かりそめマリッジ

ももくり

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<零>

その46

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 政親さんらしき人物の頭頂部がチラリと見えた。

 そっか、お客様を放置して盗み聞きしてたのか。そんで、剣持さんも最初から彼に聞かせようとワザとその気も無いのに私を口説いたんだな。

 だよねえ…。

 せっかく見つけた希少種が作り物だと判明し、分かり易く項垂れる私。そんな私の肩をポンポンと叩いたかと思うと、剣持さんは政親さんを手招きした。

「どうぞ、こちらへ」

「零ッ、大丈夫か?!」
「ま、政親さん…」

 物凄い勢いで剣持さんの傍から引っ剥がされ、ぎゅむぎゅむと抱き締められている私。

「零さんが物分かりのいい女性だからと言って、披露宴の後にいきなり1週間も放置したり、週に数日しか帰宅しないのは異常です。これからは人材を育てる意味でも、側近の者に仕事を割り振って頂きますよ。

 そうしなければ本当に私、政親さんのいない時にご自宅に突撃して、零さんを口説きますからね」

 そんな剣持さんの脅しに屈したのか、とうとう政親さんは素直に頷き。そして更に、政親さんの背後からその人が禍々しいオーラを纏いながら登場した。

 もちろん、公子さんである。

「剣持さん、あの、ちょっと宜しいかしら?私、酔ってしまったみたいで。どこかで横たわりたいのですけれども、介抱してくださらない?」

 あ、あざとい!!
 どうするんだ、剣持軍司ッ?

「え、…はい」

 さすがの剣持さんもお困りだ。なぜなら公子さんも帯刀家の一員なので、おいそれと逆らうことが出来ず。しかも医師免許を持っているせいで、『介抱を』と言われれば拒否出来ないのである。

 あはは、あははは。
 他人の不幸、オモシロ!!

 貧乏だったせいで性格が歪んだ私とは違い、生粋のお坊ちゃまである政親さんは剣持さんのことを親身になって心配し出す。

「剣持さん、大丈夫かい?なんだか顔色が悪いみたいだけど」
「は、はい。大丈夫…あっ」

 ガクッと右膝を折って床に座り込む剣持さん。

「全然大丈夫じゃないみたいだぞ?!最近、俺に付き合って深夜まで残業させたから、疲れが溜まってしまったのかもしれない。おい、零!公子さんを頼む。俺は剣持さんをゲストルームに連れて行くッ」

 剣持さんが一瞬だけニヤリと笑ったその姿を、私は見逃さなかった。け、仮病だね?!仮病なんだね??

 チッ。

 舌打ちの音にハッとして振り返ると、そこにはヤサグレた表情の公子さんが立っていた。

「仕方ない、私も剣持さんを介抱してくるわ」
「いやいや、おかしいですって。さっきまで『酔った!介抱して!』と騒いでた人間が、ものの数秒で完治するワケないでしょ。公子さん、ツメが甘すぎなんですってば」

「じゃあ、剣持さんと同じベッドで寝かせて。零さんが『2人とも私が介抱します』と言うの。で、しばらくしたら気を利かせて消えて頂戴」
「そんなことをしたら私が叱られますゥ~」

 …てな攻防を続けていたら、そのうち政親さんが戻って来た。

「剣持さんは大丈夫ですか?」
「うーん、寝ていれば治ると言うんだがな、ちょっと心配だ。でも俺らは一応、ホスト役なワケだし、誰か他に看病してくれる人間を…」

 ここで公子さんが挙手したが、『だってお前自身も具合悪いんだろ?』と政親さんから即座に却下され。

茉莉子さん…人妻なので2人きりはマズイ。
高久さん…男なのであまり気が利かない。
他の人々…初対面の剣持さんを任せられない。

 という理由で、靖子に決定。あながち私の勘も間違ってはいなかったようだ。

「介抱?いいわよお。高校時代にお祖父ちゃんの介護をしてたから、そういうことには慣れてるんだあ」
「靖子、剣持さんと爺様を一括りにするのはやめなさい。あれでも天下の剣持さんなのよ」

 自分でも言っている意味は分からないが、なぜか靖子はそれで納得したようだ。


 そんなワケでここからは、新たなる偽装結婚の幕開けとなるのだ。



 ~~零編 END~~






 ───────
 ※こんにちは!ももくりです。
 
 ここで一旦、零と政親の偽装結婚話は終了します。が、完結とはせずにこのまま靖子メインの偽装結婚話へと突入しようかと。

 お相手はもちろん…(ひ・み・つ)。引き続き零と政親夫妻、高久さんに茉莉子さんも登場しますよ。よろしければこの先もお付き合いくださいませ。

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