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8.須賀さんの恋愛観
しおりを挟む須賀さんはドヤ顔で続けた。
恋愛とは、修業なのだと。
とにかく若いうちに苦労しておけと。
年を重ねる毎に人間は臆病になるのだと。
「あの見るからに軽くて女癖の悪そうな男に、思いっきり苦労させて貰え」
「うっ、郷田さんの評価、辛過ぎない?」
「華」
「はい」
「初見の客をそのまま自宅に泊めて、しかも俺がいたにも関わらず平気でお前を口説いたんだぞ、あの男は」
「…うっ、確かに」
「バーテン、イケメン、自宅に女物の化粧品…ここから導き出される答えを述べよ!」
「はい!ヤリチンです!」
私の言葉に少しだけ首を傾げた須賀さんは、次に激しく頷いた。
「多分…いや絶対にアイツはセックスも上手いはずだ」
「うへえ…、突然の下ネタっすか。ていうか、そんな見た目なんかじゃワカンナイでしょうよ」
「アホ!女と違って男はな、同性を随時そういう目で査定してるから分かるんだ」
「え?…ああ、そう言えば男性トイレって小用を足す際に互いのアレを見せ合う仕組みになってるよね」
「そういう身体的な理由じゃなくてさ、あの男、妙に女慣れしてただろ?」
「うん」
コホン、と咳払いをして須賀さんは再び口を開く。
「女性に対して臆せずスムーズに会話出来るというのは、最大の武器なんだよ。とにかくそれでベッドまで上手いこと誘い込める。しかもあの顔だし、失敗も無く連れ込みまくりだろうな。で、連れ込んだ後も、ああいうタイプは自分だけではなく相手の反応をジックリ見て、快楽を最大限に引き出そうとするはずだ」
「その根拠は?」
「華に接する態度もそんな感じだっただろ?会話するだけでもジックリと真正面から華の表情を見て、反応を逐一逃さないと言わんばかりだった。あのネットリっぷりでセックスも攻めてくるぞ、アイツ」
「そっかあ…って、でも、普通はそういう男を勧めないと思うんだけど。須賀さん、私のことが心配じゃないの?」
ガシッと両肩を掴まれ、それから首を左右に振りながら須賀さんは即答した。
「勿論、心配だ。だがな、人間は必ず恋愛で傷付き、その痛みを忘れる為に新しい恋をしようと思う生き物なんだ。でさ、この痛みっつうのが結構シンドイんだけど、普通は10代くらいで経験を済ませてしまうところを、お前は27年間も無傷のままなんだぞ?これ以上、引き延ばさず早く傷物になっておかないと、後が怖いだろう」
「そう言われましても」
なんだろう、言ってることがメチャクチャなのに、何故だか妙に納得してしまう自分がいる。
いや、でも最初から失恋ありきで郷田さんと付き合うの?
弄ばれることが前提の恋って、おかしくない?
「まあ、もしかしてアイツが華にだけは本気になるかもしれないけど、そうなったらそれはそれで万々歳じゃないか」
「聞けば聞くほど、郷田さんって恋愛初心者向けじゃないよね?確かにあの顔とか雰囲気は凄く好きだけど、もっと恋愛を続けられそうな真面目な男性を私の為に見つけてあげようとか思わないの?」
私の問いに須賀さんは『思わない』と即答する。
「だって真面目な男を信じてソイツから裏切られたら、違う意味で華は傷つくと思うんだ。それなら最初から如何にも浮気しそうなアイツの方が想定の範囲内というか、心の準備をしておける分、ショックも小さいだろ」
「そっかあ」
って、何が『そっかあ』なのか。
取り敢えず須賀さんは私のことを心配してくれていて、その好意だけは受け取っておこう…と決心したその翌日。
私は再び郷田さんに会ってしまうのだ。
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