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<茉莉子>
その96
しおりを挟む怒涛のように不安が押し寄せてくる。
このまま1年を待たずに放り出されたら、私はどこに住めば良いのだろうか?きっとあのプライドの高い父のことだ、出戻りの娘なんて受け入れるはず無い。
住まいどころか、生活費は?
勉強が出来てもそれ以外の知識は皆無で。アメリカ留学もフランスでの生活も、全部知らない間に誰かが整えてくれたので、国内と言えども1人で暮らせる自信が無い。
そんなことを考えていたら1日が過ぎた。
「え?今日も帰れないのですか…」
「ああ、いま抱えている案件が難航していて。今日だけでは無くて1週間ほど外泊するかも」
「一週間も?」
「ごめん、茉莉子。毎日連絡は入れるから」
余りのショックにその後の会話は覚えていない。
そうか、きっとコトリさんの方が良かったんだ。可愛くて、開けっぴろげで、屈託の無い彼女と一緒にいる方が心地よかったのだろう。
ニセ嫁の身で文句など言えるはずも無く、冷静になった私は自分の将来について考えてみる。とにかく、いま一番必要なのはお金に違いない。これまでは基本、カード払いだったけど、現金を手に入れるにはどうすれば良いのか。
働く?
でも、どうやって??
そう言えばフランス行きが決まった際に母が、預金口座へ幾らか入れておいてくれたはず。ゴソゴソと通帳を探し出すと、かなりの額が入金されており。当面は働かなくても食べて行けるようだが、これはいざという時に残しておこうと決めた。
「やっぱり働いてみようかな…」
ネットで求人情報を検索すると、驚くほどたくさん選択肢が有り。帯刀家の関係者にバレず、通勤が15分以内という好条件に唯一引っ掛かったのが、近所のレストランでの皿洗い。当面、夜は無理だろうとランチタイム限定で希望したところ、無事に面接を通過。
後々のことを考え履歴書には独身と記入し、それ以外は正直に本当のことを書いた。個人経営のお洒落なイタリアンの店で、イケメン店長のせいかとにかく人気らしい。
「うわっ、T大卒業してるの??しかもル・コルドン・ブルーの本校で学んだ?てことは、たまにドルチェを作って貰えるかな」
「はい、喜んで」
絶対に断られると思ったのに、あれよあれよという間に採用決定。ドルチェ作りもさておき、他の希望者は明らかに店長目当てだと分かったが、私にはソレを感じなかったからというのが採用の決め手となったらしい。
暫くは週3日の試用期間ということで、午前9時30分から午後3時までの勤務。お義母様には『料理教室に通い、その後は教室仲間と遊んできます』と嘘を吐き、張り切って働き始めてみたところ…。
「え、嘘。もう洗い終えたの??」
「はい、他に何か仕事が有れば仰ってください」
「冗談だろ??もうセッティングも済んだのか」
「はい、修正点などあれば遠慮なくご指摘を」
「ちょ、何この超ハイクオリティな賄い!!」
「本日はプロバンス風にしてみました」
何故かチヤホヤされまくり、こんな私でもお役に立てたようだ。
「ごめん、茉莉子ちゃん。悪いけど週3日じゃなくて毎日出れる??」
「あ、はい。ご迷惑で無ければ」
「なっ、迷惑なワケ無いだろ?!本当に助かってるしッ。もう夜の部にも来て欲しいくらいだよ」
「よ、夜はムリなのです。申し訳ありません」
くるくると忙しくしていると、余計なことを考えずに済むので有難かったのだ。
…この調子でいつの間にか1週間が過ぎた。
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