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36.気付けば…
しおりを挟む大丈夫なのか、ニョロ野。
「どう考えても私を好きになる要素が無いと思うんだけど」
「えっ、そうかな?」
だって、毎晩グチグチと他の男との恋愛相談の電話を掛ける様な迷惑女だよ?!しかも『女子大生とシッポリしてる最中だ』とか言われても全然動じず、ノンストップで喋り続けた時だって有る。実際にニョロ野と会ったのは数えるほどしか無かったはずだし、ほぼほぼ電話だけのやり取りでどうして好きになれるのか。
そう訴えてみたところ、目の前のその人は淡々と答え始めた。
「そりゃあ最初は戸惑ったよ。正直、恋愛相談は口実で本当は俺のことを狙ってるんじゃないかと邪推したことも有る。だけど、毎晩話していくうちに『ああ、このコは嘘が吐けないコなんだな』と思う様になったんだ。そうすると、俺にだけ気を許してくれていることが嬉しくなって来てね。今まで、女とは上辺だけの付き合いしかしていなかったから、本音で付き合える華ちゃんがメッチャ貴重でさ…」
「はあ~、そうですか~」
間の抜けた返事だとは思ったが、他に何と言えば良いのだ?!
ニョロ野がはにかんでいる。
ニョロ野が微笑んでいる。
ニョロ野がときめいている。
ニョロ野が…って、この辺りで勘弁してやろう。
「だから、俺と付き合ってみないか?華ちゃんが彼女になってくれたら、もうフラフラしない。華ちゃん一筋で頑張るからさ」
「え、あ…」
ブブブブ。
ナイスタイミングでテーブル上に置いてあったスマホが震えたので、動揺していた私は画面表示も確認せずに応答マークをタップした。
「もしもし、華?」
「はい」
聞き覚えの有る、男性の声。誰だっけ?須賀さんで無いのは確かだし、壮ちゃんでも無い。画面で確認したいところだが、耳を離すと相手の言葉が聞こえなくなってしまう。それは失礼だろうと考え、必死で記憶の糸を手繰り寄せてみる。
「ごめん、今更…電話なんかされても迷惑だろうと思ったんだけど」
「……」
この時点で相手が誰なのか分かってしまった。そうか、そうだよ、この柔らかい話し方は紛うことなきあの人の…。
「あれから繰り返し華の言葉を思い出して、それで、死ぬほど後悔した。今まで付き合った女達は皆んな、俺のことなんか本気じゃなくて、だから俺も本気になるもんかって…そう自分に言い聞かせていたんだ。なのに、華は違った。俺のこと、本気で好きになってくれたし、だから俺も本気になっていいんじゃないかなって」
「…えっと、それはつまり?」
通話相手はその後も一方的に自分の想いだけを告げ、それでも伝え足りないと言い残して電話を切った。ポカンとする私に、目の前のニョロ野が不審気な表情を浮かべながら訊ねてくる。
「顔が険しいけど、華ちゃん大丈夫?」
「う、うん。なんか…うん…」
「良かったら俺が話を聞いてあげるよ。どんな用件だったんだい?」
「ご、郷田さんが、私とヨリを戻したいって」
「は?!」
「もう浮気しませんからって」
「嘘だろ?!」
「はあ、ビックリした」
「んで、どうなったの?」
「やっぱり直接話したいから、今からこの店に来ますって」
ブブブブ。
このタイミングで再びスマホが震え、今度は頑張って画面表示を確認すると、そこにはいま話題のあの人の名が。
「ごめん、今度は須賀さんから電話だ」
「あ~、なんか千客万来って感じだね」
この電話に応答したところ、
何故か須賀さんもこの店に来ると言い出して。
…気付けば私は、男性3人に囲まれる逆ハーレム状態となっていた。
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