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12.金曜深夜
しおりを挟むまったくもう、もう、もう!
郷田さんの大嘘つき!
>一回してみたら『なんだこんなもんか』って思うはずだ
…とか仰ってましたけどね、全然『こんなもんか』じゃなかったんですけどッ。
てっきり、日常生活に自然に溶け込むのかと…そう、ランチで例えるならいつもの定食にヒジキの煮物が一品増える程度の存在になるのかと思えば、むしろメイン…いや、単品メニューになれそうなほどの勢いで。
お陰様で私の頭の中はセックスで埋め尽くされ、他のことを考える余裕すら無いのだが、そんなエロいことばかりを考えている女だと死んでも周囲に悟られたく無いため自己解決を試みたところ、更にドツボに嵌ったという感じだ。
「なあ、何をそんなに悩むことが有るんだよ?」
「そりゃあ、色々と。処女を卒業したばかりの27歳の女として、正しい有り様と言うか…その、セックス時の反応をですね、学ぼうと思うのは当然じゃない?」
──金曜深夜。
ここ2日ほど短納期の仕事に取り組んでいたせいで完徹だったにも関わらず、私は須賀さんと仲良く飲んでいる。それは死んでも周囲に知られたくないと思う反面、こんなに悩むくらいなら誰かに教えを乞うた方がラクだという答えに辿り着いたからだ。
だって『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』とも言いますしね、思い詰めるのはカラダに良くないでしょ、うん。
さすが須賀さん、私が処女喪失したことを誰よりも早く察知し、さり気なく労わってくれた時には…死にたくなった。勿論、恥ずかし過ぎてである。ったく、セックス絡みであと何回死にたくなるのだろうか。もしかしてコレ、一度足を踏み込むと死ぬまで悩み続けるとか言わないよね?
脳内で自問自答していると、須賀さんが薄ら寒い笑顔を浮かべながら私に質問してくる。
「で、どうやって自己解決しようとしてたんだ?」
「えーっと、エロ動画とエロ掲示板とAV嬢のブログを見まくりました。…あ、あとAV男優についても色々とリサーチしてみたんですけど。いやあ、エロの世界は奥深いですねえ」
ガクッ
須賀さんは頬杖をついていた手を豪快にテーブル下に滑らせ、幻の珍獣を発見したかの如く私を引き気味で眺めている。
「おいこら、エロエロ煩いよ。…って言うか、そんなもん毎日見てたら、誰でも頭ん中がセックスで一杯になるに決まってる!あのな、あれはビジネス・エロであって真似なんかしたら痛い目に遭うぞ。一般人は地道にコツコツと経験値を重ねていくしか無いということを肝に銘じろ」
「ビ、ビジネス・エロ??じゃあ、もしかして潮吹きは都市伝説なのですか、師匠?!」
ご安心ください、個室をリザーブしておいたのでどんな猥談でもし放題なのですッ。
>ちょ~~っ。
>隣りのカップルの会話、めちゃエロい。
>しかも女が主導みたいだぞ。
>絶対に後で痴女様の顔を拝みに行こうぜ!
って、全然し放題じゃありませんでしたッ!!
今の会話を全部聞かれていたかと思うと、恥ずかしくて死ねる。
…どうやら隣室は若い男性グループらしく、人のことを言えないが、深夜2時に入店するなんて真っ当な職業では無いことは私が保証する。
改めて声を落としてコソコソと会話を続けていたはずなのに、ふと気づけば睡眠不足のカラダにアルコールが染み入り、アッという間に泥酔だ。そしてストッパーになるべき須賀さんまでも酔っていた。いつもの寝落ちではなく、更に進化を遂げた彼は、大声で会話するというスキルを発動したのである。
「性欲がどんどん強くなっていくって?!」
「そおなのよッ。彼の顔を見ると、最早パブロフの犬状態で、すぐにヤリたくなるの!」
「いいじゃん。俺はそういうエロい子、大好きだけどな!」
「私はそういう女が余り好きじゃなかったはずなのに、残念ながら自分がソレになっちゃった!」
「あの男、相当ウマイんだなあ」
「1人しか知らないからよく分かんないけど、テクニシャンなのは確かだよ」
明け透けに悩みを相談して。
いや、明確な答えは出なかったので単に愚痴を聞いて貰っただけという感じだが、とにかく須賀さんと私が帰宅モードに入り、会計をしようとレジに向かうと…ドヤドヤと隣室にいた若者達が姿を見せ、その姿を見て驚きの余り腰が砕けそうになる。
「うわっ、ええっ、まさか隣りの部屋にいたのって、華ちゃん??」
「ご、郷田…さん…」
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