かりそめマリッジ

ももくり

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<零>

その9

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「し、失礼なことを言うな!」
「だって事実だもの。お金持ちなのも、素敵なお店に通えるのも、高級品を身に着けられるのも全てお父様のお陰。それを勘違いして、いかにも自分の手柄っぽく自慢出来ちゃうのはある意味尊敬に値するわ」

 これでもかなり抑えたつもりだ。それに、2人きりならもっと辛辣なことを言えたはずなのに。

 チェッ、ざんねん。

「そんなことは無いッ!俺は凄くモテるんだ!!いつも女の方からカッコイイとかイケメンだと騒いで言い寄ってくるからなッ」
「うーん、イケメンかどうかと訊かれると…。ごめんね、十人並?ごくごく普通だわ。あ、もしかして美容師さんの腕がイイのかな?髪型って重要だもんね。雰囲気イケメン万歳!」

 とっても滑らかに長田くんを貶していたら、何故かココで慎也が割り込んでくる。

「あのさ、上手くいってたじゃないか俺たち。零は本気で俺のこと好きだっただろ?そんな意地を張らないで、また付き合おうよ」
「ふふっ、慎也ってなんか弱いよね。だってほら、私が長田くんに虐められてた時も、庇うでもなく空気みたいになってたじゃない?あの溶け込みっぷりは素晴らしかったわよ」

 ふと、課長の言葉が頭に浮かぶ。

>俺の愛する女性に嫌がらせしてみろ、
>そいつに制裁を加えてやるからな。

 …うん。あれは演技だと分かっていても、ちょっとだけカッコ良かったな。

 守られている感じがして、なんとなく安心した気がする。それに、慎也の父親の会社よりも帯刀グループの方が何百倍も規模が大きいのに、結婚相手としてこの貧乏人の私を紹介するなんてある意味チャレンジャーと言うか。

 余程、周囲から信頼されているのか、もしくは自分に自信があるのだろう。そういうところは素直に尊敬出来る。

 なんてことをボンヤリ考えているうちに、どうやら長田くんが平常運転に戻ったようだ。

「ったく、ブスのクセして生意気な女だな。威勢よく吠えていられるのも今のうちだぞ。お前が褒めてくれたウチの父親の力を借りて、婚約者が会社にいられないようにしてやる!」
「えーっ、それは困るううう。…っていうか、どうやって??」

 まったく、小学生なのかこの男。

「知らなかったのか?ウチは食品加工会社で、原材料を帯刀フーヅから仕入れているんだぞ。俺が親父に頼めば簡単に発注先を替えられる。…ということは、だ。お前の婚約者もそれをネタにクビに出来るんだ」

 恐ろしいほどのドヤ顔。
 ああ、もうこれは小学生以下だな。

「アホくさ」
「な、何?!お前、状況わかってんのかッ」

 パチパチパチ。
 突然拍手の音が鳴り響き、慌てて振り返ると…そこに課長が立っていた。

 久々に見ると、顔面兵器みたいだな。その美貌で次から次へと敵を倒していきそうだ。

『ね?凄いイケメンでしょ??』…何故か長田くんに目で相槌を求めてしまう私。一方の長田くんもアホなので、ウッカリ頷いてしまったりして。そして2人同時に『ソウジャナイ』と気づき、身震いするかのように首を左右に振った。

「どうも初めまして、零の婚約者で帯刀フーヅ株式会社営業部課長の兼友正親です」

 眩いばかりの営業スマイルに目が潰れそうだ。しかし頭の中では冷静に、『そっかココでは偽名を使うんだな』と今回の設定を確認していたりする(私、偉い)。

「へえ、そうか、アンタがレイの婚約者か」
「失礼ですが、名前を伺っても宜しいですか?」

 長田くんが突然私を呼び捨てにしたことに驚いてみれば、『零』ではなく『例』だったというオチ。

 あはは、あははは。
 って、今は笑っている場合では無い。
 集中ゥ!

「長田理人。アナタ方のお得意様である、長田食品株式会社の次期社長になる男ですよ」

 不遜なその物言いは、自分に媚びへつらえと命令しているかのようで傍目で見ていても気持ちの良いものでは無い。けれど、課長は顔色ひとつ変えずにこう訊ねた。

「長田食品さん…いつもお世話になっています。ところで確認させてください」
「なんだよ」

「偶然、聞こえてしまったのですが、自分の意中の女性の婚約者だという理由だけで、取引先の一社員をクビにしてやると。まさか本気で仰ったワケじゃないですよね?」
「はあ?!本気に決まってるだろ!!俺は一度ヤルと決めたらヤルんだよッ」

 まるで自分が法律であるかのように、長田くんはふんぞり返ってニヤニヤ笑う。

 …マズイ気がする。たぶん、長田くんは課長を本気で怒らせた。だって課長の瞳の中で、青い炎がメラメラと燃えている。

「長田社長は、息子であるアナタの意見に従うと思いますか?」
「もちろん。ウチの親父は俺の味方だからな。何なら今すぐ電話で依頼してやろうか。ふふ、ちょっと待ってろよ」

 そう言ったかと思うとクロスの下から手を出し、皆んなが見ている前でその電話を掛け始める。

「あ、父さん?俺だけど~。帯刀フーヅんとこの営業で、礼儀知らずの男が俺にイチャモンつけて来てさ。社会人としても有り得ないと思うんだよねえ。だからホラ、いつもみたいに玉木常務に頼んでチャチャッと首にしちゃってよ。

 あはは、うん、うん、そう。営業部の課長で『カネトモ マサチカ』って男。頼んだよ、じゃあね」

 …うう?そんな満足そうな顔をしちゃって、自分が何をしたのか分かっていないのだろうか。しかもこれが初めてでは無く、過去にも何度かやっているような口ぶりで。

 バカだバカだと思っていたけど、
 ここまでバカだとは知らなかった。

 今回の件だって、自分の権威を見せたいだけで、課長は殆ど無関係だったよね??見栄のために誰かの人生を変えるなんて、普通だったら有り得ないんだけどッ。

「ちょっ長田くん!アンタいったい何様…」

 その時、課長が人差し指で私の唇を押さえつけ、妖しいまでの笑顔でウインクした。

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