2時間を過ごしていることをただひたすら話し続けてしまい。

 肝心の用件をさあこれから言いましょう。…というそのタイミングで、向こうから怒鳴り声が響いた。

>おいこら浦!いつまでサボってんだ?!
>早く厨房を片付けろっつってんだろ!!

 …こっわ。
 新見店長って、こんなだったの?

 その迫力にビビッた私は、慌ててしまい。

「あの、ごめ、その、でね!迎えに来て」

 それだけ言って電話を切った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...