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21.母・オンステージ
しおりを挟むさあ、これから良い話をしますよ!
…と言わんばかりに母は私に向かって語り出す。
トシを取ると説教臭くなるって本当なんだな。
私の記憶の中の母は、無計画で何も考えずに生きている人間の代表格だったのだが、それが今では、娘に向かってこんな真面目なことも話せるようになったのかという衝撃の方が大きくて、正直、話の内容は殆ど耳に入って来なかった。
…が、内容を要約すると、こんな感じだろうか。
~序盤~
貝合わせの話。それは平安時代に流行した遊びで、ハマグリの貝殻を左と右でぶっちぎったモノを複数ゴチャ混ぜにし、その中から合うものを探し出すというルールなのだとか。当たり前だが、左右ピッタリ合う貝はこの世に1つしか存在しないのだ。
「恋愛は相性の問題だから、恨むとすれば男性全体では無くて郷田さん個人を恨みなさい。実はお母さんもね、『男なんか!』と思った時期が有ったのよ。でも、よくよく考えてみたら、自分自身も相手に寄って態度を変えていたことに気付いたワケ。無条件に優しく接してしまう男性と、つい冷たくあしらってしまう男性。その違いは、男前だったり、そうじゃなくても何となく憎めなかったり、どことなく雰囲気が好きだったり…もう、生まれついての感覚としか言い様が無いのだけども。
──恋愛はね、貝合わせと同じなの。
とにかく、そうやって郷田さんが華と付き合っても心を入れ替えなかったのだとすれば、華がそう思わせる相手では無かった…つまり、貝合わせ失敗ってことだとお母さんは思うのよ」
~中盤~
ノートに書いてあったらしい、誰かの名言をひたすら読み上げられる。そして、いちいち目をキラキラさせて『どう?心に染みるでしょ』的なドヤ顔をされたので、適当に相槌を打っておいた。でもまあ、悔しいことに幾つか『へえ~、ほお~』と思ってしまったのは内緒だ。
~終盤~
現在の勤務先の社長について。元々は母の幼馴染だったらしく、地味でパッとしない男だと思っていたのが、ここ最近はその評価が変わってきているそうだ。
「向こうもね~、奥さんの浮気で離婚してるのよ。真面目なだけで全然そういう対象にならないと思っていたんだけど…なんか、頼れるんだなあ。あのさ、この年齢になると不誠実な男の話が星の数ほど耳に入って来るの。妻子を捨てて他の女に走るなんて、最早ありふれた話という感じなのね。でも、彼だけは大丈夫だと信じられる。バカみたいに真面目でなんかそこが可愛いな…って。ずっと私に『そんな旦那と別れて俺を選べ』と言ってくれてて、こんなお母さんをね、そりゃあ大切にしてくれるの。
勿論、離婚していない身で付き合うワケにはいかなかったし、だったらあんな男と離婚すればいいだけだって分かってはいたんだけど、な~んか踏ん切りつかなくて。その調子でずっとウダウダしてたから、これでやっと彼と向き合えるわ。あ、ちなみにその社長って、お母さんの実家のお隣さんで、華は覚えてるかなあ…松原さんっていうんだけど」
そ、壮ちゃんのお父さん??
取り敢えず、母の話はひと段落した様子なので、私のターンに入らせて頂く。
「知ってるよ、しかも息子さんの方とは同じ会社でよく一緒にご飯を食べたりしてるし。嘘ッ!オバさんが浮気して離婚したの??壮ちゃん、そんなこと一言も言って無かったよ?!」
「あそこの家はウチと逆で奥さんが美人だったからねえ。同窓会は鬼門なのよ、そこで元カレと再会してやけぼっくいに火が付いちゃったとかでさ。確か壮亮くんが高校に入った頃にはもう、離婚してたはずなんだけど」
し、知らなかった。
確かその頃ってウチの両親が完全別居に突入し、母の実家に身を寄せていたものの、その母がお祖父ちゃんと驚くほど反りが合わなくて、結局、遠くのアパートに引っ越したはずなのだが。…そうか、壮ちゃんのお父さんかあ…。
「うふふ、お母さんが松原社長と再婚したら、華は壮亮くんと兄妹になっちゃうのね。あの子、まだ独身だって言うし、何なら付き合ってしまえば?」
「なっ、ばっ、なに言ってんのよ、お母さん!!」
「だってあの子、外見は美人な母親似なのに、中身は父親に似て真面目だと聞いたもの。そういうのって華も嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いじゃないけど、でも…って、いや、その前に私には郷田さんと別れるという大仕事が待ってるからッ!」
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