かりそめマリッジ

ももくり

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<零>

その26

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 …………
「ふうん。それで同居しているのね。よくやるなあ、政親さんも」
「あ、でも今日で同居は終了するんです。明日はウチの兄弟と政親さんの顔合わせ…ん?既に顔は合わせ済みなんですけどね、でも…、えっと中華料理店を予約してあるんで…」

 ていうか、この人ダレ。

 いや、本気で訊いているワケじゃない。だって分かっているんだもの茉莉子さんだって。

 昔、帯刀家で会った地味女はどこに消えたのか、いま目の前にいる人は恐ろしくゴージャスだ。この変貌ぶりに触れてはいけない、言えばギクシャクする…そう思えば思うほど、凝視してしまうダメな私。

「…え?ああ、この外見?自慢じゃないけど私、メイク上手なのよ。ほら、無地のキャンバスの方が描き易いでしょ。顔もノッペリしている方がメイクし易いんだな。でもまあ、榮太郎はノーメイクの私の方が可愛いと言うから、自宅では化粧しないけど」

 ドヤアア。

 どうやら私がネタとして提供した課長との同居話はノロケだと捉えられてしまったらしく。じゃあ私もノロケますよとばかりに、茉莉子さんの榮太郎さん自慢が始まった。

 た、頼むから運転に専念して欲しい。

 もうお分かりだろうと思うが、フライデーナイトは料理教室の日だ。本日から茉莉子さんも通うので、彼女の車に同乗させて貰えることになり。もうこれ以上ノロケは聞きたくありません…という段になってようやく目的地へと到着。

 高級住宅地なので付近にはコインパーキング等あまり無く、本来は車で通うことはNGとされているのだが、さすがはVIP。先生直々に駐車スペースを用意しておいてくれたそうだ。

「じゃあ、車を停めてから行くから、零さんは先に教室に向かってて」
「あ、はい。どうも有難うございまーす」

 白亜のお城のような一軒家。これが先生宅で、その門扉の前で茉莉子さんは私を下ろしてくれた。茉莉子さんは慣れ合いや非効率的なことをとても嫌うので、私は指示通りに動くのだ。

 インターフォンを押すと、明るい先生の声がする。先生はとても上品で優しいので嫌いでは無い。

「あ、また来たわよ、あのド庶民が」
「そんな言い方失礼でしょ?」
「そうよ、庶民じゃなくて貧乏人なんだから」

 私が苦手とするのは、このセレブ奥様達だ。どうやらバッグや服装、腕時計などの身の回りの物でその人の価値を判断するらしく、私は早々に貧乏人だと査定されてしまった。

 いや、事実なんですけどね。でも、いちいち嫌味を言われるのがちょっと…。

 どうか放っておいて欲しいのに。所定の場所にバッグを置きに行くと、後ろからゾロゾロとついて来る。何をしているのかは問うまでもなく、私が彼女達の荷物を物色したり、盗まないかを見張っているのだそうだ。

 盗まないし!っていうかそれ以前に要らんわッ、そんなゴテゴテした悪趣味なもん。…そう言いたいけれども、言ったら最後、土に埋められてしまうかもしれない。

 白い棚にバッグを置き、エプロンを身に着ける。すると、意地悪3人組のリーダーである緑子がこれ見よがしに溜め息を吐いた。

「要注意人物がいると面倒だわ~」
「そうよねえ、このサロンに相応しくないと何度言っても退会してくださらないんですもの」
「これ以上、近寄ってはダメ。貧乏が伝染るわ」

 あのう…。貧乏って伝染るんですか?
 し、知らなかった。

 なんちゃって。アホくさ。

 分かっているのだ、こういう人たちは誰か1人標的を決め攻撃することで団結力を高めている。だから相手なんて誰でも良いのだと。言い返すこと自体、バカバカしいし、相手にする気は全く無かったのに。

 …そうはいかない人がいた。

「お久しぶり~。そちらにいらっしゃるのは、田岡さんと小金井さんと笹目さんの奥様ね?」

 ドドーン!茉莉子さん登場。

「んまああ!茉莉子さま?!な、なんてことでしょう、こんなところにッ」

『こんなところ』ってアンタ。先生に失礼すぎ。途端に3人は茉莉子さんをチヤホヤ褒め讃える。すると茉莉子さんは低い声でこう言った。

「うふふ。ウチの可愛い義妹を虐めていたのはアナタたち3人だったのね…」

 最後の意味深なテンテンが、なんだかとてもド迫力だと思ったのは私だけでは無いらしい。

 緑子のクリンクリンに巻かれた髪が、風も吹いていないのにゆらゆらと揺れ始め、傍らに立っている子分たちも震えまくりだ。

「いっ、妹がいらっしゃったのですか?!た、確か茉莉子さまにはお兄様が2人だけだとそう伺っていたのですがッ」
「ええ。零さんはね、政親さんの婚約者なの。こちらのサロンも彼が入会手続きをしたのよ。ご存知なかったのかしら?」

 激しくブンブンと頭を上下に振る3人。エプロンを装着完了した茉莉子さんは、改めて仁王立ちする。

「帯刀のお義母様が骨身を削って説得に努め、ようやく政親さんが重い腰を上げて結婚を決意したという曰く付きの婚約者なのよ。申し訳ないけど全て報告させていただくわ。

 これで零さんが『結婚やめます』とでも言おうものならお義母様、怒り狂うでしょうね。ぷぷっ、やだ、ごめんなさい。妻の安易な行動で大口の取引を失ってしまうアナタ方のご主人の顔を想像してしまったわ。

 これは脅しでも何でもありませんから。帯刀家のお義母様の性格はご存知でしょう?それに前々から、私も会長に進言していたの。IT関連のセキュリティや警備会社は幾ら安くてもポッと出の弱小企業に依頼してはダメだと。だから既に次の候補も何社か見つけてあるのよ。

 って、あら!ごめんなさい。アナタ方のご主人の会社だったわね。ポッと出だなんて失礼な表現をしてしまって、どうか気を悪くなさらないで。少し調子に乗っただけなのでしょうけど、後は事前に相手のことを調べた方が良いわよ」

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