たぶん愛は世界を救う

ももくり

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 …………
「じゃあ中林さん、きちんと富樫さんに送って貰ってね。富樫さん、1カ月間どうもお世話になりました。これからも宜しくお願い致します」
「こちらこそ色々と良くして頂きまして、本当に有難うございました。今後とも末永く…」

 取り敢えず送別会は終了し。

 二次会へ行こう!という女子たちからの提案は、『連日の残業で皆さんお疲れでしょうから』と先生が遠回しに拒絶したことによって消え去り。こうして社会人としてのケジメというか、榮太郎様と先生の嘘臭い会話を聞き流しながら私は必死でタクシーを捕まえようとしていた。

「ううっ、なんだか今晩は非常に厳しいですっ」
「ああ。そうみたいだな」

 ようやく停まってくれた貴重な1台に、榮太郎様をムリヤリ押し込み。女子たちはカラオケへ行くと言うので、手を振って陽気に見送り。

 …気付けば富樫先生と2人きりだった。

「配車センターに電話すればいいんだろうけど、コトリは腹が減ってないか?」
「呼び捨て」

「え?ああ、コトリ」
「ま、また呼び捨て」

「だってさっき、愛の告白をしちゃったからな。ここらでもっと距離を縮めてしまおうと思って」
「ああ…」

 そういやそんな事も有りましたっけ。

「『ああ…』って、おい、冷たいな」
「ええ、だって、先生ってどこまで本気かよく分からないんですもん。なんか全部嘘のような気もするし、そうじゃないような気もするから」

 タクシーを停めるため大通りに向けていた体を取り敢えず先生へと向き直して私は続けた。

「先生って絶対に本心を見せませんよね?なんかそういうのって…その、寂しいです」
「アホか」

「えっ?!私なんか変なこと言いましたか?」
「本心なんてな、誰にも伝える必要なんて無い。…自分さえ分かっていればいいんだよ」

「そ、それはいったいどういう意味ですか?」
「世の中なあ、自分の本心すら分かっていない人間がどんなに多いことか。自分がどうしたいか知りもせず、その場を凌ぐために適当な言葉を垂れ流した結果、自分の言葉に責任が取れなくなってドツボに嵌るんだ」

 そう言いながら先生は突然歩き出す。

「あの、先生??どこへ向かっているんです?残業でお疲れのはずでは??」
「うるせえ、俺はラーメンが食いたいんだ。奢ってやるからお前も行くぞ」

「ええっ、飲みの後のラーメンは太りますッ」
「じゃあ俺の隣りで炒飯でも食ってろ!」

「いや、炒飯でも太りますってばッ」
「ったく面倒くせえな。とにかく来い!」

 そう言って強引に手を握ったかと思うと、ズンズンと大股で歩き出す。

「あのう、先生。さっきの話の続きですけどね。じゃあ私は先生の言葉をどこまで信じれば良いのでしょうか?というか本心を見せてくれない人とどうやって距離を縮めろと??」
「…好きにすればいい」

「は?」
「俺の言葉はな、都合の良い部分だけ切り取り、要らない部分は聞かなかったことにすればいい」

 こ、この男、どうやらスゴク面倒臭いぞ…。

 先生の握力が強すぎて、私の薬指と中指が悲鳴をあげており。

「先生、手が痛いです」
「…ん?ああ、そうか」

 そう訴えると一瞬だけ離れて再び握り直された。女慣れした大人の男性だから、てっきり恋人繋ぎにしてくるかと思ったのに。

「ほえ…」
「なんだよ、いちいちウッセェな」

 なぜか小指を1本だけ摘ままれている。

 こんなの意味無くない??
 ていうか、逆に可愛くない??

 なんなんだよ、そんなデカイ図体して小指だけちょこんと摘まむとかッ。ギャップだな?ギャップを狙っているんだな?

 駅の近くの小さな商店街。時刻はまだ21時前なので、行き交う人も非常に多く、目の前を塾帰りらしき学生カップルが歩いていた。そのぎこちない雰囲気が微笑ましくて、ワザと追い越さないよう歩幅を小さくしたところ、それに気付いた先生もゆっくりと歩いてくれる。

「あの高校生カップル、2人だけの時間を少しでも長くしようとしてワザとのろのろ歩いてるんですね。…いいなあ」

 すると突然先生が立ち止まりボソリと呟くのだ。

「俺もそうなんだけど」
「…えっ?」

 なんだか先生の顔を見るのが怖くて、学生カップルに視線を留めたままで私は問う。

「せ、先生がですか?」
「そんなに驚くなよ、傷つくだろ?俺だってもっとコトリと一緒にいたい」

「そんなの驚きです」
「だって明日からは職場が別々になるし、プライベートでも接点は無くなるだろう?」

「でも、ほら、電話とかしてくれれば…」
「俺、毎日電話したりとかそういうキャラじゃないじゃん。でもってお前、あの年下男と一緒に住んでて寂しくないだろうから、ワザワザ俺に電話してくる必要も無いしさ」

 どうした、富樫裕斗。
 なぜ急にこんなぶっちゃけ始めるんだ??

「先生…もしかして本気で私のこと好…」
「あの年下男、ズルイよ。俺だってもっと…」

 えっ?
 あっ?

 隣に立っていたはずのその人が、突然姿を消した。…いや、正確には地面に崩れ落ちたのだが。

「せっ、先生??どうしたんですかッ?!」
「ごめん、俺…」

 ふと遠い記憶が蘇って来る。

 そう、あれは中学校の旧校舎の非常階段で、煙草をプカプカ吸いながら先生がボヤいていた。

>ウチの親父、すげえ下戸でさ。
>その体質が遺伝したのか、
>俺も酒が一滴も飲めないんだわ。

>こんなナリしてアルコールがNGとか、
>くっそ恥ずかしくてさあ。
>誰にも言えないっつうの。

 だが先生は送別会でビールを2杯も飲んでいた。

「そっか、酔ってたんですね」
「…ん」

 んもうッ!
 もっと分かり易く酔ってくださいってばッ!

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