たぶんきっと大丈夫

ももくり

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22.新たなる恋?

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 ──理想とはいったい、何ぞや?


 私は長年『理想の女』だと評されて生きてきたが、肝心の彼氏はなかなか出来なかった。そして今、目の前にいるこの人も、幼い頃には周囲から『理想の息子』と褒めそやされ、その父親も『理想の旦那さん』などと呼ばれていたにも関わらず、母であり妻でもあったその女性は他の男性を選んで去って行ったのである。

 つまり、理想などアテにならないのだ。

 


 さてさて。
 私は今、会社近くの居酒屋にいる。

 実家という名の母のアパートで夜を明かし、一旦自宅マンションに戻って2時間しか寝ていないのだが、日頃の鍛錬がモノを言うというか、元々平均睡眠時間が少ないので大丈夫なのである。

 ここまでの経緯を説明しよう。

 今日こそは郷田さんに別れを告げようと決心していた私だったが、いつもと違う時間に出社したせいでエレベーターを待っていた壮ちゃんと偶然一緒になり、互いの親がそういう仲だと知っていたのかと訊ねたところ、仕事終わりに食事でもしながらゆっくり話そうよ…などと誘われてしまった次第だ。

 人生の一大事が一気に2つも訪れたので、取り敢えずこちらを優先してみたのだが、一大事は1つしか無いから一大事なワケで、2つ有る場合は何と表現すればいいのか皆目見当もつかない。でもまあ、どこかに発表するとかでは無いので、取り敢えず『一大事』のままとしておこう(※華さんは寝不足のため頭の中がウネウネしています)。


「ごめん、実は知ってた。…その、父さんから再婚の意思があると言われたのが確か3年前だったかな?それから華がウチの会社に転職してきたもんでさ、最初は『今のうちに仲良くなっておこう』という下心を抱いて近づいたんだ」
「そ…う、だったの。じゃあ、壮ちゃんは再婚に賛成なんだね」

「うん、そうだ。…ウチの母親って『好きな男と2人きりで新生活を始めたい』とか言って、俺を父さんに押し付けて出て行ったのな。離婚したのは俺が中学1年の頃でさ、当時はウチの父親も会社を興したばかりだったから…ほら、ウチって爺さん婆さんが食堂やってて、夜遅くまでバリバリ働いていただろ?とにかくめちゃくちゃ忙しかったと思う。自分のことはなるべく自分でする様にしてたけど、父さんの苦労は計り知れないよ。だからこそ、幸せになって欲しい」
「中1?えっ、じゃあ私は小6だったよね?全然そんなの気付かなかったんだけど…」

「そりゃそうさ、必死で隠してたからな。でもまあ、近所の人とかにはスグにバレてたけど。華は子供だったから周囲が気遣ってそういう話を耳に入れない様にしてたんじゃないかな?」
「はー、そっか、そうかもね」

 …と、いうことは。このまま順調に行けば私は壮ちゃんと義兄妹になるのか。でもまあ、思春期真っ盛りの男女が同居するならまだしも、28歳の男と27歳の女が別々に暮らすだけだしねえ…。

 何も変わらないよなあ。

「華、お前いま『何も変わらない』とか思っただろ?ダメだ、よく考えろよ」
「考えるって、何を?」

 シメのおにぎりに勢いよくカブリつきながら、私は首を傾げた。

「いや、えっと、俺…、結構お前を気に入ってて」
「ありゃ、そうにゃの?嬉しい、ふぁりがとう」

 パリパリの海苔が上手く噛み切れず、言葉が不明瞭になってしまったが、壮ちゃんは心が広いので怒ったりしない。笑顔だ、それも極上の笑顔。いやあ、さすが営業部の貴公子と呼ばれるだけあって、素晴らしい顔面だよねえ。

 よッ!イケメン!!

「これじゃ伝わらないか。コホン…じゃあズバリ言うぞ、俺はお前が好きだ。出来れば付き合って欲しいと思ってる」
「ふあッ?!」

 驚き過ぎて、手にしていたおにぎりを豪快に握り潰してしまったんですけど!!
 
 
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