clean freak に恋をして

ももくり

文字の大きさ
14 / 22

14.切ない気持ち

しおりを挟む
 
 
 はァ…と弱々しく相槌を打つ私に、豊さんは尚も続ける。
 
「そんなことよりも、肝心なのは当人同士の気持ちだ。奈緒さんは…その、本当に俺が…、めっ、面倒では無いのか?」
 
 いやいや、ココは『好きなのか?』と訊いてくるべき場面でしょうが。呆れながらも私は答えるのだ。
 
「ええ、全然。こちらからも質問ですが、豊さんは私のことを恋愛対象として好きなんですか?」
「うん」
 
 どうしてだろうか。期待通りの返事のはずが、妙に物足りない。
 
「何がいけないのかしら?どことなく信憑性に欠けると言うか、なんか薄っぺらいと言うか…」
「じゃあ、『はい』にしとくか?」
 
「そ、そうじゃないんですよっ。もっと切なげな表情で言ってみてください」
「切なげってどんな表情だよ」
 
「そんなもん自分で考えてくださいよ」
「考えても分からないから言っているんだろ」
 
 朝の貴重な時間を、こんなことで消費する我ら。しかし今さら後には引けないのだ。
 
「オ、オシッコを我慢するみたいな表情です」
「俺、排泄行為を我慢したこと無いんだけど」
 
「わあ、それは凄いですね!」
「ていうか、何の話だったっけ、コレ」
 
「……」
「……」
 
 恋愛物語の始まりとして誰もが美しく、より印象的にしようとするその部分を。どうしてオシッコ我慢の話で終わったのか。なんだかもう、この男を相手にすると何をどうすれば良いのか分からなくなる。
 
「そう言えば、私の好きな部分を書いた原稿用紙をまだ貰っていませんが」
「う…ああ。あれは深夜に書いたポエムの如く、読み直すと恥ずかしくて死にそうになったので、捨ててしまったよ」
 
「そうですか。非常に残念です」
「期待させて申し訳ない」
 
「えっと、そう言えば受付の方々が秘書課との交流目的で飲み会を開いて欲しいと」
「受付と?」
 
「交流は建前で、本当の目的は豊さんですよ。実は受付の方々に、独身のイケメン秘書室長と仲良くなるため一席設けてくれと言われました」
「へえ」
 
「嫌なら断りますけど。どうしますか?」
「…別にイヤでは無い。今週金曜あたりで打診しておいてくれ」
 
 ふうん、そっかあ…と思った。この人の『好き』はやはりその程度なのだ。私に結婚を申し込んでおきながら、
他の綺麗どころから誘われればこんな風にホイホイ乗っかるのである。
 
「結構、節操無いんですね…」
「は?」
 
 その耳に届かないほど小声のつもりだったのに、無音の空間では異常なほど大きく響いてしまう。
 
「いえ、何でも無いです」
「奈緒さんが安請け合いしてくるからだろう?俺だって嫌だが仕方ないじゃないか」
 
「…言い方」
「何がだよ」
 
「もっと優しく言えないんですか?!」
「オシッコ我慢してる女に言われたくないよ」
 
「その話、今は関係無いでしょ?!」
「有るよ!お前いま、そういう顔しているぞ」
 
 そっか…。
 私、切ないんだ。
 
 本当はそんな出会い目的の飲み会、スッキリキッパリ断って欲しかったのに即OKされて、傷ついているんだ…。厄介なのは豊さんだけじゃなくて、私も相当だ。自分で話を持ってきておきながら、本当は断って欲しかっただなんて。
 
 そんなこんなで結局、飲み会は金曜で決定した。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

憧れの小説作家は取引先のマネージャーだった

七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。 その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。 恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──

カラフル

凛子
恋愛
いつも笑顔の同期のあいつ。

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。 彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。 クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。 悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

着てはもらえぬセーターを ―待ちぼうけ令嬢の複雑な編み図―

夢窓(ゆめまど)
恋愛
三年前。 ダイアナは恋人に糸を選ばせ、「帰ったらこのセーターを着てね」と笑って見送った。 けれど彼は帰らなかった。戦場へ行ったまま、便りもなく、消息も絶えたまま。 それでもダイアナは、編みかけのセーターをほどかず、ほどけず、少しずつ編み続ける。 待つことだけが恋だと思っていた――あの人に着てもらえる日が来ると信じて。 でも気づいてしまった。 編みかけの袖を眺めながら、彼女の手元に残ったのは、別の誰かの温もりであることを。 セーターって、 編み始めに糸を買った男と、 完成したときにもらう男が、違っていてもいいじゃない? “待ちぼうけ令嬢”と呼ばれた一人の娘が、 恋と人生の編み目をほぐしながら、自分の素直な心を編んでいく物語。 。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...