たぶんきっと大丈夫

ももくり

文字の大きさ
36 / 40

37.なんなんなんだ

しおりを挟む
 
 
 なんなんなんだ、この和やかな雰囲気は(※華さんは動揺の余り『なん』を多めに呟いています)。

「塩麹に一晩漬けてローズマリーと一緒に焼く」
「あ、ソレ簡単そう。やってみる」
「さすが郷田さん、女受けしそうなレシピはお手の物ですね」

 何の話をしているかと申しますと、ニョロ野が何故か骨付きの鴨肉を貰ったのだと。いやいや、まず人生に於いて生肉を貰うなんてほぼ無いし、しかもそれが豚でも牛でもなく鴨って!!

 その調理法について悩んでいると彼が呟いたところ、私を差し置いて郷田さんが塩麹云々と即答し、喝采を浴びている最中なのだ。く、悔しくなんてないやい。だって私は豚と鶏がメインでたまに牛を購入し、それ以外の肉とは殆ど接点が無いのだから。

 いや、待てよ。

 ここでもし鴨が豚であったと仮定しよう。その場合、私は即答出来るのか?生姜焼き…以外に浮かばない。ほら、アレだよ、クイズ番組の回答者もよく言うじゃないの、『早く答えなければと焦ることで思考が停止してしまう』と。後でゆっくり考えたらきっと山のように答えが出てくるんだよねえ。

 …って落ち着け、私。

 何度も言うけど、人生に於いて生肉を貰うというシチュエーションに陥ること自体、まず無いから(※華さん、引っ掛かるのはその部分ですか?)。でも、もしかしてということも有るし、イザという時に備えて、豚と牛と鶏のレシピを各3つずつ考えておこう。まずは鶏からだな。

 唐揚げ、油淋鶏、竜田揚げ

「へ?大丈夫か、華」
「え、あっ、大丈夫じゃない、3つとも似た感じになっちゃったわ!」

 どうやら脳内の声が漏れ出してしまったらしく、素早く反応した須賀さんにこれまた反射的に答えたところ、思いっきり不審げな表情をされてしまった。いいから、もう放っておいて。それよりもアンタ達、ここまで来ていったい何をしてんのよ?!

「ところで今日はどうしてこの面子で集まっていたんですか?熊野さん…は、華と仲がいいからまあ分かるけど、郷田さんはもう無関係のはずですよね」

 鴨肉レシピの話題からいきなり核心に触れちゃうなんて、さすが須賀さん。

「ああ、お恥ずかしい話なんだけど、実は…ヨリを戻したくてさ。その為にこうして会いに来たんだ」

 その反応を確かめたくて、隣に座る須賀さんの表情をチラリと横目で見たところ、これが驚くほど普通。まあ、そりゃそうだよな。この人にとって私は、単なるセフレ…それに同僚という付加価値が加わった程度の、いや、むしろそっちの方がメインだろっていう感じの存在だし。

 なんてことを鬱々と考えていたら、ニョロ野が郷田さんの両肩を掴んで真剣な顔でこう言った。

「ごめん実は俺も…ついさっき華ちゃんに告ったんだ。その…『付き合って欲しい』って。悪いが今回だけは本気だから、いくらジェイでも譲れない」

 ニョロ野、私ね…『告る』って言い方が大嫌いなの。アンタちょいちょいそうやって、若者用語を使おうとして、それが逆に古臭さを漂わせちゃうわよね?!そういうところ、直した方がいいと思う…とは、さすがにこの場面では言えないので、グッと下唇を噛んで我慢した。

「なっ…!熊野、お前…いつの間に華のことをッ。まさかもう手を出したりしてないよな?!華はな、こう見えて俺しか知らない純真な女なんだぞ!」
「は?!何だよ、ソレ。まるで華ちゃんが所有物みたいな言い草だな。ていうかさ、自分はアチコチの女と遊びまくってるクセに、華ちゃんだけ貞淑でいろと言うのは勝手すぎるだろ」

 クマノって…ああ、ニョロ野のことか!
 ジェイは…郷田さんのことだね!

 私が脳内で寄り道をしているうちに、郷田さんとニョロ野の会話はどんどん白熱していく。

「煩い!それを言うなら熊野だって俺と同じくらい女を食いまくっているクセに、清廉潔白でござい…みたいな顔すんな!」
「おいっ、俺の新しい恋を邪魔しないでくれ!いいじゃないか、過去は過去!これから心を入れ替えて頑張るんだから、そのリスタートを初っ端から躓かせんな!」

「あのな、よく聞け。華は俺を失い、そのポッカリと空いた心の隙間を埋める為だけに熊野を利用したんだ。だからこうして俺が復縁要請すれば、それでもうお前の役目は終わるんだよ」
「なっ、そんなはず無いだろ!華ちゃんは誰よりもこの俺に、心を開いてくれているんだッ」

 ──なんだこの思い込みの激しい男共は。

 視線だけで須賀さんにヘルプを求めると、笑顔で頷かれたのでホッとしていたのに。どうやら思わぬ伏兵がここに登場したみたいだ。

 その人はハキハキとこう言った。

「華は俺のモノなんで、誰にも渡しません!」
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

処理中です...