ハニィアタック

ももくり

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[相馬side ~ドンマイ相馬さん~]



 俺の心のヨメ。
 満里奈。

 これからは、こっそり
 マリニャンと呼ぶことにしよう…。





「…なんかいいこと有ったんッスか?最近の相馬さん、スゲエ楽しそうだし」

 隣席の後輩・関根が俺に部署内周知の回覧を渡しながら、言う。い、いかん。昨夜のマリニャンを思いしてつい、顔がニヤけていた。表情筋を総動員させ、いつものクールな俺に戻す。

「…いや、別に」
「なーんてね。実は知ってるんッスよ、相馬さんがゴージャス美人と遊び歩いてるって。チラッと見ただけですけど、金の掛かりそうな女でしたね」

 バカ者め!マリニャンほど清貧な女はいないぞ。俺も最初は、高層階のすげえマンションに住んでいると思ってたがな。ブランドものに囲まれて買い物に明け暮れ、外食三昧の派手な生活を送っているだろうと、勝手にな。

 …それがだぞ。

 極小ワンルームで質素に暮らし、しかも節約手料理が死ぬほど美味いなんて。オクラの入ってた緑色のアミでチビた石鹸を固めて使ってる姿を見たら、思わず眩暈がしたね。

 イッツ・キュート!
 なんていじらしいんだ。

 さすが、俺の心のヨメ。
 マリニャン、最高!!

「…あ、ほら。やっぱりこっち見てる。絶対に太田さんって相馬さんのことを狙ってますよ。いいなあ、チクショウ。あんなに清楚で、しかも美人。俺だったら、ああいう結婚を意識出来そうな堅実な女性を選ぶけどなあ」

 アホ!
 あの太田って女、田崎課長と不倫してんだよ。
 
 見た目に騙されるな。ああいう女の方がヤバイんだって。素早く回覧に日付印を押し、次に渡すため席を立つ。

「あー、でも相馬さん。俺、あのゴージャスさんなら奴隷になってもいいッス。飽きたら是非、譲ってください」

 …コロス。

 大切なマリニャン姫を、なぜ、お前ごときに譲らねばならぬのだ。そう思ったが、言うのも無駄なので、無視を決め込んだ。可哀想なマリニャン。いつもあの外見から、こんな誤解を受けているのだろう。中身は地味なのに。外出嫌いで、むしろ引き籠りなのに。大丈夫、俺が外敵から守るから。今度の土日も一緒に読書しよう。

 で、飽きたらシッポリと…ぐふ、ぐふふ。

「な、なんだよ相馬、気色悪いなお前」
「うるさい。ほら、回覧だぞ」

 石井は唯一、プライベートでも絡む同期だ。マリニャンと会う前は週3でコイツと晩飯を食べていた。

「なあ、お前、俺には紹介しないつもりか?」
「何を?」

「ゴージャス美人。関根が言いふらしてるぞ」
「んー。石井だしなあ。石井だからなあ。しょうがない、会わせてあげよっかなあ」

 そうだな、コイツは信頼できる友人だ。マリニャンを紹介する価値はある。ていうか、マリニャンの良さを知って欲しい。

 俺も友人を紹介するんだから、彼女の方から友人を紹介したいと言われれば断れない。…そんな考えでOKした大阪一泊旅行。

 まさか、あんな事件が起きるとは…。






 ………
 まあ、だいたいの概要は理解した。
 要は披露宴のサクラだな。

 ホテル側の手違いでマリニャンと別テーブルになるというアクシデントは起きたものの、彼女の友人に好印象を与えるため平気なフリをした。

 ちぇ。

 マリニャンの隣りの男、同僚なんだってな。頬を寄せ合って、妙に仲イイじゃないか。念のため羽純さんに訊いてみる。

「あの2人って、単なる同僚ですよね?」
「…え、は、はい」

 ん?その間は何だ。不安になり、羽純さんの彼氏である沢田さんに視線を移してみたところ、そりゃもう意味深な笑顔で。

「あの男性、安住さんというんですけどね。満里奈さん、彼のコトを気に入ってたみたいですよ」
「ちょ、沢田さん、余計なこと言っちゃダメ!」

 羽純さんは必死で制するが、彼はペラペラ教えてくれる。

「なにバカなことを。いいか、羽純。男ってのはな、好きな女のことを何でも知りたいんだ。コソコソ隠されるのは一番嫌なんだよ。ねえ、相馬さん?ちなみに以前、安住さんとその友人、満里奈さんとウチの羽純で飲み会をしていましてね。満里奈さんは彼の友人に迫られたけれど、特に進展は無かったみたいですよ」


 俺のマリニャンが… 
 あの男に惚れていた……。

 軽くショックを受け、食い入るように2人を観察する。ああ、そうさ。ジェラシーってやつだよ。

 悲しい男のサガでマリニャンにも妬いて欲しくて、意味なく隣席の女と仲良くしてみる。いや、全然タイプじゃないけどね。このコ、自分のことばっか喋るし。それに金太郎飴みたく表情のパターンを決めているらしくて、なんだかとっても不自然だ。

 あー、クソ、面白くない。
 あ、マリニャンがこっち見た。

「あはは、そうなんだ?」
「うふふ、そうなんですよお」

 …何がそうなんだろう。
 もう、話は見えないが必死で楽しそうなフリを続けたりして。

「じゃあ今晩、相馬さんの部屋にお邪魔しますよォ」

 それは本当に邪魔だな。

 そう思ったけど、そのままズバリ言うのはちと棘があると思い、しばし沈黙。あ、嘘、嘘。マリニャンが連れて行かれる!

「相馬さん、じゃあ部屋番号を教えてくれませんかあ?うふっ」

 うるさい黙れ、隣りの女。

 …マ、マリニャン。
 おい、どこへ行くんだ、マリニャン。

「あれ、相馬さん。どうしました?」

 ここで、二次会の確認のため離席していた羽純さんカップルが戻って来た。なので、慌てて事情を説明。

「マリニ…じゃなくて満里奈さん、泥酔してて。意識が無かったみたいなんですよ。安住さんの部屋番号を調べて貰えませんか?」
「ねえ、ねえってば相馬さん。マリナって誰?あん、もう無視しないでってば」

 隣の女がとにかくウザイので、ギンと睨んで黙らせる。そして沢田さんの素晴らしい行動力のお陰で、ほどなく安住さんの部屋番号が判明した。女社長の秘書に事情を説明したところ、すぐに調べてくれたそうだ。

「703号室!急いで、相馬さん」

 慌てて走り出す。エレベーターの中でも落ち着かず、足踏みして。チャイムを連打、連打、連打!!ようやくドアが開いて安住とやらに事情を説明する。

「俺は長峰満里奈の彼氏です。今夜は一緒に宿泊予定でしたが、泥酔したため誤ってこちらに来てしまったようで…」

出来るだけ冷静に落ち着いて話す。しかし、敵もさるもの。

「彼氏という証拠は有りますか?何か関係を証明するものが有るのでしょうか?」

 チッ。

 だから、思わず叫んだ。

「満里奈さん?いる?!満里奈さん!」

 彼女がか細い声でそれに答えたので、安住を押しのけ、走り寄って彼女を抱き締めた。

 ああ、本当に危なっかしいんだから。

 俺が守らないと。
 この人は、俺がいないとダメなんだ。

 そう実感していたら…驚きの事実が判明。何故かマリニャンは俺とあのウザイ女の仲を誤解して、自分が邪魔者なんだと思い込み、自ら安住の部屋に向かったのだと。

「…は?」

 結婚前提で付き合って欲しいって、
 俺、言ったハズですけど。


 なんで、そうなる??

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