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<零>
その45
しおりを挟むちなみに剣持さんは医師免許を持っており、こうして度々、体調チェックをしてくれるのだ。
急に痛みを感じたのは、さり気なく公子さんが私の足を踏んだからで。剣持さんに頸動脈辺りを擦られている私には、それを防ぐ術が無い。
「…うん、首のリンパの流れも滞っていないし、仰るとおり大丈夫みたいですね。本当に零さんは健康で頼もしい。茉莉子さんといい、帯刀家のお嫁様は優秀だな」
「有難うございます。それはそうと剣持さん、ちょっとだけご相談が」
私のちっぽけな復讐。公子さんと2人きりにするどころか、完全に剣持さんから隔離してやるのだ。あはは、あははは…。取り敢えず人気のない2階へと上がったのだが、さあ驚け!この後のことはノープランだぞ。
「え…っと、零さん?ご相談というのはいったい何でしょうか?」
「う、えと、あの、ですね…」
密室に2人きりというのもおかしいので、廊下で話し込む私たち。いや、実際に会話は成立しておらず、ひたすら私がオブオブと動揺してるだけだが。
ええい、こうなればヤケクソだ。
何か適当に話してみよう!
「剣持さんは結婚をどうお考えですか?」
「…は?」
「寝食を共にし、会話を重ね、互いの存在を感じ合う。これが結婚だと私は思うのですッ」
「はあ、そうですか」
「ウチの旦那さん、披露宴の後、1週間不在で。現在も週2、3日しか一緒に過ごせていません」
「仕方ないですよね、社長職は甘くないので」
「ワンモア!」
「…は?ですから、社長職は甘くないので」
「社長が家族を大切にしていないのに、どうして社員を大切に出来るでしょうか?!」
「そ、そうですね」
行き当たりばったりで始めた話だったのに、段々と熱が入って来た。
「政親さん、このままでは倒れてしまいます。どうか剣持さんの采配で仕事量を減らすか、側近の方に分配するよう調整して貰えませんか」
「はい、努力してみます。そうか、思ったよりも零さんは政親さんを…」
いつもの作り物臭い笑顔が崩れ、明らかにニヤニヤしている。
「政親さんを?」
「愛していらっしゃるんですね」
ドド~ン。
背後からまた竜巻が私を空高く持ち上げた。
「う…あ、愛!!そう、そうかもしれないッ。なんかもう、好き過ぎて怖いんですけど!!」
「羨ましいな。私も恋をしてみたくなりました」
「靖子!」
「なぜ浦沢さんの名前が出て来るのですか?」
「オススメ!」
「どうしていきなりカタコトの日本語に?」
「勘!」
「…ああ、勘でそう思われたんですね?」
コクコクと無言で頷く私の頬を、剣持さんがそっと撫で始める。
「私はむしろ、零さんの方に興味ありますよ。ああ、悔しいな。政親さんよりもっと早く出会っていれば…」
もっと早く出会っていればどうだと言うのか?心の中では気丈に反論していた私だったが、実際は生まれたての小鹿のように震えていた。
うひょおおっ、
剣持さんってば超キザ~~。
めっちゃ鼻につく~~。
…そう、私は笑いを堪え過ぎた挙句、ぷるぷると震えていたのである。
「いいじゃないですか。いっそ政親さんに思う存分仕事をさせておいて、零さんは私と逢瀬を楽しんでは如何でしょうか。自分で言うもの何ですが、経験豊富ですのでね。女性を満足させる自信はありますよ」
「そ…んなこと…、あの、困ります…」
昼ドラのヒロインみたく目を伏せてみたのだが、内心ではこう思っていた。
うひょおおおっ、
剣持さんってば突き抜けてるううう。
「実はですね、零さんに言われるまでも無く既に政親さんには進言していたのですよ。全部自分でやろうとしないで、信頼出来る側近に仕事を分配するようにと。なのにちっとも聞いていただけなくて。
苦労して有能な人材を引き抜いて来たのに、結局全部1人で仕事をしてしまっては、その意味が有りませんからね。そういう態度でこれからも押し通すつもりなら、奥様を他の男に奪われても文句は言えないはず。
…ですよね、政親さん?!」
そう言いながら剣持さんは、向かい合う私の肩越しに視線を投げた。私の背後は階段だ。それも大理石風の妙に重厚な造りなのである。そちらに向かって恐る恐る振り返ると…。
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