かりそめマリッジ

ももくり

文字の大きさ
102 / 111
<茉莉子>

その102

しおりを挟む
 
 
「いや、違うよ。なんかそういうんじゃなくて。最初は無表情で怖いし、学歴とかメチャ凄くて扱い難いんじゃないかって懸念してたんだよね」
「無表情で怖かったですか、私…」

 ハッキリ言って自覚は有る。有るけど面と向かって言われるととても悲しい。

「ちょ、ごめ、落ち込まないでッ」
「いえ、気にしないでください」

 ションボリとする私に、店長は必死で弁解する。

「今は全然違うよ。だって俺、茉莉子ちゃんに関してはもうプロ並みなんだから!その微妙な表情の変化で、喜怒哀楽を見分けられるまでに成長してるし。

 それはまるで…あ、育成ゲームって有るだろ?あんな感じで育ててるような気持ちになるんだ。

 なんか俺、自分で言うのも何だけど、すっごくモテるんだよね。だから相手のことを気にする前に向こうから告白して来たりして、なかなか恋にならないんだよ。

 だって自分の中で徐々に相手を意識する段階をいつもスッ飛ばされちゃうんだぞ?そのクセ向こうは『スキスキ』迫って来るし。

 そんなワケで、普通に接してくれる女性が物凄くレアと言うか、逆にそういうコの方を意識してしまうんだなあ。

 茉莉子ちゃんは正にそのレアタイプだから、ん?…あれ??意識してることになるか。なんか俺、支離滅裂だな。

 あれ?あれれ??
 なんか自分でも分からなくなってきた。

 とにかく、俺は茉莉子ちゃんを気に入ってて、メチャクチャ庇護欲を掻き立てられているし、俺の力で幸せにしてあげたいとも思っている。

 で、一分一秒でも長く一緒にいたいから、こうして好条件で住まいを提供するワケ。…ん??って、お、俺…」

 その後、顔を真っ赤にして店長は黙り込み。私は『まるで愛の告白みたいだな』と思いつつ、勘違いしないようにと自分を戒めていた。

「…ああいうのを、天然たらしと呼ぶんだな」

 そんなことを呟きながら無事に帰宅し、2階に向かって階段を上っていた。

 ったく。あれで色恋は関係なく、育成気分を味わっているだけなんだよとか言われても、普通は信じないよね?

>俺の力で幸せにしてあげたい…
>一分一秒でも長く一緒にいたいから…

 って、ええい!
 脳内で勝手にエコーかけてしまったじゃない。
 私以外の女子だったら100%落ちてるぞ!

 ていうか。傷心で自信喪失していたこの時期に、あんな優しい声で胸キュンなことを言われたら、さすがの私でもグラグラするって!

 トントン、ト…。
 残り2段で足を止めたのは、若い女性の声が聞こえたからだ。家政婦さんたちでも無い、もちろんお義母様でも無い声。

 なんだか嫌な予感がした。
 かと言って、ここにいても仕方ないので止めた足を再び動かす。

「早く奥様に言ってしまいましょうよ!どうして言えないんですかッ?!」
「中林さんには悪いけど、もう決めたんだ」

「だって、こんなコソコソするのは変です!お互いの為にもならないでしょう?!」
「シッ、声が大きいよ。両親は外出中だけど家政婦さんの耳に入ったらのちのち面倒なことになるじゃないか」

 …コトリさんの声だった。

 そっか、とうとう夫婦の部屋に彼女を招き入れるほどになってしまったのか。
 あは、あはははは。

 あまりの自分のバカさ加減に、おかしくて涙も出なかった。

 だって、これは偽装だからと平気なフリをして、結局はこんなにショックを受けているのだから。

>その場所は、私のだよ!
>勝手に入らないでッ!!

 そう叫びたくなる衝動をどうにか抑え、ドアも開けずにそっと階段を降りる。

 きっと離婚を急かされているんだろうなあ。私さえいなければ、榮太郎もコトリさんも幸せになれるのだから。

 いや、たぶん、お義母様もそうだ。
 コトリさんのことをすごく気に入ってるし、コトリさんだったら、お義母様が足繁く通う奥様たちの集まりに上手く馴染むことだろう。

 い、いかん。
 せっかく店長のお陰で浮上した気持ちが、急降下し始めたぞ。

「…う、ああ…っ、ひっ、ひっく」

 なぜ泣く?
 泣いたからと言って、どうにもならないのに。
 まったく、こんな自分は大嫌いだ。

 家政婦さんに見つからないようにと1階のポーチでメソメソ泣いていた私は、そのままフラフラと歩き出す。

 無意識に向かった先は、店長の元で。

「えっ?あれ、茉莉子ちゃん。どうしたの、忘れ物でもしたのかい?」

 相変わらず陽気なその笑顔に、プツリと何かが切れて、オンオンと大声をあげて泣いてしまう。

「よしよし、何か辛いことが有ったんだね?」

 店長はそのまま私を、優しく抱き締めた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします  結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。  ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。  その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。  これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。 俯瞰視点あり。 仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

社員旅行は、秘密の恋が始まる

狭山雪菜
恋愛
沖田瑠璃は、生まれて初めて2泊3日の社員旅行へと出かけた。 バスの座席を決めるクジで引いたのは、男性社員の憧れの40代の芝田部長の横で、話した事なかった部長との時間は楽しいものになっていって……… 全編甘々を目指してます。 こちらの作品は「小説家になろう・カクヨム」にも掲載されてます。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...