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23.残念な鉢合わせ
しおりを挟む「壮ちゃん!私、こう見えて『好き』とか言われたことが数えるほどしか無いの。だから参考に教えて欲しいんだ。好きな部分ってやっぱり、愛くるしいと評判のこの顔?それとも豊満なこの胸かしら?」
この反応が変だということは、
自分でもよく分かっている。
だがしかし、過去に受けた交際の申込みは軽いものが多く、こうして真剣に好きだと言われたことはあまり無かった気がする。だから今こそ、己の利点を知るチャンスではなかろうか。
「悪いけど俺の好みは落ち着いた知的美人だから、正直、華の顔はタイプじゃない。それに胸も…まあ、身体的な部分はどうにも出来ないから、批判しているつもりは無いということを前提に聞いて欲しいんだけど、俺はな、どちらかと言うともっと控え目な方が有り難い。だってほら、一緒にいると『アイツ、おっぱいが目当てで付き合ってるんだな』と勝手に邪推されてしまうだろう?純粋に好きになった相手にも関わらず、周囲からそう誤解されるのは非常に心外だ」
な、なんと。
最大の武器である、顔と胸が価値ナシですと?
ではいったいどこを気に入ったのかと目で問うと、壮ちゃんは笑顔で続けた。
「俺さあ、父さんが片親で育てた息子のことで負い目を感じない様にと、ひたすら真面目な人生を送ってきたんだ。それは現在進行形で、自分でも気持ち悪いくらい品行方正な生活を送っているワケ。そこに登場したのが、よく似た環境で育ってきたはずの華だ。…お前さあ、パッと見は普通なのに、言動とかもうハチャメチャだよな」
「どっ、どこが?!私、自分ではとても普通だと思ってるんだけどっ」
そんな風に目を見開かないで欲しい。
驚き過ぎだよッ。
「俺の『普通』とお前の『普通』に、大きなズレが生じているみたいだな」
「失礼ねっ、そんなこと言って、それでも本当に私のことが好きなの?!」
ハハッと笑いながら壮ちゃんは頷いた。
「うん、好きだ。…2人きりで飲んでたのに、どっかのオッサンと意気投合して俺を放っておく女なんて初めてだし。そのオッサンが実は大手飲料メーカーの重役で、いつの間にか商談に繋げて俺の売上に貢献してくれるとかさ、お前、有能かよ!」
「ああ、そんなこともあったっけねえ…」
「こら、遠い目をするな。あとさ、『究極の天ぷらを作る』とか言い出して、激務なクセして1週間ほど毎日天ぷら揚げてたよな。最後の最後にお裾分けしてくれたけど、あれ、死ぬほど美味かった。なのに、暫くしてまた作ってくれと頼んだら、『同じ物は二度と作れない』って、お前、無能かよ!」
「いや、あれはグレープシードオイルにごま油をブレンドしたんだけど、割合を忘れちゃって…」
この人はそんなことをイチイチ覚えているのか。
そう思うとジワジワと嬉しさが込み上げてくる。
「華はいつでも楽しそうなんだよなあ。それを見ているこっちも幸せな気分になる。…とにかく、一緒にいて心地良い女ってのは、探してもなかなか見つからないから。あと、もしかして遺伝なのかもしれない。父さんが華の母親にベタ惚れしているみたいに、その息子である俺も、その娘である華に惹かれる様になってるんじゃないかな」
「…ふむふむ」
だってっ、他に何と答えればいいって言うの?!
こんな百点満点の好青年が、爽やか笑顔で私を褒めてくださっているんだよ?!社内でもこの人、大人気だからね?!ただ廊下を歩いているだけで女性社員がキャアキャア騒いじゃうの!!ほんと、有り難すぎて、申し訳ないほどだよ…。
「華?なんだよ急にトーンダウンしちゃって」
「なんか、えっと、…なんでも無い」
伝えてあるはずなんだけどな、郷田さんと付き合ってること。別れるつもりなのはまだ知らないだろうけど。それでもこんなに熱く想いを語っちゃうのは、本気で奪い取る覚悟でいるのかも。
カッコイイ…。
男気を見せられた感じだわ…。
そんなのギュンってきちゃうしッ。
そう、キュンじゃなくてギュンね!
胸を押さえながら何気なく視線を遠くに移すと、見慣れた顔がそこに有った。
「げっ」
奇声を発してしまったことは許して欲しい。だって、でも、そうでしょ?まさかこんな場所で郷田さんと鉢合わせするとは、思いもしないじゃないですかッ!!
応援ありがとうございます!
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