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<靖子>
その65
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「靖子ちゃん、卒業おめでとう」
謎の言葉を呟き、茉莉子さんは去って行く。何となくその意味が分かってしまい動揺する私。
「今のどういう意味かな??ねえ靖子ちゃん、分かる??」
「う…、分かる…気がする」
しかし何かは言えないのだ、許せ高久さん。さり気なくそういう雰囲気を醸し出すのに、ド直球男はあどけなく笑いながらまた訊く。
「知ってるなら教えてよ」
「仕事中ですよ、今は業務に集中しないと!」
勇作と想いを確かめ合ったその翌日、左手を骨折している私は相変わらず内勤で。高久さんが大量に注文を受けて来た輸入ナッツをちまちま分けるという作業をしていた。検品・計量しながら小袋に詰めるのである。
骨折しているとは言え、左手の人差し指と親指は自由に動くから作業上は問題無い。問題があるとすれば、気配りのつもりで話す高久さんのマシンガントークが辛いことだけだ。
「えーっ、なんか意味深だなあ。卒業って言ったよね?あ、まさか靖子ちゃん…」
「な、何ですか?!」
当てられるかと思ってギクッとしたのに、天然高久は予想外のことを言い出す。
「地下アイドルだったとか?そしてそれを引退する決心をして『卒業』?」
「ビックリし過ぎて顎が外れそうなんですけど」
「嘘、もしかして正解?当てちゃった俺??」
「全然。掠りもしませんわ」
『えー、マジでー』と騒ぐのでひたすら無視。
「あ、またピッタリ150gだった。むふふ」
デジタルスケールでの計量が最早、神業と化した自分に感動していたらトントンと誰かに肩を叩かれた。
「お疲れ様、靖子ちゃん」
「お疲れ様です…って、ん??しゃ、社長?!」
営業部のフロアの簡易倉庫なので、確かに誰でも出入り自由だが。しかも今、私と高久さんしかいないのだが。だからと言って、なぜ社長がココに??そんなサプライズ、心臓に悪いわッ。
ナ、ナッツ食べてるし。商品をボリボリ食べてるよ、ウチの社長!!
「え?ああ、味見だよ。あの会社、時期に寄って保管が杜撰でさ、たまに湿気ったナッツを納品してくるんだよね」
「今回は大丈夫だと思いますよ。その…食べなくても手にした感触で分かります」
さり気ない嫌味である。しかし敵もさる者、恐ろしい反撃をしてくる。
「そうだ、とうとう結ばれたんだね。おめでとう、靖子ちゃん」
「…はえ?」
てっきり勇作がペラペラと喋ったのかと誤解し、地味に怒っていたら社長がそれをフォローする。
「ごめん、違うんだ。剣持さんがそんなこと俺に報告するワケないよ。でもさ、分かっちゃった。
あの人とは長い長い付き合いだけどさ、鼻歌を唄ってる姿なんて初めて見たからね。だから勝手にそうなんじゃないかなーと推測しちゃっただけ。
でもやっぱり正解だったな。靖子ちゃんもスッキリした顔をしてるからさ」
全てを察した高久さんは、チェリーボーイの噂に違わず純な反応を見せ、倉庫奥に何かを取りに行くフリをして姿を消してしまった。
プライバシーは死守したいしたいところだが、よくよく考えるとこの人の後押しのお陰で偽装結婚を決め、無事に勇作とまとまったワケで。ある意味一番の功労者なのかもしれないと思い、御礼を言うことにする。
「ども、ありゃとっした」
砕けた口調にしたのは、社長に対してでは無く、良き友人として伝えたかったからである。
「うんうん、俺もとっても嬉しいよ。一応、第二の兄だと思って慕っているからさ。早く幸せになって貰いたかったんだ。…それに」
「それに?」
「長く続いて来た帯刀家と剣持家の関係を、ここで途絶えさせたく無かったからね」
「…と、言いますと??」
「剣持さんは一人息子だし、もし俺たち夫婦に子供が生まれれば、その面倒を見てくれるのは靖子ちゃんの子供になるかもってこと」
「こ、ここ、子供…」
壮大なスケールの話に、軽い眩暈を覚える。
「たぶん、こっちが落ち着けば剣持さんはウチの祖父の側近に戻るだろう。そして将来的には父の側近になり、最終的には兄の側近になるんだろうな。そして俺と零の子供が大きくなる頃には、さすがに兼任は難しいだろうから勇作ジュニアが活躍することを願うしか無い。
時期的なことを考えると、やはり俺と同時期に結婚して貰って、早目に子作りしてくれないと難しいんだよ。プレッシャーかけて悪いけど、ヨロシク!!」
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