かりそめマリッジ

ももくり

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<零>

その41

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「…座れ」
「はい」

 素直に従うのは、目の前の人が公私ともに雇用主という稀有な存在だからで。ドリンクバーしか注文していないのに、こんな長居してゴメンネとか妙に細い店員さんに向かって心の中で詫びながら腰を下ろした。

 ていうか、こういうファミレスの店員さんって女性は結構ふくよかなのに、男性は細いよね?これって私の偏見??それともたまたま偶然、私が利用した店だけそうなのかな??てな感じのことを、延々と考えていたら。

「…だよ」
「えっ?ああ、はいっ」

 がびん。
 き、聞いて無かった…。

 政親さんが物凄く真剣な顔で何か言ったらしいのに、その内容を全然まったく聞いていなかった。

「零、返事は?」
「あ?…その…」

 どうやら何か選択を迫られたらしい。でも、今更『もう一度』とは言えない感じだ。困った、困りまくりである。

「ど、どうするか答えて欲しい」
「そ、それは…」

 何だろう??この後どうやって帰るのか、交通手段を問われているのかな?それとも小腹がすいたから、何か食べようと誘っているのかもしれない。

 そうだ、そうに違いない。だってこの人、送別会での滞在時間が短いし、絶対に何も食べて無いに決まってる。

「じゃあ、ミニパフェで」

 な、なんだろう??政親さんが固まった。この世の終わりみたいな顔をして、私を見ている。

 どうやら私、回答を間違えたらしいな。
 ぶははは、ハズレーッ。

「零、お前ってヤツは俺の真剣な想いをき、聞いていなかったんだな?!」
「はい、ごめんなさいっ」

 テヘヘッという顔で可愛く肩をすくめると、正面に座ったはずのその人は素早く移動し。私の真横にビッタリ密着して座り直した。そして、クイッと耳朶を摘まんでから自分の口元を寄せてきて、小声なのに大音量という状態で話し始める。

「俺は零が本気で好きだ。だからこの関係を偽装から本物に変えたい」
「ふ、ふああ?」

 息が耳にかかるせいで、自分の意思に反してエロイ感じになってしまうのはご愛敬だ。

「なあ、お願いだ。契約書に記載した“1年間”の期限を消して、“死ぬまで”に変えてもいいか?」
「ふ、ふうう?」

 何コレ、何かの実験なの??貧乏人に様々な刺激を与えて、その反応を試している…んじゃなさそうだな。

 直視出来ないので、コッソリ横目で盗み見るとぽわんぽわんの男の子がそこにいた。そう。頬をピンク色に染め、傍目でも分かるほどドキドキしながら好きな女の子に告白した、男の子の姿だ。

 こんなに真剣な姿が演技のワケ無い。

 ゴオオオッと、巨大な竜巻が私を背後から襲う。天上人だと思っていた男から、これほど簡単に同等の扱いを受けるだなんて。竜巻が地上…ううん、それどころか地下にいた私を空高く押し上げ、たくさん抱えていた荷物を吹き飛ばしてしまったようだ。

 身分の差とか、育ちの違いとか、その他諸々の重くて邪魔な荷物を全部、全部。

「わ、私、何も取り柄とか無いですよ?」
「バカだなあ。零は零だからいいんだよ。お前ほど素晴らしい女に出会ったことが無い」

 本当にコレ、政親さんなの?!
 何か別人格に乗っ取られてない??

 こ、こんなに私を褒め讃えるなんて、
 気持ち悪いんですけどッ。

「でもっ、だって…政親さんの理想のタイプは自分を好きにならない女でしょ?わ、私は…っ」

 どうした、私?!

 頭の中ではいつも通りオチャラケているのに、勝手にこの口が乙女な言葉を紡いでしまう。こ、このままではバレてしまうでは無いか。

「零、その言い方だとまるで俺のことを…。好きになって困ってるみたいだぞ」

 ほ、ほら、バレた!!

 このままじゃ嫌われる。何でも無い振りをしないと愛想を尽かされる。

「恋する女の目が気持ち悪いんでしょう?だ、大丈夫、全然そういうんじゃないからッ。遠慮なく政親さんは私を好きになってください、わ、私の方は好きになんかなりませ…」

 目の前の人が笑いながら顔を近づけてきて、その唇で私の唇をそっと塞ぐ。

「…ごめん。俺がそんなこと言ったせいだな」
「謝ることは無いですよッ。モテモテの人生で政親さんなりの苦労がたくさん有ったのでしょう?」

 ああ、もうダメだ。
 想いが、溢れて止まらない。

 そんな目で見られたら、
 これ以上自分を騙せない。

 現実とも夢とも分からない状態になり、勝手に口が動いていた。

「…好き。もう、すごくすごく…好き」

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