14 / 111
<零>
その14
しおりを挟む…………
「どうも初めまして、政親の父です」
「母です」
と言うワケで、
いよいよ課長のご両親と対面だ。
私はこれほどまでにDNAの偉大さを感じたことは無い。
課長が女装してる…。
いや、そのくらい似ているのだ。
たぶん女性にしては身長も高い方だろう。
「初めまして、松村零と申します」
本当に好きな男性の両親の前なら緊張もするが、そうではないので堂々としたものだ。
さあ、かかってらっしゃい!と脳内でファイティングポーズをするほどに。
「いいわよ、合格。政親、結婚はいつにする?」
「予定通り2カ月後」
「分かったわ、それで日程を組んでおく。これ、招待客と引き出物リストよ」
「分かった、早急に発注数を決めておこう」
「式場は予約済よ。仲人は無しでいきましょう。どうせ誰にしても角が立ってしまうのだから」
「分かってる」
えっと。
なんか私、ここにいる意味無くない?
ソックリ母子が式について次から次へと決めていき、それを傍観するしかない私。
トントン。
誰かに肩を叩かれ、ふと振り返るとそこには恐ろしいほど地味な女性が立っていた。
「うふっ、初めまして兄嫁の茉莉子です。零さん、ちょっと手伝ってくださる~?」
「えっ、ああ、はいっ!」
よし、任務を与えられたぞ。
ウキウキとその後ろからついて行くと、そこは大理石が敷き詰められた宮殿の如きキッチンで。
茉莉子さんは突然ケーキにフォークを突き刺し、私の前にグイッと差し出した。
い、嫌がらせ??…じゃないな。
どうやら悪意は無いようだ。
「これね、とっても美味しいの。予約しても2カ月待ちとかなのよ。お義母様はああなると1時間コースだから、暫くここで寛いでいるといいわ」
「えっ、でも、そんな、大丈夫でしょうか?」
茉莉子さんはズズッとアンティークっぽい椅子を引き摺って来て、私に座るようにと促す。
おずおずと座ると、彼女もその前で腰を下ろし、嬉しそうにケーキを頬張り始めた。
よくよく見ると茉莉子さん、可愛いな。オコジョとかコツメカワウソ系の顔だ。帯刀グループの後継者の嫁なのだから、たぶんお嬢様には違いないのだろうが。
「どうしたの?召し上がれ。コーヒーより紅茶の方が良かったかしら?」
「いっ、いえ。コーヒーの方が好きです。いただきます…って、美味しい!!激ウマです」
「さすが三ツ星レストランのパティシエが作ったケーキだと思うでしょ?」
「はい、思いますっ。このチョコレートケーキ、まったりとして濃厚なのに味に深みが有って。甘い物が苦手な私でもペロリと食べられますっ」
「ぐふふ…」
「えっ?!ど、どうしたんですか??」
「実はこれ、私が作ったの。嬉しいわ、そんなに気に入って貰えて!私ね、ここで同居しているんだけど、誰も美味しいって言ってくれないのよ」
「嘘!!こんなにこんなに美味しいのに?!」
ぐえッ。
解説しよう。突然、兄嫁が私を抱き締めており、その力強さときたらハンパ無いのである。
「本当に本当に嬉しいわ!!零さんのお陰であの鬼姑から解放されるのね」
「わ、私の…お陰??」
泣くほど嬉しかったのか、目尻を拭いながら茉莉子さんは説明し出す。
「やだ、ごめんなさい。零さんを人身御供にするみたいな言い方をして。でも先に伝えておくわね、お義母様は本当に恐ろしい方。生半可な気持ちで関わると痛い目に遭うわよ」
茉莉子さん情報によると、あのお義母様は1つのことに拘る傾向が有り、その拘り方がハンパ無いのだと。
「こう見えて私ね、165人いた花嫁候補の中から選ばれたらしいのよ」
「ひ、ひゃくろくじゅうごにん…」
「一応、日本では最高学府を卒業しているし、三大財閥の末裔で家柄もそこそこ良いのよ~。外見はご覧のとおり地味だけどねッ」
「い、いえ、そんなことは無…」
「いいのいいの、そこんとこは自覚してるから。当時のお義母様は、子供の頭の良さは母親から受け継がれると信じていたのね」
「それテレビでどこぞの学者も言ってましたよ」
茉莉子さんはグサグサと乱暴にフォークでケーキを突き刺しながら続けた。
「私、頭脳と家柄だけで選ばれちゃったワケ。ところが、3年経っても跡取りは生まれなくて、普通ならデリケートな問題だし、遠回しに言うはずの催促を、あの鬼姑は直球で投げてきたわ」
「そ、それはお気の毒に…」
未だにグサグサ刺され続けているケーキもお気の毒だ。ああ、見るも無残な形状に…。
「ほんとノイローゼになるかと思った」
「ノ、ノイローゼですか」
「1日10回は言われたわね。結局は榮太郎…あ、政親さんの兄で私の夫ね。アイツ側に問題が有ったんだけど、今度はそれをなかなか納得してくれなくて。とにかく血管切れそうだったわ」
「で、でも今はもう大丈夫なんですよね?」
ボロボロになったチョコレートケーキを、今度はフォークの背部分で押し潰し、それを固めて再び元の形状に戻してしまった。…な、なんて器用な人なんだッ。
「ううん。可能性はゼロでは無いとかなんとか未だに言ってるわよ。本当に諦めが悪いったら」
この後も流れるように説明は続けられた。
それに寄ると、ほどなくしてお義母様の標的は次男である課長の結婚へと移ってしまい、それは彼自身がボヤいていたようにほぼ毎日、見合い話を持って行くほどだったと。
こんな感じで目的を達成するまでスッポンのようにお義母様の攻撃は続くため、私と課長が結婚した暁には…。
「あ、暁には??」
「やだ~、分かってるクセに。跡取りが産まれるまで絶対に毎日通うわよ。…零さんの元に」
「えっ、でも、まだ新婚気分を味わいたいので、1年は子供を作らないつもりなんですが」
「あはは、あははっ!!やだもう、面白~い。…そんなの無理」
ム、ムムムム、ムリ?!
悪だくみをしているかのような表情で、茉莉子さんは私にこう言った。
「きっと政親さんのことだから、自分に対する関心を逸らすために零さんを差し出したのね。あの人もなかなかの鬼だから」
「ひ、ひいいい」
「あ、でも安心して。あんなに拘っていた母親のDNA信仰は消えたみたいだから」
「さ、365人から選ぶほど拘っていたのに?」
「違う、165人よ。365だと1年の日数ね。…そうなの、母親のDNAよりも、育てる人間が優秀だと子供も優秀に育つという説を今度は信じたらしくて。次はその路線で行くそうよ」
「う、うわお」
「とにかく零さん、子作り頑張って。後は鬼姑が育てて下さるそうだから」
「もいっちょ、うわお」
1年で離婚予定なのに、どうするのこれ?
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。
にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします
結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。
ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。
その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。
これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。
俯瞰視点あり。
仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。
社員旅行は、秘密の恋が始まる
狭山雪菜
恋愛
沖田瑠璃は、生まれて初めて2泊3日の社員旅行へと出かけた。
バスの座席を決めるクジで引いたのは、男性社員の憧れの40代の芝田部長の横で、話した事なかった部長との時間は楽しいものになっていって………
全編甘々を目指してます。
こちらの作品は「小説家になろう・カクヨム」にも掲載されてます。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる