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<茉莉子>
その111
しおりを挟むジワジワと胸が熱くなって、大粒の涙がポトンと落ちた。
ウザイとか思ってゴメンなさい。
店長はとってもいい人ですっ。
「あの、榮太郎ッ。わ、私、実はこの店で働いているの!これからも働き続けちゃダメかな?!」
とても優しく笑ったかと思うと、榮太郎は少しの間だけ考え込み。それから悲し気に首を横に振った。
ゴメン、と榮太郎は言い、ポツリポツリと理由を説明し出す。
「店長の言うことはごもっともです。茉莉子には逃げ場が無い。でも、それは結婚すると当たり前のことで、だからこそ覚悟を決めて欲しいんですよ。
帯刀の家に骨を埋める覚悟で頑張ろうと。
だって、俺も…。恥ずかしながら重責に負けそうになって、何度も逃げたいと思ったんです。でも、逃げ場所なんてどこにも無かった。
それで仕方なく留まり、足掻きながらも自分自身でどうにか折り合いをつけ、少しずつ強くなれたと思っています。酷な言い方をすれば、逃げ場所なんて無い方が人間は成長出来る。
周囲が心配するほど、茉莉子は弱くない。茉莉子はこう見えて物凄く強い女なんです。…それと、茉莉子」
突然名前を呼ばれ、私は思わず姿勢を正す。榮太郎は真っ直ぐな視線をこちらに向けた。
「はっ、はい!」
「ファミリーレストラン、カフェ、居酒屋に焼き肉店、中華料理店にファーストフード…帯刀グループに多くの飲食店が含まれているのは知っているよね?」
「はい、知っています」
「食品会社はもちろん、厨房機器、店舗家具、サービス産業向けのユニフォーム販売会社も全て帯刀グループ内に存在する。分かるか?飲食店に絡めて多くの利益を発生させる為だ」
「そう…なんですか…」
「『大きな企業だからと気を緩めず、少しでも利益を上げろ』とお祖父様は社員教育してきた。その真摯な姿勢に感化され皆んな頑張ったんだ。
だからいずれその跡を継ぐ者の妻が、帯刀グループとは無関係な個人経営の飲食店で働いていると知られれば、きっと波風が立ってしまうだろう。
『自分たちには少しでも利益を上げろと言っておいて、お前たちの身内はそうじゃないのか?』…そう言われてしまう可能性だって有る。
神経質になり過ぎだと笑われてもいい、出来れば不安材料は取り除いておきたいからな。
茉莉子、苦労ばかり強いるようで申し訳無いが、今後はどんな理由が有ろうともここでの宿泊は禁止するし、この店でのバイトも諦めてくれ」
そこまで言われれば『ハイ』と答えるしか無く。店長も『じゃ、バイトじゃなくて食べに来てよ』とだけ明るく言って去って行った。
これでもう逃げ場所は無くなったワケだが、なんだか私は妙にスッキリしていた。本当に榮太郎の妻になるという意志が固まったというか、本腰を入れて頑張ろうと思ったからだ。
「茉莉子、これからは逃げる前に俺に言うんだ。どんなことでもきちんと話し合おう。いつでも帰る場所は俺のところしか無いはずだ。だから…その、もう絶対に俺を1人にするなッ」
「…はい」
思わず笑ってしまいそうになる。
なんだ、結局はそこなのね??
店長もアヤさんも去り、2人きりになった途端、乙女王子になってしまうんだな。
「榮太郎、もしかして店長にヤキモチ妬いた?」
「うっ、うん…」
「ぷっ。可愛いぃ」
「可愛いとか言うなッ」
温厚で清らかで優しい天使が、私の前でだけ本性を見せるのだ。それはとてつもなく光栄なことに違いない。
頬を染めて、彼が私を見つめている。
だから私も見つめ返した。
「茉莉子は俺だけ見てればいいから」
「はいはい、見てますよ」
ああ、もう。可愛いなあ。
私の愛した男はとんでもなく可愛い。
「本当にもう、茉莉子は…可愛いなあ」
その呟きを聞いて、思わず吹き出してしまう。
…どうやら私たちは似た者夫婦らしい。
--END--
──────────
[お知らせ]最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました。実はこのあとアヤさんメインのお話が続くのですが、あまりにも長くなってしまったため別作品として投稿します。
本話と同時にUPしましたので、よろしければ読んでみてくださいませませ。タイトルは『昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする』です。
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良かったぁーーー(大きなため息)
ってえ?又波乱の幕開け!?
いいえ、もう波乱な展開はございません。
思わせぶりなクセに、ネタバレも臆さないこの潔さ(自分ダイスキだな、私)!!
そんでもって、アヤさんが主人公となったお話を別作品として投稿予定です。近日中にUP出来るかと思いますので、こちらも宜しくお願い致しまーす。
ええ!!??
妖魔様ぁーーー
妖魔ならば、問題をすべて解決してくれそうですが。でも残念、ここで妖魔は登場しないんですねー。くふくふ。
少しだけモダモダしながら、次の更新をお待ちくださいませ。
面白くなってきたぁー!!
榮太郎の頑張りが楽しみ😊
ココスマイルさま
盛り上げてくださって、誠にありがとうございます。
ええ、本作はもちろんのこと、私のモチベーションもアゲアゲになりましたよ‼残念イケメンと地味な女の子の組み合わせが大好物なので、この先もきっと意図せずイチャコラしてしまう展開となるに違いありません。
乞う、ご期待(←言い回しが古い)。