かりそめマリッジ

ももくり

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<靖子>

その55

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「は?嫌ってなんかいませんよ」

 おいこら、シャイボーイな台詞とは真逆なその尻揉みを止めないかッ。

「本当かい?!本当に俺のこと嫌じゃない??」
「死ぬほど嫌だったら偽装とは言え、結婚自体しませんよ。むしろ顔は結構スキかも」

 ぷるんっ。

 勢いよくお尻から手が離されたかと思うと、その両手はいつの間にか私の両肩を掴んでいる。

「い、いででっ、その辺りもそこそこ痛いです」
「あー!クソッ。なんでこういう肝心な時に軽石なんか使うんだ。普通は脱毛エステとかに行くだろうが!!」
「そ、そんな敷居の高いモノ、ド庶民の私には馴染みがありませんよッ」

「俺と結婚したんだから財布の中身は気にせず、どんどん自分に投資していいんだよ。むしろ使い道が無くて困っているんだから」
「くーっ、カッチョイイ!『使い道が無くて困ってるんだから』…とか私も言ってみたーい!!」

 とにかく恥ずかしくて照れ隠しで茶化したのに、全てお見通しなのか剣持さんは突然キスをした。

 いやいや、いきなり本気モード出されてもっ。

 これまで生きてきて、2回目のキスである。しかも1回目が結婚式の際の誓いのキスで、なんだかんだ言って全部相手は剣持さんだ。

 …ん。

 もしかして無事に偽装結婚の期間を終え、そのあと誰とも交際出来なかった場合は生涯この2回だけで終えるのかもしれない。

 誓いのキスなんてほら、人目も有ったからそれこそ触れる程度のサッパリ具合だったし、こんなレロレロ・キスは人生初だったりする。

 オーケイ!
 だったら堪能しようじゃないですか!!

 何事も勉強だ。
 さあ、自由にレロレロしてください。

 剣持プロは素直になった私をいち早く察知し、縦横無尽に咥内でその舌を動かす。他人の舌なんて異物感ハンパ無いはずなのに、自分の舌に触れるたび子宮がキュウと縮まり。どんなに経験値が低くても、どんなにオチャラケていても、やっぱり自分は女なのだと思い知らされる。

 長い長い間、その行為は続けられ。ようやく満足したのか、唇が離されたかと思うとすぐにまた軽く唇に触れる程度のキスが何度も続き。それから剣持さんは切なそうな表情のまま、吐息混じりで私の頬に自分の頬をそっと寄せた。

「ああ、思いっきり抱きたいな…」
「う…でも、あの…」

「分かってるよ。因幡の白兎を虐めたくないから我慢する」
「お気遣い、誠に有難うございます」

「可愛い兎に塩を塗り込むような真似はしたくないからさ。回復するまで気長に待つよ」
「ふふっ。差し詰め剣持さんは大国主命という感じでしょうか。知ってますか?皮を剥がれた白兎は大国主命に助けられ、白くてフサフサの姿に戻って幸せに暮らすんですよ」

「ほんと靖子ちゃんは…。そういう雑学はよく知っているのに、こうして突然、軽石で全身擦ったりとか無謀なことをしてくれるよね」
「てへっ、面目無いです」

 頬だけ密着させたままで、触れないように注意しながら抱き締められる。

 ああ、きっとそうだ。
 
 これが剣持さんの考える“メロメロ”なのだ。情熱的なキスの後で、そっと壊さないように抱き締められるなんて。こんなの、オボコイ女は百発百中で落ちるよ!ボンヤリしていたハエが1cm以内の至近距離で殺虫剤を噴射されたくらいに絶対落ちるよ!

「…あの、とってもよく分かりました」
「は?何がだい??」

 静かに後退りしながら私は感謝の言葉を述べる。

「メ、メロメロ体験をさせてくれて誠に有難うございます。か、かなりグッときましたので、もうこれにて店仕舞いしていただいて構いません」
「……。そ、そうきたか」

 せっかくこちらから終了宣言をしたのに、剣持さんはサービスを続けてくださるらしく。再び切ない表情を、私に見せてきた。

「あの、剣持さん、お腹が空いていませんか?もうご飯にしますよ」
「ダメ、やり直し」

 顎クイからの眼力ど~ん!!恐ろしいほどの破壊力である。

「や、やり直しとは、何を…?」
「『勇作』。結婚したのに名字で呼ぶのは変だ」

「ゆー、さく…」
「そう、俺もこれからは靖子と呼び捨てにする」

「いえいえ、せめて勇作様と呼ばせていただ…」
「妻が夫を様付けで呼ぶなんて、いったいどこの国の話だよッ?!」

 突然どうした?何故いきなりソコに拘る?

「で、では間を取って勇作さんでは如何ですか」
「だめ、却下。絶対に勇作って呼んで貰うから。なあ、靖子。今日からシフトチェンジして、ラブラブ夫婦になるよう頑張ってみないか?」

 NO!と答えたいのに、眼力が怖くて逆らえず、渋々と頷いてしまうダメな私。

「分かりました、勇作」
「おっ、いいね。出来れば敬語もヌキで!」

「分かったぞ、勇作」
「ますますいいね~」

 ああ、自分の順応性が恨めしい。…こうして私たちは、徐々に打ち解けていったのだ。
 
 
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