かりそめマリッジ

ももくり

文字の大きさ
45 / 111
<零>

その45

しおりを挟む
 
 
 ちなみに剣持さんは医師免許を持っており、こうして度々、体調チェックをしてくれるのだ。

 急に痛みを感じたのは、さり気なく公子さんが私の足を踏んだからで。剣持さんに頸動脈辺りを擦られている私には、それを防ぐ術が無い。

「…うん、首のリンパの流れも滞っていないし、仰るとおり大丈夫みたいですね。本当に零さんは健康で頼もしい。茉莉子さんといい、帯刀家のお嫁様は優秀だな」
「有難うございます。それはそうと剣持さん、ちょっとだけご相談が」

 私のちっぽけな復讐。公子さんと2人きりにするどころか、完全に剣持さんから隔離してやるのだ。あはは、あははは…。取り敢えず人気のない2階へと上がったのだが、さあ驚け!この後のことはノープランだぞ。

「え…っと、零さん?ご相談というのはいったい何でしょうか?」
「う、えと、あの、ですね…」

 密室に2人きりというのもおかしいので、廊下で話し込む私たち。いや、実際に会話は成立しておらず、ひたすら私がオブオブと動揺してるだけだが。

 ええい、こうなればヤケクソだ。
 何か適当に話してみよう!

「剣持さんは結婚をどうお考えですか?」
「…は?」

「寝食を共にし、会話を重ね、互いの存在を感じ合う。これが結婚だと私は思うのですッ」
「はあ、そうですか」

「ウチの旦那さん、披露宴の後、1週間不在で。現在も週2、3日しか一緒に過ごせていません」
「仕方ないですよね、社長職は甘くないので」

「ワンモア!」
「…は?ですから、社長職は甘くないので」

「社長が家族を大切にしていないのに、どうして社員を大切に出来るでしょうか?!」
「そ、そうですね」

 行き当たりばったりで始めた話だったのに、段々と熱が入って来た。

「政親さん、このままでは倒れてしまいます。どうか剣持さんの采配で仕事量を減らすか、側近の方に分配するよう調整して貰えませんか」
「はい、努力してみます。そうか、思ったよりも零さんは政親さんを…」

 いつもの作り物臭い笑顔が崩れ、明らかにニヤニヤしている。

「政親さんを?」
「愛していらっしゃるんですね」

 ドド~ン。
 背後からまた竜巻が私を空高く持ち上げた。

「う…あ、愛!!そう、そうかもしれないッ。なんかもう、好き過ぎて怖いんですけど!!」
「羨ましいな。私も恋をしてみたくなりました」

「靖子!」
「なぜ浦沢さんの名前が出て来るのですか?」

「オススメ!」
「どうしていきなりカタコトの日本語に?」

「勘!」
「…ああ、勘でそう思われたんですね?」

 コクコクと無言で頷く私の頬を、剣持さんがそっと撫で始める。

「私はむしろ、零さんの方に興味ありますよ。ああ、悔しいな。政親さんよりもっと早く出会っていれば…」

 もっと早く出会っていればどうだと言うのか?心の中では気丈に反論していた私だったが、実際は生まれたての小鹿のように震えていた。

 うひょおおっ、
 剣持さんってば超キザ~~。
 めっちゃ鼻につく~~。

 …そう、私は笑いを堪え過ぎた挙句、ぷるぷると震えていたのである。

「いいじゃないですか。いっそ政親さんに思う存分仕事をさせておいて、零さんは私と逢瀬を楽しんでは如何でしょうか。自分で言うもの何ですが、経験豊富ですのでね。女性を満足させる自信はありますよ」
「そ…んなこと…、あの、困ります…」

 昼ドラのヒロインみたく目を伏せてみたのだが、内心ではこう思っていた。

 うひょおおおっ、
 剣持さんってば突き抜けてるううう。

「実はですね、零さんに言われるまでも無く既に政親さんには進言していたのですよ。全部自分でやろうとしないで、信頼出来る側近に仕事を分配するようにと。なのにちっとも聞いていただけなくて。

 苦労して有能な人材を引き抜いて来たのに、結局全部1人で仕事をしてしまっては、その意味が有りませんからね。そういう態度でこれからも押し通すつもりなら、奥様を他の男に奪われても文句は言えないはず。

 …ですよね、政親さん?!」

 そう言いながら剣持さんは、向かい合う私の肩越しに視線を投げた。私の背後は階段だ。それも大理石風の妙に重厚な造りなのである。そちらに向かって恐る恐る振り返ると…。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

処理中です...