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<茉莉子>
その76
しおりを挟む縋るような目で悟は私を見たかと思うと、それを援護するかのように光貴が反論する。
「さっきから部外者のクセして煩いんだよ!須藤はな、いいヤツなの!俺のダチを悪く言ったら許さねえからな!」
この言葉に榮太郎がキレた。
「部外者だと?!婚約者だつってんだろうがッ。
お前も大概にしとけよ!罰ゲームって何だよッ。いくら妹だからって、1人の人間をそんな風に扱っていいワケないだろうがッ。
女ってのはな、どんなに強そうに見えても、繊細でか弱い生き物なんだよ!!守ってあげなさいって母親に教えて貰わなかったのか?!そんなゲームの対象にされたら、傷付くに決まってるだろうがッ!!
そこのお前、復縁云々よりもまずそこを謝れッ。
一度でも茉莉子をそんな都合よく扱った男に、そう易々と渡さないからな。それとそこのバカ兄貴!俺は帯刀榮太郎だ!!帯刀グループの跡取りなんだよッ。こっちが望めばこの縁談は反故にはならない。
ずええええったいになッ」
私を庇ってくれているのだから、とても有難いことなのだが。どうにも『お前の母ちゃんデベソ』…もしくは、『先生に言いつけてやる』的な感じが否めない。
『俺は帯刀榮太郎だ!!』以降は不要だよ。…などと思いながらもつい笑みが零れてしまう。ふふっ。あの頃…罰ゲームだと知った当時は、死にたいほど悲しかったのに。
生まれて初めての恋が、呆気なく消え去り、ヒロインから一気に悪役へ転落した自分を世界で一番不幸な女だと思っていたはずが。今はこんなに安らかだ。
恋愛という狭いジャンルに分けずに私の人生全体として考えてみると、大きな壁をひとつ乗り越えたというか。ミッションをクリアして成長した感じである。
うん、なんかもういいな。
恋愛なんて私には必要ない。
愛し愛されるという関係は、選ばれし者にしか用意されていなくて。残念ながら私には用意されていないのだ。
それが分かっただけでもヨシとしよう。求めても手に入らないと分かったのだから、これからはもう望まない。だって時間の無駄だから。取り敢えず1年間の偽装結婚をして、それから…どうしようかな。
そんなことをボンヤリと考えていると、突然、隣席の榮太郎が立ち上がった。
「行こう、茉莉子」
「へっ?!ど、どこへ…」
右手をガッシリと握られ、そのまま強引にその場から連れ出される。
余計だと思った『俺は帯刀榮太郎だ!!』以降は意外にも効果絶大だったらしく、光貴と悟は俯いたまま何も言わなかった。
ホテルを出ると、そのまま黒塗りの高級車へと乗せられる。握っていた手を離したかと思うと、今度は両肩をガッシリと掴んできて。そして運転手に告げた行き先は…どうやら帯刀家のようだった。
「あのう…。まさかと思うんですけど、ご両親に挨拶させられるというワケじゃ…」
無いよね?!
ねえ、無いでしょう??
「父は多忙だが、母は殆ど在宅している。前にも話したけど、あの人ってほぼ妖魔だから。人間相手だと思わなくていいよ」
Oh…、ワケじゃ有ったりするんだ…。
「何もかも突然過ぎますよ。他の女性との見合いに同席させたり、そのまま自宅に連れて行くとか…」
「俺は以前からそう予定していたけど?」
それ、自分の脳内でだけ予定してたんでしょ!私に知らせていないんだから、同じだよッ!!
「て、手土産くらい用意していないとですね、気が利かない女だと思われ…」
「もう買ってある。母の大好きな老舗和菓子店の羊羹を山のようにな」
「はァ。あ、でも、こんな軽装じゃ…」
「いいんだよ。デート帰りに寄ったという設定にしておくから。平気、平気!」
そんなやり取りをしている間に車は到着した。
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