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<茉莉子>
その68
しおりを挟む私には兄が2人いるが、いつでも優先順位は下の下の下の下の下の下で。長男様が要求すればどんなに好きな食べ物でもすぐに渡さなければならなかったし、次男様が私にどんなに非情な仕打ちをしても、耐えなければいけなかったのだ。
幸い、3つ年上の長兄・寛貴は、聡明でそれなりに私を可愛がってくれたが、問題は年子の次兄・光貴である。
コイツが恐ろしいほど低能で粗野で傲慢で、自分よりも成績の良い私を非常に嫌っており。こと有るごとに、嫌がらせをしてくるのである。しかも、外面がべらぼうに素晴らしいせいで、誰もその悪行に気付くことは無い。
今日のお見合いだって、もしかしたら光貴の嫌がらせなのかもと疑っているほどだ。幾ら簡略的とは言え、待ち合わせ時間も場所も、その3時間前にいきなり知らせて来るだなんて余りにも怪しいではないか。
『はは~ん、もしかしてコレ、両親も巻き込んだ壮大なドッキリ??光貴のヤツ、手間ヒマ掛けて面倒なことを…。たまに年単位で大きなドッキリを仕掛けるよね。本当、いつまで経っても子供なんだから』
そう気付いた私は、急にムカムカして来た。だって悪戯にしては手が込み過ぎている。フランスでの生活を全て引き払ったのに、今更『冗談でした』で済まされないではないか。
ここで負けず嫌いの私の性分が、ムクムクと頭を上げた。
「あの…私、榮太郎さんのように素敵な方なら、結婚しても構いませんよ」
ニッコリと微笑みながらそう答えると、彼は鼻先をこちらに向ける。前髪に隠れているその両目はどうやら私をひたすら凝視しているようで、負けないぞとばかりに私はその目の辺りを見つめ返す。
「…い女だな」
「え?何と仰いましたか」
本当は思いっきり聞こえていた。先程までの弱々しい声色が嘘だったかのように、この男は確かにこう言ったのだ。
>チッ、食えない女だな。
ほ、ほらやっぱり!
私はこの見合いが紛い物だと確信する。それで、貴方に一目惚れしましたよ…的な演技を始めてみようと思ったワケだ。
「私、全然イヤじゃないですよ。榮太郎さんのようなシャイな男性は大好きです。ご覧の通り私の方も絶世の美女というワケではありませんし、贅沢は申せません」
「いや、でも茉莉子さんは数日前までフランスに住んでいたんですよね?やはり向こうの方が」
「お気遣い、有難うございます。あの…お恥ずかしい話なのですが、我が家は恐ろしいまでの男尊女卑でして。もしこの縁談が流れてしまうと、私、座敷牢に入れられてしまうのですよ」
「座敷牢?!」
「はい、何時代なんだって話ですが」
「それは本当ですか?そんな話がこの現代に?」
さすが次兄・光貴の刺客。きっと今更な話題だろうに、初めて知ったフリをするだなんて、ほんと芸達者だ。
…この時の私は自分が優勢だと思っていた。
私の顔は地味で、どちらかというとリスに近い。しかし何事も極めようとするこの性格のお陰で、変身メイクを動画サイトで研究し、みごと習得。今は魅惑の子猫ちゃんフェイスになっている。
ネズミにも劣るブス男(失礼)と美人の自分とでは、どう考えてもこちらの方が格上であろう。そんな理由でとっても気持ちが大きくなり、次から次へとペラペラ喋っていたのである。
「榮太郎さんの現状を考えると、いろいろと精神的ストレスも大きいでしょうね。私、空気のような存在になれる自信が有ります。忙しければ放置していただいても全然平気だし、記念日とかそういうものも不要です。
空気は喋らないし、存在を主張しませんからね。構ってくれないと寂しくて死んじゃうとか言う、世間一般の女性たちと比べたらきっと楽ですよ。自分で言うのも何ですが、とってもお得です」
おほほほっ。
貴方を見て、逃げ帰ると思ったのでしょうが、そうは問屋がおろし大根。長く放置すると辛みが薄れて、美味しく無くなるわよッ。
「要検討」
「…えっ?」
「今回の件、保留でお願いします」
「あ、はい。全然平気、待てます。こちらには断る権利が有りませんので。むしろ気に入らないのでしたら、そちらから断ってくださいね」
「断ってもいいんですか?」
「ええ、仕方ないです。こういうのは相性の問題なので、気に入らなければそれまでです」
余裕綽々で、コロコロと笑ってみせる私。すると榮太郎(※心の中でのみ呼び捨て)は、急に前髪をかき分け、ウエットティッシュで顔を拭いてニキビを消し、出っ歯を引っこ抜く。
するとアラ不思議。
先程とは別人のような…そう、大天使ミカエルの如き美しい男性が私の目の前に現れた。
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