47 / 111
<靖子>
その47
しおりを挟む「…え?それはどういう…」
とある日の昼下がり。
昼下がりと聞くとどうしても不倫妻を連想してしまうのは、私がエロいからだろうか。えっと、とにかくそんな昼下がりに私は部長から呼び出されたのである。
営業部には5つのミニ応接室が有り、そのうちの1つに我らはいた。そこはパイプ椅子に折畳み式のテーブルという簡素な部屋なのだが、話の内容は結構ヘヴィだ。
先月退職した君塚さんという年配の社員が、架空発注をしていたことが判明したのだと。取引先の担当者と事前に口裏を合わせていて、発注金額の20%を手数料として貰っており。
「…でだな、毎回その事務手続きを浦沢さんに頼んでいたと君塚さんが言うんだよ。もちろんキミにもその分け前を与えていたとね。それが真実であれば、背任行為に加担していたことになるし、相応の罰を受けて貰わなくては」
待って待って待って。
何もかも初耳なんですけどっ。
君塚さんの顔すら思い出せないのに、
そんなこと有り得ないよおおお。
と答えても、きっと信じて貰えないんだろうな。理路整然と反論しなくては。話の出所はなんとなく分かっていた。でもいくら私が憎いからって、そこまでする?
…アイツめ!アイツめッ!!
いや、そんなことを考えている場合じゃない。とにかく今は最善を尽くさねば。
「部長、ウチの発注書は全て専用端末で作成し、その都度、通番が割り振られていますよね?」
「え、…ああ、そうだな」
「ご存知ですか?専用端末にログインするには、各自のIDとパスワードの入力が必須なんです。本当に君塚さんの依頼で私が架空発注の処理をしていたのなら、その通番を取得した際にログインしていたIDが私のもののはずですよね。それは調査済みなのでしょうか?」
「いや、それは未だだが…」
「でしたらシステム担当に依頼し、調べて頂けないでしょうか?そうすれば私の身の潔白が証明されますから」
「分かった、すぐにそうしよう」
応接室を出たその足で私はそのままトイレへと向かい、個室に籠ってメールを送信する。…相手はもちろん、剣持さんだ。
>営業部長から呼び出しを受けました。
>先月退職した君塚さんが架空発注をしており、
>片棒を担いだのが私だと申告したとのこと。
>※絶対にあの人が関わってますよね?!
ブブブ…。
送信完了から数秒で電話が掛かって来た。さすがにこの内容だと電話しないワケにはいかないと思ったのだろう。
「やあ!」
予想外に陽気な第一声にイラッとしたが、必死で感情を抑えながら返事する。
「『やあ!』じゃないですよ。やること汚すぎる~。犯罪者にするなんて~~」
「愚痴は時間の無駄だから、結論を教えてくれ。俺の介入が必要か?それとも不要なのか?」
「不要です。発注書は専用端末で作成するんですけど、その端末にログインするには各自のIDとパスワードの入力が必須でして。
しかも、発注書には通番が割り振られるので、発注者が本当に私だったのかシステム担当に調査を依頼してください…で一旦完結しました。さすがにシステム担当にまで手は回っていないと信じたいですが。
そんなことよりですね、このままでは私、退職に追い込まれそうで怖いんですけど。とにかく枝葉をその都度処理するよりも、根っこから始末して欲しいんですよッ」
「なあ、靖子ちゃん」
「な、なんですか?」
「キミ、こんな時でも喋るのがメチャ遅いな」
「ふ、ふあああ?!」
ひ、酷いっ。気にしているのにィ。
「まあいい。遅いのは口調だけで仕事は異常に早いからな。それと“根っこ退治”の件だけど、俺に名案が浮かんだんだ」
「えっ、何ですか?」
その名案とやらに思いっきり期待したのだが、続く言葉に私はガックリと項垂れた。
「いっそ俺と結婚しちゃえばイイんだよ。そうすれば、さすがの公子さんも諦めるだろう」
「い、いやいや、ご冗談を…」
まるで他人事みたいに明るく話しているが、元はと言えば何もかも剣持さんが悪いのだ。公子さんからの猛アタックを振り切る為私と付き合っていると嘘を吐いたせいで、謂れのない嫌がらせを受けているのだから。
それにしても今回はヤリ過ぎでは無かろうか?下手をすれば私、警察に連れて行かれちゃうし。
…そう訴えると、尚も剣持さんは言う。
「あんなのでも会長のお孫さんだしなあ…、俺から公子さんに強くは出れないんだよ。もし会長に相談しようものなら、『公子と結婚してやれ』とか言われそうだし、それだけは死んでも避けたい」
さすがの私もコレには切れた。
自分ばかり安全地帯にいて、無関係なはずの私だけが危険な目に遭っている。
「納得いかないです。だったら剣持さんも多少は痛い目に遭ってくれないと!」
ここで再び例の提案に戻るのだ。
「だから言ってるじゃないか。俺と結婚すれば、さすがに社内…それどころか帯刀グループ内で靖子ちゃんを陥れようとする大バカ者はいないだろうからさ。
何と言っても、会長の一番の側近の妻だぞ?孫とは言え、ほぼ部外者の公子さんよりも、俺の方を怖がるに決まっているだろう?
キミを守るためにも結婚してくれないか」
────
※靖子が公子さんから嫌がらせを受けることになった経緯は、次話および次々話にて説明予定です。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる