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61.敵地へ
しおりを挟むこのままではノノくんが生きている限り、つけ狙われてしまう。だとすれば…。
「待って!今からこの結界を解きますッ」
「ふん、さっさとそうすれば良かったものを」
ようやく私は覚悟を決めた。
これからは時間勝負だ。結界を解く直前にアーサーと交信し、すぐにノノくんを助けに来るよう要請する。治癒が中途半端になってしまったが、あちらにも治癒魔法を得意とするルイがいるから大丈夫だろう。そして私はアーサーと入れ替わる形で転移する。転移魔法は師匠から吸収したので、師匠が訪れた場所にも行ける。その一覧は既に頭へと叩き込んであるし、師匠直々に特訓も受けた。
できる、絶対にできる。
「さあ、一緒に行きましょう!」
「なっ、なにをするッ、離せ、無礼者おおお」
結界を解くと同時に第三王子の腕を掴み、2人一緒に転移した先は…。
「ひいいいいっ、な、し、失礼しましたッ、リオン王子殿下っ」
空間にポッカリと穴が開き、いきなり人間が降って来たのだ。驚くなという方が無理な話だろう。腰を抜かした文官らしき男性が、驚きのあまり書類を手放し。吹き荒れる風に乗って散乱するそれを、拾おうとする人々で渡り廊下は大混乱。初めて訪れたにも拘らずどこか見知った場所であるような気がするのは、ケイゼル先生が貸してくれた資料にその絵が何度も登場したからに違いない。
ここは、敵国・アシュガルトの王城だ。
イシュタールの王城は質実剛健といった感じだったが、さすが大国アシュガルド。渡り廊下の柱にすら美神を模した彫刻が施されており、豪奢な雰囲気を醸し出している。ケイゼル先生から受けた授業によれば、アシュガルトの人口はイシュタールの約3倍。そのうち魔力を持つ人間は僅か71人で、その殆どが王族や高位貴族なのだと。もしかするとそれはイシュタールと同様に、魔力が無ければ嫡子として認められないため、敢えて魔力持ち同士で婚姻を結ばせているからかもしれない。
「なぜ我がアシュガルド王国に転移した?!貴様、いったい何をするつもりだッ」
「あのね、私、考えたんです」
「な、何をだ」
「ノノくん…ノウゼンノットハルト・ローゼンクランツが貴方の魔力を奪ったのでは無いと信じていただくには、私が魔力を奪えることを証明してみせれば良いのだと」
そう、だから今から私はそれを実行するのだ。
「は?」
「ふふっ。そうだわ、もっと早くそうすれば良かった。この国の魔力持ち全員から、魔力を奪ってしまえば…ノノくんの命も守れるし、イシュタールには戦人形が要らなくなる」
「そ、そんなことが…出来るはずないだろう…」
「私ね、当初イシュタールにいる57人の魔力持ちから少しずつ魔力を吸収する予定だったんです」
「バカな!有り得ない、魔力をそんな風に奪うなどとっ」
「残念でした、私の固有魔法は『吸収と培養』。少しだけ魔力を奪い、それを更に己の中で増やすことが出来るんです。そして魔力を溜めておける器は、ほぼ無限。だから、この国から魔力持ちを皆無にすることも可能なんですよ」
すべてを一気に話し終えた私は、緊張しているのを悟られまいと精一杯の虚勢を張り。ぎこちないながらも笑みを浮かべて見せた。
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