異世界ハニィ

ももくり

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8.麻バンドとクロネコとニーなんちゃら

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「私はアーサーヴェルトだ」
「こんにちは、高橋モモです」

 なんか『こんにちは』って間抜けだけど。まあ、いっか。えっと、とりあえず王子様ふうの若者Aがアーサーベルト…って、これじゃあ麻ベルトだわ。きちんと下唇を噛んで発音しないとダメなヤツよね。ヴェ、ヴェっと。

「クロノスゾネスだ、宜しく頼むぞ」
「こちらこそ、宜しくお願いします」

 なんつう覚えにくい名前!ちょ、クロネコがどうしたって?ああもう、いっそ若者Bと呼ばせていただきたい。

「最後に、ニールニアロウだ。あれから体調は大丈夫か、モモ嬢」
「もう平気です。ご心配おかけして申し訳ありませんでした」

 若者C、とてもいいひと…。 
 
 でも、残念ながら名前は覚えられない。というか、3人とも難解すぎる。もう既にクロネコしか頭の中に残っていないんですけど。

 麻…バンドだっけ?
 んで、クロネコと
 ニー…なんちゃら。

 ま、一緒に生活していくうちに嫌でも覚えるか。

 それより、向こうが私を気に入っていないということが早い段階で分かって良かったのかも。だって、知らないままマドンナ的な立ち位置で振る舞っていたら、ただのイタイ奴じゃない?

 実を言うと、少し…ううん、本当はとても落ち込んだ。だけど、思いっきり落ち込んだら、後は浮上するしかないから。

 私、自慢じゃないけど打たれ強いので!

 だって、父親が分からない子として生まれ育っていると、心無いことを言ってくる人達がどんなに多かったことか。いちいち傷ついていたら、それこそ敵の思うツボ。与えられた時間は限られているのに、誰かを恨んだり、妬んだりすることに使うなんて無駄だし。そんなことに使うくらいなら、綺麗なものを見たり、美味しいものを食べたり、皆んなでワイワイ騒いだりしたい。

 ねえ、さっきの誰かさん。
 私のことを好きだと言ってくれて、ありがとう。あんな状況だったからこそ、百倍嬉しかった。味方がいると思うだけで、これからも頑張れる。願わくば、貴方の期待を裏切らない私でいたいな。

 うん、まずは楽しもう。

 ここで始まる生活を、
 とことん楽しんでやろうじゃないの!
 

 
  
 とか決心していたら、ノノくんに肩を叩かれた。

「高橋モモさん、ちょっといいかな」
「え、あ、はい」

 挨拶の途中だったが、若者3人は魔獣が襲ってきたため緊急出動となるらしい。仕方ないので、このまま私はノノくんと彼等が戻るまで待つことに。師匠は年齢層の高い3人組とどこかへ消えていく。

 ちなみに彼等は、国境軍人を引退した…つまり先代なのだそうで。通常は引退してもこのまま当代の相談役として残り、更に年を重ねれば戦闘用魔獣のお世話係になると言う。

 なんだか切ない人生だな、などと思っていたら、
 ノノくんにデコピンされる。

「同情するなら、相手に分からないようにしろよ」
「え?」

「バレバレなんだよ、お前」
「でも、普通だったら既に結婚して子供なんかも生まれてる年齢なのに、彼等はこのまま家族を持たずに一生を終えるんだよ。それも、自分が志願したワケでも無く、周囲の勝手な都合で。誰にでも与えられるべき当然の権利を、彼等だけが受け取れないなんて…そんなの、おかしく…ない?」

 一瞬だけ、ノノくんは優しく笑い。
 それから私の両頬をグニッと引っ張った。

「お前、片親で勝手に同情されたりしただろ?」
「う、うん。勝手に寂しいだろうとか、大変でしょうって同情された」

「でも、実際はどうだ?」
「実際は、近所の人が構ってくれてそんなに寂しくなかったし、家事も好きだったからさほど大変でも無かったよ」

 な?勝手に決めつけるな、とノノくんは言う。
 生まれてずっと国境という閉鎖的な場所で過ごす彼等は、一般的な生活を見たことも無いし、知りもしない。比較対象が存在しないからこそ、自分の人生が悲惨だと思っていないんだよと。

 だから、変に同情して、
 彼等に気付かせてはいけないのだと。

「それにさ、俺も最初は高橋モモさんと同じで勝手に同情してたんだけどな。実際にその生活を覗いてみると、なんていうか、中学とか高校で仲のいい男友達とバカ騒ぎして過ごす感じ?アレが一生続くんだぞ。彼等は彼等で楽しくやってるから、憐れんだりしたら失礼だ」
「…うん、そうかもね」

 
 え。

 ふと、その手が私の頬から離れ、
 再び触れたかと思うとそっと撫でられた。

 この手の感触を、私は知っている。


 まさか、あの、
 私のことを好きなのって、
 
 もしかして、ノノくん?!
  
 
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