かりそめマリッジ

ももくり

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<靖子>

その49

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「結婚、素直に祝えないんでしょ?だから仮病を使ってまでこうして…」
「……」

「大丈夫ですよ、いつか剣持さんにも素敵なお嫁さんが見つかりますからね。だから元気出して!ファイッ、オー!」
「バカなことを言ってんなよ」

「ええっ?!」
「誰がそんなことで仮病を使うんだっつうの。何から何まで違うわ!このボケッ」

 今度は私の頭が激しく揺れる。すると突然、ノックの音が。

 コンコン。

 続けてドアの向こうから、女性の声が聞こえてくる。

「剣持さん、起きていますか?その…入っても宜しいでしょうか?」
「あの、今ちょっと取り込み中でで申し訳ないんですが、後にして貰えませんか?」

 そう言いながらも、何故か剣持さんは思いきり私の手の甲を抓った。

「ぎゃっ」
「ごめん、痛かったかい?」

 は??意味ワカンナイんですけど。

 そう反論しようとしたその瞬間、強引にベッドへ引き摺り込まれたかと思うと剣持さんが覆い被さってくる。

 …ガチャリ。
 そのタイミングで突然ドアが開いた。

「なっ、ななな、何していらっしゃるの?!」
「だから取り込み中だと言ったのに…」

 鬼の形相で私を睨みつけていたのは、我が社の顧問弁護士で社長の従姉妹でもある…帯刀公子さんだったのだ。



 この状況もさることながら、私は痛いのが苦手で。剣持さんは無自覚なのだろうが、押さえつけられた二の腕が限界を迎えそうで耐え切れずに声を漏らした。

「ん…、もう、ダメ…ですう…」

 よくよく考えるとそれは誤解を与える台詞だと、気付いた時にはもう遅く。ズカズカと近寄って来た公子さんが私と剣持さんの間に腕を突っ込んできて、強引に私をベッドから引き摺り下ろした。

 火事場のバカ力という例のアレであろうか。きっと私を助けようと頑張ってくれたんだな…そう好意的に解釈し、公子さんに向かって笑顔を向けたその瞬間。

 バッチイイイン!!

 頬に熱々のフライパンを押し付けられたようなそんな痛みを感じ、慌てて公子さんに質問する。

「な、なんで私、殴られたのでしょうか??」
「雑魚のクセに!この身の程知らずがッ!!」

 余りのド迫力に言い返すことも出来ず。瞬きをゆっくりと繰り返すことにより、『意味が分かりません』と伝えるだけで精一杯。すると私と公子さんの間に剣持さんが割り込む。それも、いつの間にかシャツは脱いだらしく上半身裸の状態で。

「公子さん?!いったいどうなさったんですか」
「だって、私、私…」

 早くその続きを言え。

「手は大丈夫ですか?貴女が人の頬を打つなんて、驚きましたよ」
「……」

 こら、続きは~?!

 どうやら剣持さんは公子さんの言葉を待つことにしたらしく、一方の私も恐怖で黙り込んだ為、室内はひたすら静寂に包まれる。

 チク、タク、チク…。
 暇だなあ…。

 自分の爪を見つめて暇を潰していたその時、唐突に公子さんが続きの言葉を口にした。

「私、剣持さんをお慕いしているんですッ。どうせこの女が勝手に思い詰めた挙句、この部屋に忍び込んだのでしょう?」

「…いえいえ、ご覧になりませんでしたか?押し倒されていたのは私の方でしたよね??」

 勇気を出して反論したのに、それは華麗にスルーされてしまう。

「もしかして私が帯刀の人間だからと勝手に交際を諦めたのでしたら…心配しないで。愛さえあれば乗り越えてみせますからッ」

 ようやくここで私は全てを理解した。

 公子さんが剣持さんに熱烈片想い中で。でも剣持さんの方はそれが迷惑なので、私をダシに断ろうとしているのだ。

 ま、巻き込むなよお…。

「公子さんには申し訳ないのですが、恋愛というのはそんなに簡単なものでは無い。

 実はここにいる浦沢さんとかなり以前から付き合っておりましてね。思慕云々よりも既に情が湧いてしまったので、もう離れることは出来ないのです。

 コイツ、こう見えて物凄く尽くしてくれてて、もし俺と別れたら死ぬかもしれないと。確かにごくごく平凡な女ですが、いつでも俺に必死なところが可愛くて。

 公子さんは並外れて美しい容姿と、それに釣り合う知性もお持ちの女性だ。貴女ならきっとスグに次の男性が見つかるでしょう。でも、コイツは無理だ。ずっと俺が傍についててやらないと…」

 巻き込まれるどころか、小さく小さく千切って織り込まれた感じだ。案の定、公子さんはメラメラと闘争心を燃やし、私を指さしながら叫び出す。

「この庶民が!!私を本気にさせたわねッ」
「本気…ですか??」

 ほ、ほら~。
 剣持さんってば何を煽ってくれちゃってるの?

「ええ、この想いはアナタなんかに負けないわ。私、絶対に剣持さんを奪い取りますから。なりふり構わず全力で挑むわよ!!」
「そんな~、困ります~~」



 …以上の経緯により私は会長の孫である公子さんから目の敵にされ、嫌がらせを受けているのである。

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