11 / 111
<零>
その11
しおりを挟むたぶん、課長なりに初めての夜を演出してくれたのだろう。お蔭様で全身はピカピカ状態だし、高級ホテルのレストランで食事した後は、夜景の見えるバーでカクテルなんぞ飲みながらこうして有難いお話を聞かせて貰っているのだから。
「俺は、女という生き物がこの世で一番厄介だと思っているんだ。
どいつもこいつも目をギラギラさせて、クネクネネチネチ絡んできやがる。最初はサッパリと付き合えそうだと思えても、実際に付き合い出すと豹変するだろう?
俺はな、仕事に熱中したいんだよ。…というか、負けず嫌いなんだっつうの。先に生まれたという理由だけで、何もかも兄が優先されて育ってきたからな。今こそ自分の実力を知らしめ、周囲に認めさせてみせる。
だから身を削って頑張っているんだっつうの。その貴重な時間を、やれ連絡して来いだの週に1回以上は必ず会いたいだのと、あいつら揃いも揃って我儘を言いやがる。
クソ面倒くせえええ。
零、俺はな、お前の何が気に入ってるって、その氷のように冷たい目だよ。だって俺だぞ??この俺を見て目をハート型にしないのは、本当にお前くらいなんだぞ。とにかくそこが気に入った。んもうパーフェクトだ。絶対にお前、俺に興味無いよな?」
せっかくのムードたっぷりな演出もこの有り難いお話で台無しだと思いつつ、私は正直に答えた。
「無いです」
な、なぜだろう。
キャッキャと課長が喜んでいる。
もしやこの男、Sと思わせておいてMなのか?
罵詈雑言を与えて欲しいと願っているのか??
そう解釈した私は、サービスの意味で続けた。
「課長のどこがそんなに女性たちを惑わすのか、私にはサッパリ理解出来ません」
…う、ううっ?あれれ??どっ、どうやら色々と間違えてしまったらしい。そういや負けず嫌いだったな、この男。しかも恋愛関係では負け知らずだと。
長田くんに向けていたものと同じ、あの嘘っこの笑顔で課長は私に言った。
「ほほう、俺に魅力を感じないと?いいねえ、そんなことを言われると逆に燃える」
「い、いえっ、あの、そういう意味では…」
何の予告も無しに、いきなり課長は立ち上がる。
「その挑戦、受けて立とう!」
「ええっ、な、何の挑戦ですかっ?!」
──長い夜はこれからだ。
…………
「んっ、く、ふうんん」
スイートルームかと思いきや、予想外に普通の部屋だったワケで。
こんなの、隣室の泊り客に喘ぎ声を聞かれてしまうではないか。…そんなことを真っ先に考える私は、エロイ子なのかもしれない。
ドアを閉め、購入した服が皺にならないようクローゼットへと素早く片付けたかと思うと、課長はその勢いのまま振り返り。
それはもう、濃厚なキスをした。
自慢じゃないがキスなんぞあの慎也としたのが初めてで、それも毎回される度にこう思っていたのだ。
『…うわあ、高級なソーセージみたい』と。
ほら、あの薄皮でたまにハーブなんか入ってるとっても色白のアレだ。アレが唇へと押し付けられる感触には、最後まで慣れることは無かった。
だからキスなんて、面白くもなんとも無い行為だと思っていたのに。
いま考えてみると慎也自身、さほど女性経験が多くなかったのでキスが下手だったのだろう。それに比べてこの男は…。
「ほら、もっとキスを楽しもうぜ」
「ん、ふっん…」
脳天まで突き抜けそうな快感で、思わず身を委ねてしまいそうになる。キスの上手いヘタはよく分からないが、課長のキスは死ぬほど気持ちいい。
「よしよし、大丈夫だからな。全然怖くないぞ。気持ちイイことしかしないから」
「はぁ、んっ、んん」
この人ってば、自分が話し掛けた後スグに私の唇を塞ぐから、会話が成立しないのだ。ったく、それにつけても慣れている。『俺、女を抱くことを日課にしてまーす!』と言われても信じてしまいそうになるほど、慣れまくっている。
いやあ、確かにモテそうだし?経験人数が1桁のワケないだろうけど、これほど余裕綽々だと逆に不安になってしまうではないか。
私ごときで満足して貰えるのかと。
だって、1年間…いや、婚約期間を含めると1年2カ月も私1人で対応させていただくことになるのだ。そんな重責、本当に担えるのだろうか?
「おい、こら!」
「えっ?!あ、はいッ」
「俺とのキスの最中に他の事を考えるとは、驚いた…さすが松村零だな…」
「んー、むーっ」
だから、反論の余地を与えてってば!
勝手に誤解した課長はその後もムキになって、ひたすら最上級のキスを繰り返したのである。
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。
にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします
結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。
ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。
その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。
これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。
俯瞰視点あり。
仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。
社員旅行は、秘密の恋が始まる
狭山雪菜
恋愛
沖田瑠璃は、生まれて初めて2泊3日の社員旅行へと出かけた。
バスの座席を決めるクジで引いたのは、男性社員の憧れの40代の芝田部長の横で、話した事なかった部長との時間は楽しいものになっていって………
全編甘々を目指してます。
こちらの作品は「小説家になろう・カクヨム」にも掲載されてます。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる