たぶんきっと大丈夫

ももくり

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9.郷田さんとの再会

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 それは体力作りの為にと通い始めたスポーツジムで、ヨガ教室を終え、着替える為に廊下を歩いていた時のことだった。

「カワイコちゃん発見!」

 女性更衣室と同じフロアに男性更衣室が有るので、廊下に設置された長椅子には男性利用客が座っていることが多く、私はいつもそこを足早に通り過ぎていた。

 だから突然声を掛けられ、しかもそれがナンパっぽい感じだったので絶対に無視しようと決めていたのだが、何気なく視線を向けたところ恐ろしく私好みのイケメンがいて。そしてそのイケメンから手招きされて漸く私は気付くのだ。

「ごっ、郷田さん?!」
「あはは、同じジムに通ってたんだね」

「ヨ、ヨガ教室に通っているんですよ、毎週日曜の午前中に」
「そっか、ヨガかあ。俺もだいたい日曜に来てるんだけど、トレーニングマシンを利用してセルフで鍛えているから、顔を合わせることも無かったんだね。あっ、ヨガをしているってことはもしかして相当カラダが柔らかい感じ?」

 どうしてだろうか。
 この人が言うと何もかもがエロく聞こえてしまう。

 >ヨガ…、俺の下でも善がヨガらせてやるよ。
 >セルフって…もちろん別の意味も含んでるからね。
 >身体が柔らかいのなら、色々な体位が楽しめるな。
 
 柔らかそうな髪をかき上げながら、郷田さんは首を傾げている。

「どうしたの?顔、真っ赤だけど」
「な、なんでもありません」

 スポーツジムというのは、ある意味、無法地帯だ(※華さんの偏見です)。何といっても服装が『動きやすさ』をメインにしているため、薄着でしかも露出が多い(※しつこいですが華さんの偏見です)。目の前にいる郷田さんも、下は黒のロングタイツに同色のハーフパンツを重ね、上はグレーの半袖シャツを着ている。特筆すべきは胸筋が半袖シャツを盛り上げ、その色っぽさに思わずニヤけてしまいそうになることだろうか。

 イイ、凄くイイ。
 
 ここで私はふと我に返る。『待て、私。薄着なのは郷田さんだけじゃないはずだ』と。長椅子の背後はガラス張りで、トレーニングルームが丸見えとなっている。ガラスなのでそこに向かって立っている私の姿も当然、映っているワケだ。

 忘れてた、ヨガ仕様だったや…。
 
 ピッチピチの黒レギンスに、サーモンピンクのカスケードタンク。ボディライン丸わかりの状態だからこそ、いつも教室と女性更衣室の間を早歩きで移動していたのに。

「あのさ、この後って予定ある?」
「う、え、ああ」

 動揺しているのは、明らかに郷田さんの視線が私のオッパイをロックオンしているからである。

 ええ、ええ。
 ホルスタインばりに大きいと評判ですからね。

「昼ご飯、一緒に食べない?」
「ご飯…ですか」

 今、この時に脳内で大会議が繰り広げられているのは言うまでも無い。この人には一泊させて貰った恩義が有るし、それに須賀さん曰く処女を奪って貰うには最適の人材らしいし、とにかく見た目がドンピシャ好み過ぎる。

 しかし、どう考えても私には扱い切れない危険人物だ。短い会話からでも物事の考え方やその生き方が『違う世界の人間』だと伝わってくるし、きっと死ぬまで相容れないと分かっているのにどうしてこれ以上接近しようと思えるだろうか?

 ひたすら悩んでいると、いつの間にか立ち上がっていた郷田さんが爽やかに微笑んでいた。

「じゃあ、30分後にここで待ち合わせということで」
「え?!あのッ、郷田さん」
 
「あはは、じゃあね!」
「え、えええっ」

 というワケで結局私は、郷田さんと食事へ行くことになったのである。
 
 
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