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21.公爵令嬢の策略
しおりを挟むアーサーヴェルトらしき人物は、こう言った。
自分は定期的に王都で暮らしていたから、それなりに女性と接する機会も多く、知らぬうちに審美眼が養われてしまったのだと。しかも、王太子に御目通り可能な身分の女性ともなれば全てに於いて優れ、元婚約者だった公爵令嬢のクリスチアネはその最たるものだったと。
「実は、クリスチアネに入れ替わりのことを気付かれてしまいまして」
「は?!それは大丈夫なのか?」
入れ替わり?
…ということは、やっぱりこの人がアーサーヴェルト本人で、国境にいるのは別人なのね。
「これはコンスタンティンも知っております。婚約破棄前にクリスチアネが俺とコンスタンティンの入れ替わりについて指摘し、最初はこちらも否定していたのですが、彼女から証拠を突きつけられて認めるしか無くなってしまったのです」
「ふむ。そうか、婚約者ともなれば他の女性とは違い、些細な違和感を見逃すことが出来なかったのだろうな」
「ええ、彼女もそう言っていました。それから俺は、例の男爵令嬢に夢中になったコンスタンティンと1年ほど入れ替わって貰えず、その間に婚約破棄が成立。先日、そんな彼女から面会を求められたので、秘密裡にこちらへ招いたのですが…その…」
「ん?なんだ、言ってみろ」
ぱち。
自分でもビックリ、瞼が開いたんですけどっ。今回は暗示の利きが弱かったのか、早々に身体が動かせるようで。えっと、でも、まだまだ内緒話を盗み聞きしたいから、寝たフリは続行で。
「俺のことを…慕っておりますと」
「なんだそれは。確かクリスチアネ嬢は侍従の男と結婚したのではなかったか?」
「子爵位を持つ侍従との結婚は、他の縁談を避ける為の偽装だと。いや、それどころか婚姻手続きは実際には行なっていないと申しておりました」
「…なるほど、そうきたか。大方、教皇でも買収し、それから自分達に都合の良い情報を広めさせたのだろうよ」
「クリスチアネは国境で暮らすことが出来ないけれど、せめて俺の子を生みたいと、そう言っているのです。だからモモ嬢の話は有り難く思いますが、俺以外の男でお願い出来ませんか?」
「はッ、なんと小賢しい真似を!」
めちゃくちゃ怒り口調のノノくん。てっきり自分の要望を断られたせいかと思えば、続けて理由を述べてくださった。
淑女の鑑とも呼ばれているクリスチアネは、嫋やかな外見とは真逆で非常に苛烈な性格をしているのだと。また、彼女の父親であるエズモント公爵も、人あたりよく振る舞ってみせてはいるものの、実際は娘と同じで怒り出すと手が付けられなくなることで有名らしい。
「現在、王太子に釣り合う魔力持ちの女性がいないことを幸いにして、自分が王太子と復縁することは有り得ないから、王家の血を引くアーサーヴェルトの子を生み、その子を王位につけようと目論んでいるんだろうよ。最終的には我が子を傀儡として、王政を我が物にしようとしているのがミエミエだ。アーサーヴェルト、お前、大抵のことは秀でているが、こと色恋沙汰に関してはダメダメだな。あんな女狐に引っ掛かって、この国を破滅させるなよ」
「そんな、まさかあのクリスチアネが…」
ノノくんいわく、今回の婚約破棄に関しても、あのエズモント公爵親子が男爵令嬢ごときを好きにさせていたのがおかしいと。もしかすると、生真面目で融通が利かないコンスタンティンを退場させ、新たな傀儡を操るために謀ったのかもしれないと。
ん?なんだか不穏な話になってきちゃったぞ。
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