たぶんきっと大丈夫

ももくり

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35.あの人に相談してみた

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 まあ、世の中そんなに上手くいくはずないし。

 しかし、職場の同僚とそういう関係になると…何と言うかスゴクやり難い。いえ、そっち方面の『やり』じゃなくて、仕事関係の『やり』ね。

 だって、今まで普通に出来ていたことが、
 いちいちエロに繋がってしまうんだよ?!

「でさ、今日中に動作確認して…って、聞いてるのか華?」
「聞いてませんでした」

 自席に座って端末画面を指差しながら、色々と説明してくださる須賀さんには申し訳ありませんがね。ワイシャツの袖をめくられたりなんかしたら、その肘に浮いた血管に何故かドキリとしちゃうし、私の回答に対して顰めた目元が、絶頂時の貴方様の顔を連想させられ悶死しそうです。

 くっそ、こんな劣情に振り回されて、
 仕事に集中出来ない自分が嫌だ!!

 っていうか、世の中のオフィスラブしているカップル達は、いったいどうやってこの煩悩を抑えているのだろうか?裸でセックスした相手が目の前にいたら、どうしたって妄想しちゃうよね?いや、妄想じゃなくてこの場合は反芻か。たぶん私が非処女になったばかりの未熟者だから、こんな風に惑うに違いない。

 でも、だけど、どうすればいいの?!

 目の前に須賀さんがいるだけで、あちこち疼くんですけどッ。真剣に仕事の話をしていても、たびたび思考がエロの世界を旅してしまうんですけどッ。






「たびたび思考がたびして…って、これダジャレじゃないからね」
「あー、うん…」

「何よ、その気の無い返事」
「華ちゃん、俺を呼び出しておいて、大事な話ってコレ?」

「そう、これ」
「よく考えてみなよ、ウチの店、男の従業員しかいないからオフィスラブなんか最も縁遠いぞ」

 生意気な。
 ニョロ野のクセに反論してくるなんて。

 そう、迷える子羊と化した私は、須賀さんとの関係を誰かに相談したくなったのである。…が、残念ながら職場の人に言えるはずも無く、壮ちゃんも勿論除外した。となると残るのは社外でしかも恋愛対象外の人間…すなわち、ニョロ野以外にはいなかったのである。

 今迄は郷田さんに見つかることを恐れて電話でしか交流していなかったが、彼と別れたことに寄りこうして対面で相談することも可能となったワケだ。ていうか、日曜の朝イチに電話して即OKしてくれるって、どんだけヒマなんだよ、この男(※華さんは相変わらずニョロ野に対して辛辣です)。

「だ~か~ら~、ニョロ野の周辺でオフィスラブしている人間はいないの?アンタ接客業なんでしょ?お客様と毎日お喋りしてたら恋バナなんて盛沢山に聞けるでしょうがッ」
「それは偏見だよ!接客業だからってそんなにお客様とプライベートな話とかしないし。一線引いて接するのが普通だからねッ」

 それもそうかと思ったが、このやり取りが楽しかったので尚も責め続けた。

「どうせ相変わらず適当な女と遊びまくってるんでしょ?ダメだよ、そういうの。そんなことしてるから本物の恋愛が遠ざかっちゃうんだよ」
「…うるさいよ。そう言う華ちゃんだって、その須賀って男のセフレになってるじゃん」

 その言葉がグサリと胸に突き刺さり、体内を駆け巡る。そして最後には目から透明な液体となって流れ出た。

「うっ…く、ひっ、く」
「ええっ?!さっきまで笑ってたのに、泣かないでよ、華ちゃん!」

「…す、好きでセフレになってるんじゃない…もん」
「お、俺が悪かった!ごめん、本当にごめん!」

 昼下がりのお洒落なカフェレストランで、泣きじゃくる私と必死に慰めるニョロ野。何故かこの男の前では気を許してしまうことを自覚していたが、まさか泣くとまでは思っていなかった。その事実に衝撃を受けながらも紙ナプキンで涙を拭いていると、ニョロ野が更に驚く言葉を発するのだ。

「あのさあ、俺、華ちゃんのことがずっと好きで。でも人の女には手を出さない主義だから我慢してたんだけど、それがフリーになっただろ?もしかしてチャンスかもと思って今日は予定全部キャンセルして飛んで来たのに、他の男との話を聞かされて。それで意地悪したくなっちゃったんだ。

 ねえ、そんな男のことはスッパリ諦めて、俺と付き合わない?」
 
 
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