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<茉莉子>
その102
しおりを挟む「いや、違うよ。なんかそういうんじゃなくて。最初は無表情で怖いし、学歴とかメチャ凄くて扱い難いんじゃないかって懸念してたんだよね」
「無表情で怖かったですか、私…」
ハッキリ言って自覚は有る。有るけど面と向かって言われるととても悲しい。
「ちょ、ごめ、落ち込まないでッ」
「いえ、気にしないでください」
ションボリとする私に、店長は必死で弁解する。
「今は全然違うよ。だって俺、茉莉子ちゃんに関してはもうプロ並みなんだから!その微妙な表情の変化で、喜怒哀楽を見分けられるまでに成長してるし。
それはまるで…あ、育成ゲームって有るだろ?あんな感じで育ててるような気持ちになるんだ。
なんか俺、自分で言うのも何だけど、すっごくモテるんだよね。だから相手のことを気にする前に向こうから告白して来たりして、なかなか恋にならないんだよ。
だって自分の中で徐々に相手を意識する段階をいつもスッ飛ばされちゃうんだぞ?そのクセ向こうは『スキスキ』迫って来るし。
そんなワケで、普通に接してくれる女性が物凄くレアと言うか、逆にそういうコの方を意識してしまうんだなあ。
茉莉子ちゃんは正にそのレアタイプだから、ん?…あれ??意識してることになるか。なんか俺、支離滅裂だな。
あれ?あれれ??
なんか自分でも分からなくなってきた。
とにかく、俺は茉莉子ちゃんを気に入ってて、メチャクチャ庇護欲を掻き立てられているし、俺の力で幸せにしてあげたいとも思っている。
で、一分一秒でも長く一緒にいたいから、こうして好条件で住まいを提供するワケ。…ん??って、お、俺…」
その後、顔を真っ赤にして店長は黙り込み。私は『まるで愛の告白みたいだな』と思いつつ、勘違いしないようにと自分を戒めていた。
「…ああいうのを、天然たらしと呼ぶんだな」
そんなことを呟きながら無事に帰宅し、2階に向かって階段を上っていた。
ったく。あれで色恋は関係なく、育成気分を味わっているだけなんだよとか言われても、普通は信じないよね?
>俺の力で幸せにしてあげたい…
>一分一秒でも長く一緒にいたいから…
って、ええい!
脳内で勝手にエコーかけてしまったじゃない。
私以外の女子だったら100%落ちてるぞ!
ていうか。傷心で自信喪失していたこの時期に、あんな優しい声で胸キュンなことを言われたら、さすがの私でもグラグラするって!
トントン、ト…。
残り2段で足を止めたのは、若い女性の声が聞こえたからだ。家政婦さんたちでも無い、もちろんお義母様でも無い声。
なんだか嫌な予感がした。
かと言って、ここにいても仕方ないので止めた足を再び動かす。
「早く奥様に言ってしまいましょうよ!どうして言えないんですかッ?!」
「中林さんには悪いけど、もう決めたんだ」
「だって、こんなコソコソするのは変です!お互いの為にもならないでしょう?!」
「シッ、声が大きいよ。両親は外出中だけど家政婦さんの耳に入ったらのちのち面倒なことになるじゃないか」
…コトリさんの声だった。
そっか、とうとう夫婦の部屋に彼女を招き入れるほどになってしまったのか。
あは、あはははは。
あまりの自分のバカさ加減に、おかしくて涙も出なかった。
だって、これは偽装だからと平気なフリをして、結局はこんなにショックを受けているのだから。
>その場所は、私のだよ!
>勝手に入らないでッ!!
そう叫びたくなる衝動をどうにか抑え、ドアも開けずにそっと階段を降りる。
きっと離婚を急かされているんだろうなあ。私さえいなければ、榮太郎もコトリさんも幸せになれるのだから。
いや、たぶん、お義母様もそうだ。
コトリさんのことをすごく気に入ってるし、コトリさんだったら、お義母様が足繁く通う奥様たちの集まりに上手く馴染むことだろう。
い、いかん。
せっかく店長のお陰で浮上した気持ちが、急降下し始めたぞ。
「…う、ああ…っ、ひっ、ひっく」
なぜ泣く?
泣いたからと言って、どうにもならないのに。
まったく、こんな自分は大嫌いだ。
家政婦さんに見つからないようにと1階のポーチでメソメソ泣いていた私は、そのままフラフラと歩き出す。
無意識に向かった先は、店長の元で。
「えっ?あれ、茉莉子ちゃん。どうしたの、忘れ物でもしたのかい?」
相変わらず陽気なその笑顔に、プツリと何かが切れて、オンオンと大声をあげて泣いてしまう。
「よしよし、何か辛いことが有ったんだね?」
店長はそのまま私を、優しく抱き締めた。
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