かりそめマリッジ

ももくり

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<靖子>

その54

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 …………
 はてさて、メロメロとはどのような状態か。

 ランチタイムの議題としては、相応しいような相応しくないような。とにかくお喋り大好きな私たち女子…もとい、女子3人と男1人はイキイキと語り出す。

「それはメチャクチャ好きにさせるという、精神的な攻めを表現した言葉だと俺は思う」
「ちょっ、高久さん、それ本気で言ってる?これだから童貞はイヤなのよ。メロメロと言えば性技のことよ!ねえ零さん」
「ま、茉莉子さん…。社食でそういう言葉を発するのはちょっと…」

 す、すまねえ。
 アタイがこんな疑問を口にしたせいで。

 そんな懺悔の気持ちと共に、激しい後悔の念に襲われる。

 わ、私も高久さん側の意見だったんですけどっ。てっきり胸キュンな口説き文句とか、薔薇の花束を差し出して跪かれるとかを想像し、自分的には可愛いオネダリのつもりだったのに。それがまさか茉莉子さん的な考えも有るとは、思ってもみなかったのである。

 マ、マズイかもしれない。

「ねえ、零。正直に答えてちょうだい。アンタはどっちの意見が正しいと思う?」
「うーん、その2人の関係にも寄るかなあ…。例えば付合ったばかりのカップルなら高久さん、夫婦だったら茉莉子さんの意見が正解だと思う」

 ええっ、私、どっちにも当て嵌るんですけど!

 




 そんなこんなで無事、仕事を終え。帰宅後に大量の餃子を作りながらふと考えた。もしかしてメロメロの件、抱いて欲しいというおねだりだと受け取られたかもしれない。だとすれば、いよいよ今夜、何かが起きる!!

 ニ、ニンニクは入れないでおこうかな…。だってほら、キスした時に臭いと嫌だから。下着…はとっておきのレースひらひらのが有る。でもアレ、下の毛が豪快にはみ出るんだよね。

 …はっ。毛?!

 どうしてこんな大事なことを忘れてたんだろう。私、ムダ毛の処理がいつも大雑把で。いつも触れたらザリザリすると、女友だちからよく注意されていたのである。

>靖子の腕、チクチクするんですけどお。
>やだあ、ほんと剛毛~。

 何かに駆られるように大慌てで浴室へ飛び込み、ただひたすら全身を軽石で擦る。

 シャカシャカシャカ。

 確かに手触りはツルツルになったが、予想外…いや、当然のようにヒリヒリ痛む。…だよねえ。二の腕や太腿なんて、めっちゃ皮膚柔らかいし。

 い、いででで。

 時間の経過と共に、痛みは増していく。いいトシして、何やってんだ私??

 残念ながら部屋着ですら袖を通せなくなり、軽石で擦っていない胴体部分しか服が着れない。すなわちキャミソールにショーツというかなりセクシーな出で立ちである。

 この状態でどうにか晩御飯の準備を整え、棒立ちでテレビを見ていたら背後に人の気配を感じたので振り返ると、そこには眉間にシワを寄せた剣持さんがいた。

「お、お帰りなさい」
「ただいま。ごめん、ちょっと考え事してたら音も無くここまで辿り着いてしまったみたいだ。着替え中だったのかな?早く何か着なさい」

 とにかく事情を説明…ん?待て待て。そうすると理由から話さなくてはならなくなる。

 えっと、どうしようか??

 困った私が俯いたまま黙り込むと、どうやらその態度を剣持さんは誤解したらしい。

「あ!もしかして、そういうつもりで??そっかそっか、今朝、そんなことを言ってたね。ごめん、靖子ちゃん。キミにそこまで思い詰めさせてしまって…」
「ぐえええっ!痛いいいッ!!触らないでえ!」

 仕方なく私は経緯を説明するのであった。

>ケンモチは笑ったよ。
>かぷかぷかぷかぷ笑ったよ…。

 って、あたしゃ宮沢賢治かいッ!!

「ぶはははは!!はァ、はァ、あははは」
「うう、そんなに笑わなくても」

「だってさ、そんな格好で仁王立ちしてるから、なかなか手を出さないことに怒って実力行使で俺を襲うつもりなのかと思ったんだ」
「ま、まさか!!襲うなんてそんな勇気ある行動はしませんよっ」

「だよね?ああ、可笑し過ぎて腹が捻じれそう」
「ひ、酷いです。ひとの不幸をそんな楽しそうに…」

「ご、ごめんごめん。取り敢えず軟膏でも塗ろうか」
「はいぃ」

 考えてみたらこの人、医師免許を持っているんだった。

 『医師免許』というパワーワードを思い出した途端、全てを任せる気になったりして。そのままリビング中央で、制服の採寸をされている女子高生の如く立ち尽くす私。麗しのハズバンドは何処かに消えたかと思うとアッという間に戻って来て。それはもう真剣な表情で軟膏を塗り始めた。

 まずは右腕の指先から胴体へと向かい、次は左腕も同様に。

「痛くないかい?靖子ちゃん」
「え、ええ。ちょっと染みますけど、耐えられない程では有りません」

「…ふ、ふふふっ」
「思い出し笑いですか?」

 顔、近い近い近い。

「いや、だって嬉しいじゃないか。俺と今晩一線を超える決心をして、頑張ってムダ毛を軽石で擦ったんだよね?」
「そ、そうですよ」

 ちょっ、脚の付け根! 

 そんなギリギリまで塗らなくても大丈夫なのに。ていうか、なんか塗り方、エロくない??ほら、お尻揉んでるし!明らかに両手で揺らし揉みしてるし!

「…正直に言うと俺、拒絶されるのが怖くて。靖子ちゃん、俺のこと嫌ってるみたいだし…」
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