かりそめマリッジ

ももくり

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<零>

その11

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 たぶん、課長なりに初めての夜を演出してくれたのだろう。お蔭様で全身はピカピカ状態だし、高級ホテルのレストランで食事した後は、夜景の見えるバーでカクテルなんぞ飲みながらこうして有難いお話を聞かせて貰っているのだから。

「俺は、女という生き物がこの世で一番厄介だと思っているんだ。

 どいつもこいつも目をギラギラさせて、クネクネネチネチ絡んできやがる。最初はサッパリと付き合えそうだと思えても、実際に付き合い出すと豹変するだろう?

 俺はな、仕事に熱中したいんだよ。…というか、負けず嫌いなんだっつうの。先に生まれたという理由だけで、何もかも兄が優先されて育ってきたからな。今こそ自分の実力を知らしめ、周囲に認めさせてみせる。

 だから身を削って頑張っているんだっつうの。その貴重な時間を、やれ連絡して来いだの週に1回以上は必ず会いたいだのと、あいつら揃いも揃って我儘を言いやがる。

 クソ面倒くせえええ。

 零、俺はな、お前の何が気に入ってるって、その氷のように冷たい目だよ。だって俺だぞ??この俺を見て目をハート型にしないのは、本当にお前くらいなんだぞ。とにかくそこが気に入った。んもうパーフェクトだ。絶対にお前、俺に興味無いよな?」

 せっかくのムードたっぷりな演出もこの有り難いお話で台無しだと思いつつ、私は正直に答えた。

「無いです」

 な、なぜだろう。
 キャッキャと課長が喜んでいる。

 もしやこの男、Sと思わせておいてMなのか?
 罵詈雑言を与えて欲しいと願っているのか??

 そう解釈した私は、サービスの意味で続けた。

「課長のどこがそんなに女性たちを惑わすのか、私にはサッパリ理解出来ません」

 …う、ううっ?あれれ??どっ、どうやら色々と間違えてしまったらしい。そういや負けず嫌いだったな、この男。しかも恋愛関係では負け知らずだと。

 長田くんに向けていたものと同じ、あの嘘っこの笑顔で課長は私に言った。

「ほほう、俺に魅力を感じないと?いいねえ、そんなことを言われると逆に燃える」
「い、いえっ、あの、そういう意味では…」

 何の予告も無しに、いきなり課長は立ち上がる。

「その挑戦、受けて立とう!」
「ええっ、な、何の挑戦ですかっ?!」

 ──長い夜はこれからだ。






 …………

「んっ、く、ふうんん」

 スイートルームかと思いきや、予想外に普通の部屋だったワケで。

 こんなの、隣室の泊り客に喘ぎ声を聞かれてしまうではないか。…そんなことを真っ先に考える私は、エロイ子なのかもしれない。

 ドアを閉め、購入した服が皺にならないようクローゼットへと素早く片付けたかと思うと、課長はその勢いのまま振り返り。

 それはもう、濃厚なキスをした。

 自慢じゃないがキスなんぞあの慎也としたのが初めてで、それも毎回される度にこう思っていたのだ。

『…うわあ、高級なソーセージみたい』と。

 ほら、あの薄皮でたまにハーブなんか入ってるとっても色白のアレだ。アレが唇へと押し付けられる感触には、最後まで慣れることは無かった。

 だからキスなんて、面白くもなんとも無い行為だと思っていたのに。

 いま考えてみると慎也自身、さほど女性経験が多くなかったのでキスが下手だったのだろう。それに比べてこの男は…。

「ほら、もっとキスを楽しもうぜ」
「ん、ふっん…」

 脳天まで突き抜けそうな快感で、思わず身を委ねてしまいそうになる。キスの上手いヘタはよく分からないが、課長のキスは死ぬほど気持ちいい。

「よしよし、大丈夫だからな。全然怖くないぞ。気持ちイイことしかしないから」
「はぁ、んっ、んん」

 この人ってば、自分が話し掛けた後スグに私の唇を塞ぐから、会話が成立しないのだ。ったく、それにつけても慣れている。『俺、女を抱くことを日課にしてまーす!』と言われても信じてしまいそうになるほど、慣れまくっている。

 いやあ、確かにモテそうだし?経験人数が1桁のワケないだろうけど、これほど余裕綽々だと逆に不安になってしまうではないか。

 私ごときで満足して貰えるのかと。

 だって、1年間…いや、婚約期間を含めると1年2カ月も私1人で対応させていただくことになるのだ。そんな重責、本当に担えるのだろうか?

「おい、こら!」
「えっ?!あ、はいッ」

「俺とのキスの最中に他の事を考えるとは、驚いた…さすが松村零だな…」
「んー、むーっ」

 だから、反論の余地を与えてってば!

 勝手に誤解した課長はその後もムキになって、ひたすら最上級のキスを繰り返したのである。

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