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35.モモ、身の程を知る
しおりを挟むここで私はふと気付く。
あれ?もしかしてコンスタンティンもそういう考えだったのかな。
魅了のせいとは言え、婚約破棄なんぞしてしまったせいで、王家存続が危ぶまれ。それを自力でどうにか解決しようとしたのかもしれない。たまたまそんな時に魔力の多い私が王城で暮らすことになって、ここぞとばかりに言い寄ってみたのだとすれば…。だってあの人、とっても責任感が強いから。
あー、そっかあ。
そりゃ、そうだよね。
侍女は勿論、洗濯係や調理補助の女性ですら美人揃いのこの王城で、なぜ選んだのがこの私だったのか。普通に考えれば分かるはず。
>知らなければ諦められたんだ。
>だけど、知ってしまった。
>どうか俺を選んでくれないだろうか。
あんな熱心に口説いてきたのは、何もかもこの国のため。つまり、あれは全部演技だったに違いない。って、ひゃあ、本気にしてしまったよ。やだ、もう、恥ずかしい。コンスタンティンが欲しいのは、自分の子を生んでくれる魔力が多めの女性というだけで…私自身が欲しいワケじゃなかったのに。
「よし、分かった。モモちゃんは国境に連れて帰るぞい!そもそも、娘ひとりを国境に置いておくのは忍びないとノノが騒ぐから、ここに滞在することになっただけで。ワシと一緒ならば国境で暮らしても大丈夫じゃろうて。絶対にあちらの方がモモちゃんにとっては安全じゃからな。こっちは人が多過ぎて、逆に危険だからのう」
「なっ、何を仰るのですかドゥオモ殿?!せっかく妃教育が順調に」
「なに勝手に教育させておるのじゃッ。連れて帰るったら、連れて帰るぞっ」
「お願いです、考え直してくださいませんか」
うん、そうだな。
帰ってしまおう。
コンスタンティンに会って、身の程を知ってしまうのは辛い。というかそれ以前に私は、王族に嫁げるような器でも無いし。
「私、国境に帰ります」
──いつもならばこんな時、コンスタンティンが交信してくるはずなのに。それが無くておかしいな、と思ったのだが。その翌日、師匠と共に国境へと転移し。汗ばんだ手を風魔法で乾かそうとして、漸く気付いた。
「あれっ、もしかして私、魅了だけじゃなくて、それ以外の固有魔法が…全部消えてるかも」
「おほお?」
改めて師匠が「簡単な鑑定しか出来ないんじゃが」と前置きしつつも確認してくれたところ、本来所有していた『吸収』と、師匠の『不老』以外は消えてしまっていることが判明。そうか、なるほど、それでコンスタンティンは昨晩、話し掛けてくれなかったのか。
なぜか安心している自分に、戸惑うばかり。
「あれっ、師匠…と、モモちゃん?!わお、お帰りいい」
「ん?ニーニだあ!ただいまですう」
わふわふと尻尾を振って駆けていく私の視界に、何か孔雀のようなものが入り込んだ気がして。ゆっくり視線を移すと、驚きの人物がそこにいた。
すんごい縦巻きロール!
すんごいハッキリクッキリの顔立ち!
すんごい片手で掴めそうなウエスト!
すんごいゴージャスなドレス!
何もかもが、この国境では浮いている。思わずウッと怯んでしまった私を、誰も責めはしまい。
「な、なぜクリスチアネ嬢がここにおるんじゃ?」
「へっ?し、師匠、では、あの方が」
不適な笑みを浮かべるその人が、王太子の元婚約者らしい。
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