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<茉莉子>
その101
しおりを挟む「その方の名前を教えてくださいませんか?」
「中田さんというんだ。ヨガインストラクターなんだって」
「おかしいですね。ヨガは1クラス定員20名で名札を付けているワケでも無く、自己紹介したワケでも無いので私を知っているとは考え難いのですけれども…」
「ああ、俺たちの披露宴に出席していたから、顔で分かったそうだよ」
だから私、ジムに通っていないんだってば!
動揺していることを悟られてはいけないと思い、薄い笑みを顔に貼り付ける。ここはダンマリコで通すしかない。
「料理教室とスポーツジムで平日の日中は殆ど出掛けて家にいないんだって?母さんが寂しがっているから、たまには相手をしてあげてくれよ」
「はい」
「そう言えばスイムコースに通っているのに、水着を洗っている気配が無いよね」
「自分で手洗いしているのです。榮太郎が帰宅する前には渇いて片付けるから、そう思うのかもしれませんね」
な、なんだなんだ。
ひたすらジーッと凝視されている私。
「どこに干しているんだい?家政婦さんたちは見たことが無いと言ってるよ」
「んに、2階の浴室でッ」
「へええ、ほおお。ウチの浴室にそんなハンガーを引っ掛けられるような箇所が有ったっけ…」
「はい」
「有るんだ?」
「はい」
い、意地悪っ!
本当は分って言ってるんでしょッ!
いいじゃん、そっちも色々と隠してるクセに。
「じゃあさ、茉莉子…」
「ああ、もう時間ですよ。これ以上、お迎えの車を待たせてはいけません」
シッ、シッ。
背中を向けた彼に、野良猫を手で払うような仕草をする私。ええい、突然振り返るなよッ。
「茉莉子、最近冷たい…」
「私は元々こんな感じですっ。さあ、早く行ってくださいってば!」
こんな女にしたのはアナタなんですよ。私だってそりゃあ、可愛い女になりたかった。でも、アナタが選んだのはコトリさんでしょ?
今更、可愛くなんてなれませんよ。
…………
そして、ようやく約束の日曜日。
「おはよう、茉莉子ちゃん。今日もご機嫌麗しそうだね。じゃあ、宜しく頼むよ!」
「はい、かしこまりこ」
やっぱり必要とされることは嬉しい。荒んだ私生活とはかけ離れた、店長の陽気さに心が癒される。
軽いように見えて仕事では手を抜かない店長は、ハンパ無い皿数を用意しており。その1つ1つを食べ、評価し、メニュー名や単価計算を綿密に考える。なんだかんだ言って、全てが終わるまでに4時間ほど掛かってしまった。
「う…わあ。いつもの半分の時間で終わったよ」
「えっ、今まで8時間も掛かってたんですか?」
「うん、たまに食通の友人とかに頼んで、同じように試食させてたけど捗らなくて。やっぱ茉莉子ちゃんは神だわ」
「それは大ゲサですって」
「ほんともう、噛めば噛むほど味が出てくる。冗談抜きで手放せないよ。あのさ、何だったらあの浮気男と早く別れちゃいなよ。で、この店の上で俺と一緒に住まない?」
「う…うほうほ?」
予想外の展開になりそうである。何度でも言うが、軽そうな外見とは異なり店長は非常に仕事熱心な男なのだ。だから、この優秀な人材(うふふっ)を囲い込もうとしているのかもしれない。
だって私、2人分くらいの働きをしているし。とっても頼れる、タフでクールな女だからっ!
「えと…ほら、俺、ここの3階に住んでるだろ。2階は倉庫になってて、空けようと思えば半分くらいスペースが出来るんだよね。申し訳ないけどトイレとかお風呂は俺と共同で、光熱費は無料でいいし、家賃も1万円でいいや」
「そ、そんなに安くていいんですか?!」
なんたる魅力的なお話。
「食事も昼夜勤務してくれたら賄いを出すし、そうすれば出費も減るだろ?」
「はい、すごく助かります!!」
こんな話、美味し過ぎて逆に怖い。まさかタダ働きしろとか言い出さないよね?それともこの豊満なボデーを狙ってる??
「フルタイムで入ってくれるようになったら給料も今の倍にするし、ゆくゆくは正社員に…」
「あのう、店長?どうしてこんなに良くしてくださるのでしょう」
「それは…その…。あまりにも茉莉子ちゃんが、か、可愛いから…」
「う…うほうほ?」
ちょ、愛の告白、キタ──ッ!!
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