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<茉莉子>
その82
しおりを挟むこんな男と一夜を共にして、手を出さない私って本当に凄いよね?きっと普通の女子だったら押し倒しているはず。…なんてことを考えていたら、羽根のように触れる程度のキスをされた。
物足りない。こんなんじゃ満足できない。
「もっと…して?」
「う…っ、茉莉子…」
グッチュ、チュ、チュ、ムチュ、グチュチュ…
親の仇みたいに小刻みなキスを大量にされたかと思うと、それは次第に濃厚なキスに変わる。やはり人間というのは、性欲に抗えないのだ。
どんなに清廉潔白で、本命の女性が他にいても、目の前に裸同然の無防備な女がいれば手を出す。だから、罪悪感を抱かなくてもいいんだよ榮太郎。
「はァ、茉莉子、茉莉子…」
こんな時でも私を身代わり扱いせず離れるって、どんだけデキた男なんだよ、アンタ。
…悟と別れた後、傷つかないように生きて来た。もう死ぬまで本気の恋なんてしないと思ってた。なのに、この体たらく。
榮太郎と初めて会ったその時に、嫌な予感はしていたのだ。真っ直ぐに私を見つめたその瞳が、あまりにも優しかったから。
こんな王子様みたいな人と、恋が出来たらいいな…と。自分みたいなみすぼらしい女には、過ぎた望みだと何度も脳内で打ち消したのに。あれこれ言い訳をしながら、それでもやはり認めざるを得ないのかもしれない。
私は、この人をどんどん好きになっていく。一分一秒毎に惹かれていくことを止められない。愛されていると勘違いしそうになるその表情や態度に、いちいち心を奪われる。
だって、偽装なのに。そんな真正面から私に向き合う必要は無いのに。
「可愛いよ…、茉莉子。本当に可愛い」
「…うっ、バ、バカなこと言わないでください」
私を撫でるその手が演技だと分かっていても、それでも勝手に心が動いてしまう。
報われない恋だと知っていながら…。
…………
「やあ、おはよう!キミが茉莉子ちゃんだね?」
「はい、小椋茉莉子でございます」
ノーブルさを隠せない、イタリアン・マフィアみたいなその人は、どう考えても榮太郎の父で。貫禄と加齢を取り除くと、榮太郎にソックリだ。
ニコニコと人なつっこい笑顔を向けてくるが、この出で立ちに騙されてはならない。何故なら帯刀グループの次期会長で、妖魔の夫でもあるのだ。どう考えても、凡人であるはずが無い。私は言葉を慎重に選ぶことにした。
「さあ、早く座って朝食にしようじゃないか。えっと茉莉子ちゃんは榮太郎の隣りでいいね?今日は特別に食事中の会話を解禁としよう。残念ながら俺も榮太郎も1時間後には出社するから、今しか話すことが出来ないんだよ。なあ淑子、いいだろう?」
どうやら淑子というのは妖魔のことらしいが、真正面に座るその人の表情を伺うと、とても納得しているようには見えない。この雰囲気を壊さぬ様に私は慌てて言う。
「え…あの、どうぞお気遣いなく。私は帯刀家へと嫁ぐ身なので家風には従います。それに、今日しか来れないワケでは無いですし」
ここで妖魔が会話に割り込んでくる。
「そうよ貴方。来週から一緒に住むんですから」
「は?来週」
「来週…」
「ライシュッ?!」
…さあここで質問です。誰がどの『来週』を言ったでしょうか?
答え:お義父さん、榮太郎、私の順でーす!
って、陽気に脳内クイズをしてる場合じゃない。あまりの事態に、逃げモードへと入ってしまったではないか。だってっ、たった一晩でも結構危なかったのに、そんな来週から同居だなんて無理だよッ。
私きっと榮太郎を押し倒しちゃう!
私の中の男性ホルモンが猛り狂い、天使のように愛くるしい榮太郎の処女を散らしてしまうこと間違い無しだ。
『初耳です』とお義父さんに目で訴えると、彼はすぐに状況を察して抗議してくれた。
「淑子、何事にも順序というものが有るんだよ。小椋家の大切なお嬢さんを結婚前だと言うのに我が家で預かるというのは如何なものだろうか」
妖魔は『シーッ』というジェスチャーをしたかと思うと、そのまま口を開こうとしない。そっか食事中は喋らないというルールを、今から適用させるつもりなんだな。
…なんて卑怯な。
「淑子、聞いているのかい?しかも茉莉子ちゃんには了承すら得ず、キミ1人で決めたことのようじゃないか」
サクサクサク。
妖魔は相変わらず無言のままで、サラダを咀嚼する音だけを響かせている。
「それはそうと茉莉子ちゃん、2カ月後に挙式予定なのは知っているかい?」
「は?!な、何ですかソレ??」
「やっぱり知らなかったのか…。元々、花嫁が誰であろうと、式場だけ先に予約してあったんだよ。榮太郎とキミがこのまま順調に進めば、9月の第2日曜に挙式するはずだ」
「そ…うなんですか…」
当事者である私に、何も知らされていない結婚式。いや、それ以前に私で決定していないのかも…。
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